ジュニア冒険者 ユイとソロビッチ
わたしはユイ。
ジュニア冒険者をしている。
今日は、チカちゃんとりっちゃんと、三人で初めてクエストを受ける日だ。
パーティー名は〈ユメチ〉。
ユイ、チカ、
それとりっちゃんの冒険者名であるメーメー。
三人の名前を少しずつ合わせて作った名前。
でも、チカちゃんは言った。
「なんかさ、夢のチームって感じで良いじゃん!」
だからわたしたちは、そういうことにした。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい」
玄関を出て、靴音を響かせながら歩き出す。
目的地は、りっちゃんの家。
わたしの家から五百メートルくらい。
道の途中にある公園を横目に見ながら、わたしは端末を確認する。
――単発クエスト
――専職:物産
――内容:ゲームのテストプレイ
依頼者は、りっちゃんのお兄さん。
わたしたちは、パーティー名を決めたあと、最初のクエスト選びでかなり悩んだ。
ジュニア冒険者のわたしでも、選べるクエストは百以上ある。
でも――
昔の、心配性なママの顔が、頭に浮かぶ。
チカちゃんとりっちゃんも同じだったみたいで、三人で「安全なクエストを選ぼう」という話になった。
――評価が高い
――依頼実績が多い
――危険が少ない
そんな条件で探していくと、選択肢はどんどん減っていく。
生産クエストの「植物の剪定」。
護守クエストの「野菜の収穫」。
護育クエストの「子どもの見守り」。
どれも、悪くはない。
でも、やりたいと思えるクエストではなかった。
そこで、チカちゃんが言った。
「Fクエってどう?」
家族クエスト。通称Fクエ。
親、または親が認めた人が発行するクエストで、六歳から九歳のジュニア冒険者でも、親の同伴なしで受けられる。
つまり――
家族の手伝い。
―― やっぱり、正式なクエストがいいな。
わたしがチャットでその想いを伝えると、
チカちゃんとりっちゃんも賛成してくれた。
とわいえ、やりたいクエストは見つからない。
そのことを、りっちゃんが何気なくお兄さんに話したら、
「じゃあ、俺がクエスト出すよ。
単発クエを出せば良いか?ファミ登録しないでさ!」
と、言ってくれたらしい。
だから今回のクエストは、りっちゃんのお兄さんが依頼者。
内容は、ゲームのテストプレイ。
―― ゲームを作るって、どうやるんだろう。
なんか難しそう。でも、楽しいのかも。
考えながら歩いていると、もうりっちゃんの家が見えてきた。
「おはようございます。ジュニア冒険者のユイです」
インターホンに向かってそう言うと、
すぐに中から足音が聞こえた。
ダダダダダッ、と勢いよく近づいてきて、
ガチャッと音を立ててドアが開く。
「ユイちゃん! 上がってー」
顔を出したのは、りっちゃんだった。
いつも通りの笑顔で、手を振っている。
「お邪魔します」
案内されるまま廊下を進み、
一つの部屋の前で立ち止まる。
ドアを開けると、
中にはもう一人、見知った顔があった。
「ユイちゃん、おはよう!」
「チカちゃん!」
「おはよう」
三人目は、知らない男性の声。
りっちゃんのお兄さんだ。
机の上には、
ゴーグル型端末〈オルビー〉が一つ、置かれている。
「紹介するね。おにーの、嵩結」
「はじめまして。ユイです」
軽く頭を下げると、
お兄さんは、穏やかに微笑んだ。
「ユイって呼ばせてもらうね。
リカから聞いてると思うけど、今日は僕が依頼者だ。
僕は、オルビーを使ったゲームを作っていてね。今回はそのゲームの改善をしたくて依頼したんだ」
「ゲーム開発……すごいです!」
思ったままを口にすると、
お兄さんは少し照れたように笑った。
「ありがとう。
まぁ、まほらを使ってるからね。僕が作ったのはほんの少しさ。
あ、そうだ。チカとユイは、まほらで遊んだことあるかな?」
「はい。よくやってます」
チカがはっきり答えるのに対し、ユイは。
―― まほら? どこかで聞いたような。
と思ったが思い出せず、答えに遅れた。
「ユイは、ないかな?」
「はい」
「そうか。それはありがたい。
初心者の意見も聞きたいからね。
それでは早速、お願いしたいんだけど」
そう言ってから、ふと表情が固まる。
机の上のオルビーと、わたしたち三人を見比べて、
お兄さんは声を落とした。
「しまった。オルビーって持ってきてる?
