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王様の鏡   作者: ぽける
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プロローグ 暗い道

 プロローグ 暗い道


 ずっとずっと、暗いひたすら暗い道を歩いていた。そこにはただ何もなくて、ただ僕は前に向かって歩いていた。

 いや、前に向かって歩いていたというのは正しくないかも。はっきり言って、前に進んでいるのか右に行ってるのか左に行ってるのか、はたまた後ろに向かっているのか。まるで分らない。

 ただ僕は真っ暗な道をただ、真っ直ぐ歩いている。恐怖心は無かった。ただ僕は使命感にも似た、『前に進まなくちゃ』と言うことだけ思い続けながら、暗い道を、どこに向かうかもしれない道を歩いていた。

 しばらく歩いていると、少しずつ周りの景色が分かってきた。ぼんやりとだけど、ほのかに何かを感じる。うっすらとしたそれは、まるでトンネルの壁のようにも見えた。冷たい壁。

 なぜこんなところを歩いているのか。そんなこと、考えようとも思わなかった。

 だって、僕には記憶がないから。ただ僕に残っているのは『前に進まなくちゃ』と言う意思だけ。

 だから、恐怖心と言うか感情が無いのかもしれない。それでも僕は歩いている。自分の意志すら無いに等しいのに歩いている。

 何時間、何十時間歩いていて、やっとまた少し明るくなった。ちょっと疲れを感じていたけど、大したほどじゃない。

 何も感じない、まるで宙に浮いているような感覚だった足の裏に少し感覚が戻る。

 硬い。硬くて、冷たい。周りの景色は相変わらずトンネルの中の様な、無機質な冷たいアーチ状の壁。その先はまだ暗い。

 ふと、手に何か感じた。ふわふわで温かい。横目でちらっと見ると、僕は何かを抱えていた。ふわふわで大きくて軽くて、温かくて……やさしい。

 それが何かわからなかったけど、すごく大切なものだってことは分かった。ぎゅっと抱きしめ再び歩く。

 また数時間歩き続け、やっとまた明るくなった。周りはやはり、トンネルだった。足に鈍い痛みと、ぬるっとした感じがする。

 思わず立ち止まって確認してみると、足の裏の皮が破けて血がにじみ出ていた。僕はそれを人差し指で触ると、一口舐めてみた。

 まずい。変な味がする。思わず顔をしかめてしまった。

 歩き始めてさらに、十数時間。何かが聞こえだした。コォー。コォー。一定のリズムで聞こえてくる。

 しばらく耳を澄ましていると、それは自分の近くから鳴っていることに気づいた。

 辺りを見回してみる。何もない。あるのは無機質な壁だけだ。よく見ると、ところどころ劣化してヒビが入ってる。

 しばらく歩いていると、ひた。ひた。と言う音も聞こえてきた。一定のリズムで聞こえる。そして、その音もまた、僕の近くで聞こえている。

 歩くのをやめてみると、その音もやむ。相変わらず、コォー、コォーと言う音は聞こえるけど。

 僕は足を上げて下してみた。ひた、と聞こえる。この音は僕の足の裏から出ていたんだ。そう納得すると、今度はコォーコォーと鳴っている音を見つけたいと思った。

 前に進むたびに、僕に感情が戻って行っているような気がする。好奇心もふつふつと湧いてきた。

 同時に痛みも強くなってくる。足の裏の痛みは歩くたびに、体に響いてくる。それだけじゃなく、太もも、ふくらはぎ、腰、肩。前に進むたびにひどく痛む。

 コォーコォーと言う音は次第に不規則になって行った。あれからもう、何百時間たったんだろうか?

 トンネルの向こう側に光が見える。その光は最初、米粒大の大きさだったのが時間がたつたびにどんどん大きくなり、気が付くと僕より大きくなっていた。

 そして、ついに僕はその先に辿り着くことが出来た。とても明るい。何も見えない。

 体中に何か、冷たいものがぶつかってくる。痛くは無い。どうやら上の方から向かってきているらしい。

 上に顔を向けると、それは僕の目、鼻に入り込んできた。思わず顔を抑える。

「げほげほ」

 何か音がまた聞こえた。僕の口からだ。手を向けてみると、何か目に見えない柔らかいものを感じた。

 気が付くと、全身上から向かってくる冷たい物に包まれていた。僕が抱きしめていたふわふわのそれは、冷たく重く、だらりと垂れている。

 ひどく体にくっつくが、それでいてとてもサラサラしている。だが、目には映らない。見えない。辺りの景色が少し見えた。トンネルの壁の様な物が大量にそびえ立っている。いや、トンネルの壁とはちょっと違うかもしれない。

「君大丈夫?」

 声が聞こえた。振り返ると何かいる。見たことが無い。僕を見ている?

「迷子なのかな?」

 何を言っているのかよくわからない。けど、その何かを上から向かってくるものは避けている。どいう事なんだろう?

 気になって見続けていたら、もう一体現れた。

「大丈夫か? この子何か様子がおかしいぞ?」

 口から何かを発しているみたいだ。僕もできるだろうか? 僕は口に力を入れてみた。

「ぐっ……ぐ」

 駄目だ。なにも出ない。その様子に、目の前の何かは慌てだした。

「大丈夫!? お腹痛いの?」

「おい、フミ子。この子怪我してる。病院に連れてった方がいいんじゃないか?」

「それがいいかもねあなた。ねぇ君、自分の名前わかる?」

 僕の顔を覗き込んだそれは、何かを口から発している。そうか、息を出すときに力を入れればいいんだ。僕は息を吸い込んだ。そして……。

「くっ……くるる!」

 どうやら何か出すことが出来たらしい。目の前の何かは、それを聞いて何か喜んでいるようにも見えた。

「そうか。くるる君って言うんだ! よし、くるる君のお母さんがくるまでお姉さんたちが遊び相手になってあげるね」

 優しそうな表情で何か、口に発している。僕はそれに頷いた。何を言っているのかわからないけど、なぜかそうしたくなったんだ。

 僕は、その何かに手を引かれて連れて行かれた。僕はなぜだかとても安心していた。上から向かってくる冷たい何かはもう僕を避け始めていた。


 

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