#01振り回される使者
命令のままに蹂躙する。
命令に従い行動する。
使者として神々の命を授かり、神々の名の下に行動する。
それだけで己のすべてが満たされていたような、盲目な時代が俺にはあった。
今考えるだけでも吐き気がする。
神々から力を与えられ圧倒的な戦力差で脆弱な人族と対峙する。退治する。
逃げ惑うものにも情けなどかけてはいけない。
男がいなくなった村で震える女、その女の腕の中で泣く子供にも容赦などしてはいけない。
只々神々の意思という名のもとで力を振るう。
長い長い戦いをこなすにつれ、俺はこの異常性をようやく感じるようになった。
向かってくるものならばいい、倒すだけだ。
だが逃げ惑う兵士や、村で怯える女や子供にまで手をかける必要があるのだろうか?
そんな神の意思があっていいのだろうか?
なぜ神々は俺にそんな命令を……そんな業を背負わせたのだ……。
いつものように天変地異でも起こして殺せばいいではないか。
理由など分かっているが、どうしてもこんな考えばかりが浮かんでしまう……。
要は人々に神の怒りを見せつけたかったのだ。
天変地異では神の行いと信じるものは少ない。
直接的な奇跡を見せたかったのだ。
そして俺はただ単に貧乏くじを引いたわけだ。
こんなクソみたいな命令も、もうあと少しで終わる。終わってしまう。
もう少しで人族は滅びる。そこまで俺は進んでしまった。
命令である以上は従うしかない。
俺がやらなくてもまた盲目な使者が送られてくるだけだ。
俺は覚悟を決めて、王都エルテリアへと足を向けた。
「ひさしぶりだねライアス!」
突如目の前に一人の少年の姿をした神の姿が映し出された。
「久しぶりだな。リヴェル」
「うん。順調みたいだね。人族の駆逐は」
「ああ。残すは王都のみだな」
「そっかー。ぎりぎり間に合った感じかな?」
「間に合ったと言うと?」
「いやね……。人族が神に赦しを請いはじめたんだよ。本来ならもう遅いんだけど、相変わらず上層部の神々は甘々でね。許してあげるんだってさ。だから君への命令を中断しなければいけないことを忘れている上層部に変わって、友達の僕が親切にも伝えに来たってわけだよ」
「命令の……中断か……」
「ふふ。君今一瞬すごい顔してたよ? まぁ僕が君の立場なら同じこと思うだろうけどね。 ちなみに今上層部は、この世界の子達の欲望が、なるべく他者を害さないようにする方法を、頭を捻って模索中だよ」
「そうか……。確かにそんな方法が確立できれば良い世界になるだろうな」
「怖い顔だなぁ。僕が君に命令したわけじゃないんだから睨まないでよ!」
「睨んでなどいないよ。むしろわざわざ伝えに来てくれてありがとうな。それよりどんな方法にしろ、大規模な改変の奇跡を使用するのだろう? また長い眠りについて力を回復しなければならなくなるはずだ。ここにいても大丈夫なのですか?」
「僕ら下っ端の神はもう魔力をある程度上層部に預けたから先に眠りにつくだけだよ。君を帰還させる魔法を使う力は残ってないから、多分上層部の神がそのうちすると思うよ!」
「なるほど、それまではここで待機すればいいってことか」
「まぁ君の命令を中断することすら忘れるほど、改変の内容を詰める為に頭を回しているから、もう少しかかると思うよ!」
「そのまま私のことを忘れないでくれることを願うよ。帰れなくなるのは困るからな」
「さすがにそれはないでしょ!」
「さすがにないか! ハハッ!」
「フフフッ! じゃあ先に戻るよ!! 戻ったら多分君もすぐに眠りにつくことになると思うけど、起きたらまた呑みにでも行こう!!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
目の前のビジョンが閉じる。
上層部は相変わらず考えに無駄が多い。
まぁ神々が大勢集まり会議などしてるから、意見の食い違いで無駄が起こるのは理解しているが、今回のはひどい。
つまり俺が殺してきた人々は、許しを請えばなんとかなる程度のことで殺されたのだ。
まぁ残った人族を殺さなくて済んだのだ、今はそれを喜ぼう。
そうして俺は眠りについた。
おかしい。
おかしいおかしいおかしい。
あれから半年が過ぎた。
だが一向に迎えが来ない。
連絡もない。
そしてなぜかこの世界で大規模な改変魔法が使用されたような形跡があるのだ。
地形の変化や魔物のようなものまで発生し始めている。
まさか本当に俺の存在を忘れてしまったのか!?
いくらなんでもそこまで抜けているわけはないよな!?
