#02そうして少年は旅立ち、男は思い出に浸る
ライアスは主人公ではありません。
次話数から本編はいる予定です
行っちまったか……。
丘の上の小さな教会の外に立つ、木の下の木陰で涼やかな風を感じながら、俺は目を閉じ、教会の前に捨てられていた少年との記憶を思い出す。
あのころは何もかもが初めてで新鮮だったなぁ。
慣れない子育てで困り果てて、何度も村に抱きかかえて行って、手ほどきを受けたっけか。
夜中は泣くし、ションベン漏らすし、すぐ病気にかかるし、目を離せばどこにでも行きやがる。
本当に手がかかるガキだった。
確かあいつを鍛え始めたのは七歳くらいだっけか。
目を離した内にどっか行きやがったと思ったら、森で魔物に殺されそうになって泣いてたんだよなぁ……。
あんときは必死に育てた子供に何すんだって、怒り狂って森の魔物ほとんど殺しちまったんだっけか。
人を殺しまくって、同じような怒りを与えていた俺には、怒る権利はないんだろうけどな。
そっから毎日最低限自分を守れるように、鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて、いつの間にか俺には及ばないにしろ、めちゃくちゃ強くなりやがった。
やっぱ俺の使う剣技やら、特殊な魔法なんか教えたのはまずかったかな。
まぁ俺のこと忘れるような神になんか言われることもねえだろ。
んで去年の14の誕生日だっけか、冒険者になりたいなんて言い始めたのは。
あんなお人好しの世間知らずが、強い力持って街なんかに行こうもんなら食いもんにされるに決まってる。
一年間、口を開けば冒険者冒険者ってうるせえし、力を封印して弱くなってもいいなら許可してやるよなんて適当なこと言ったのが間違いだったな。
あんないい笑顔でありがとうなんて言われたら、あとからダメなんて言えねえよ。
あんな世間知らずが最初から強い力なんかを持って街に行くのも危ねえし、全部封印しちまっても弱すぎてそれはそれで危ねえし。
大きな感情の波に反応して少しだけ封印が緩むような、クソめんどい封印を考えて、半月かかって掛けといたし、簡単には死なねえことを信じよう。
まぁ封印って言っても、一度持ってた力だし、段々元の力に戻っていくだろうけど、その時にはこの小さな村まであいつの名前が聞こえてくるようになんのかねぇ……。
だめだな、全然想像つかねえや。
「おーいライアスさんや! でかい木の根が何人で引っ張っても抜けんのじゃ! 手伝ってくれんかのー?」
「あいよー、今行くー」
木陰から出て大きく伸びをし、心地良い風と日差しを受けながら、大きな坂をゆっくりと下る。
俺が人間と仲良くやってんのも、あいつを拾わなきゃなかっただろうが、こんな人生もいいもんだな。
それにしても、「歌にでてくるような冒険者みたいになって、友達をいっぱい作りたい」か……。
いい友達ができるといいなセンよぉ。