喪失きかん
彼女との別れ。
全てを失った悲しみが、私の生きる力を失わせた。
別れたことを誰にも言えないまま、遊びの約束も飲み会も全て断り、部屋に籠もる日々が続く。
脳裏には彼女の笑顔が焼き付いて離れない、心臓は激しく痛むが止まる気配はない。
この苦しみに耐えることができず、親しい数名には別れた話を伝えることにした。
職場の同僚に話をすると
「え、別れたんですか?いつでもご飯につき合いますよ。高宮さんのおごりで!」
職場の後輩に話をすると
「え、別れたんですか?いつでも飲みにつき合いますよ。高宮さんのおごりで!」
職場のバイトに話をすると
「え、別れたんですか?いつでもデートしてあげますよ。高宮さんのおごりで!」
と、たかられる日々…。
そして、職場の女帝・吉田に報告すると
「高宮さん、おかえりなさい。わかってる。わかってるよ。居心地悪かったんでしょ?あなたは、こちら側の人間だから帰ってくると思ってたよ。さっそく歓迎会しましょう」
すると、その日に「高宮さんを励ます会」が開催され、会場では「HeartBreak高宮」=通称「HB」というあだ名、いや洗礼名を授かることになった。
破壊、喪失、再生という過程を得て、私は少し強くなっただろうか。
もう一度、向こう側の世界へ行くのはいつになるだろうか。