神々の眠りは長い。果てしなく長い。
もし眠りについてしまえば、俺はその間地上で生きていくしかない。
だが、人族を殺し回った俺が、人族に混ざって過ごせるのか?
俺の顔は手配書となって各地に回ってしまっている。
さびれた村やら、遠い辺境でもない限りは面倒なことになるだろう。
獣人族や魔族、他種族の領地に行く方法が一応あるが……。
いや、まだ神々が改変の奇跡を使ったとは断定できない。
一旦王都エルテリアに素性がバレないように変装して潜入することにしよう。
終わった。
あーあ……あいつらやりやがった。
馬鹿なの? 馬鹿なんですか?
ひっそりと王都に潜入したエルテリアの教会にいる神官が人々の強さを数値化する魔法を知っていた。
あれは俺達使徒や、神々しか知らない魔法のはずだ。
聞けば神々がこの世を変え、ダンジョンや秘境を作り、そこに挑む者達に自分たちの力を知るために神がわざわざ教えに来たらしい。
うん。教えに<来た>らしい。
今はどの国でもダンジョンに眠る宝などの存在を知り、国中の若者が我先にと群がっているらしい。
大体つかめてきた。
ようは他種族から奪う為の戦いが起こらないようにするために、宝が眠り、人を襲う魔物が生まれるダンジョンを作り、そちらに世界の子の意識を誘導したのだ。
やり方は上手い。実力不足の者がすぐに死なないように、強さの数値化を教えるのも正しいだろう。
だけど神官に魔法教えに来たのならついでに俺を拾っていけよ!!!
本当に忘れていやがったよ!!!
ふざけやがって!!!
これで俺はこの世界で長い時間を生きなければいけないことが確定した。
とりあえず素性がバレると面倒が起きるであろうエルテリアを離れることにしよう……。
エルテリアからかなりの距離を歩いたところにある、小さな廃村の離れにある古びた教会に住むことにした。
もちろん廃村だ、人などいない。
教会もかなりボロボロだが、住めないこともない。
それに教会という場所はやはり落ち着くのだ。
ボロボロでも、神聖な場所というのはやはり居心地がいい。
使徒は年は全然取らないし、病気はかからないし、怪我も一瞬で直せるが、腹も減るし、眠りもする。
だが、ここは雨風は防げるし、近くに川や山がある。
食べ物にも困らない。
さて時間はたっぷりある。
神々が眠りから覚めればリヴェルが俺が戻ってないことに気づく。
かなり笑われるだろうが、きっと神々に一緒に抗議してくれるだろう。
今はその言葉でも考えておこう。
そう時間はたっぷりあるのだ!!!
何年過ぎただろうか。
王都から少しずつ、人々は滅びた街や村の復興を始めた。
俺の住む教会から見える小さな廃村にも少しだが人が住み始めたようだ。
今ではすぐに俺の正体がわかる奴は生きていないだろうが、なるべくかかわらないでおくことにする。
困った。
非常に困った。
復興支援として、たまに食材を分けてあげていた程度の関係を村とは維持していたのだが、まさかこんな贈り物をしてくれるとは……。
今朝扉を開けるとビックリ仰天、可愛い可愛い赤ちゃんが貢物としてやって来ましたとさ!
「…………」
貢物じゃねえええええええ!!!
完全に捨て子じゃねえか!!!
俺に面倒見ろってか!?
お前が見ろクソが!!!
ちっくしょおおおお!!!
しばらく暴れたら落ち着いてきたな。うん。
まぁ仕方ない!
文句言ってても始まらん!!!
とりあえず村に連れて行って、誰の子か調べてもらおう。うん。落ち着け俺。
はい困った。
またも困った。
最近困ってばかりだ。
全部神が俺の存在を忘れるような馬鹿だからいけないんだ……。
あの後村で話を聞くと、村の人間の子ではないらしい。
この間村に娼婦を連れた商人の隊商が来たそうで、あるとすればその隊商の娼婦の捨て子だろうとのことだ。
んで、村では面倒見れないとさ!
自分たちで手一杯だよね!
わかる!!
わかるよ!!
すごいわかるよ同じ気持だもん!!
まぁでもそんなこと言ってたって状況は変わらんのだよな……。
だれも面倒見れないなら俺が見るしかないか……。
正直俺に子供を育てるなんて許されない。
何千何万という女や子供まで手をかけたのだ。
そんな俺が子供を育てる? 笑い話にもならない。
だが俺が見なければこの子は死ぬ。
そう。俺が殺すのだ。
罪滅ぼしになんてなりはしないが、これ以上子供を殺したりなどしたくない。
俺はギュッと手を握りこみ、決意を固めた。
どうも開拓の騎士です。
今回の一話に出てくるライアスは主人公ではありません!
宜しくお願い致します!