てか、持ってないよね。リカも遊ぶとき僕の使うし」
りっちゃんに続けて頷くと、
お兄さんの表情はみるみる暗くなる。
気まずい沈黙。
それを打ち消すように、りっちゃんが口を挟んだ。
「じゃあさ。おにーの、貸してよ。
それしかないじゃん!」
お兄さんは一瞬考えてから、頷いた。
「そうだな。
チカ、ユイ。僕のだけど、使ってくれる?」
「「はい!」」
少しだけ、お兄さんの表情が明るくなる。
「ありがとう。
じゃあ、リカ。まずは君が装着してくれ」
りっちゃんはオルビーを受け取ると、
体操座りのような姿勢で顔に装着した。
「リカ、これコントローラー」
両手に一つずつ、受け取る。
「オルビー、VRモード」
「了解」
機械の声が、はっきりと応えた。
「オルビー。ソロビッチを起動してくれ。
モニター出力も頼む」
「了解」
モニターの電源が入り、映像が映し出される。
そこに現れたのは、ほうきのようで、杖のようでもある、不思議な道具を手にした少女だった。
半袖のワンピース姿で、服の細部まで作り込まれている。
――ゲーム、だ。
わたしは、思わず画面に注目した。
「あの杖は魔導杖。
このゲーム一番の特徴だよ」
お兄さんはモニターを指さした。
画面の中では、魔導杖を真横に振って決めポーズを取った少女が、すっと腰を落として走る構えをしている。
「性別は男も選べるけど……まあ今回は飛ばそう。
リカ、スキップ押して。チュートリアルからいこう」
画面に、コントローラーを持った両手のイラストが表示される。
人差し指でボタンを押すよう、点滅して合図していた。
「リカ、押して」
りっちゃんがボタンを押すと、少女は地面を蹴って走り出す。
すぐにまた、画面にコントローラーの表示が出た。
「次も押して」
今度は走りながら杖を両手で構えた少女が、ふわりと浮き上がった。
――飛んだ。
思わず、わたしは前のめりになる。
けれど、浮いたのは一瞬だった。
画面に、またコントローラーが表示される。
「飛び続けるには魔力を使う。
鳥が羽ばたくみたいに、魔力を放出し続けないと落ちるんだ」
お兄さんの声は落ち着いていて、どこか楽しそうだ。
「連続で放出すれば加速する。
でも、早すぎると魔力が枯渇する。
それと――」
彼は、りっちゃんの手を軽く握り、コントローラーを傾けてみせた。
「角度は、そのまま魔導杖の角度になる。
だから、向きと放出のリズムを同時にコントロールする。
それが、飛行操作の基本だよ」
「……すごい」
ユイは、思わず声に出していた。
「じゃあ、リカ。そのまま飛んでみて」
画面の中で、地面が途切れ、崖になる。
下は何もない空間だ。
でも、少女は落ちない。
魔導杖が淡い光を放ちながら、空を進んでいく。
「ほら、向こうに陸地が見えたでしょ。そこで着地」
りっちゃんが操作すると、
少女はふわりと高度を落とし、地面に降り立った。
そのまま歩く少女。
すると、バスケットボールのような大きな球を持った、がっしりした男性が現れた。
何の前触れもなく、山なりにボールを投げてくる。
そのボールは、少女めがけてゆるやかな弧を描いて飛んでくる。
ボールが落下を始めると、またコントローラーのマークが表示された。
向きを合わせるように、点滅して合図している。
ゴォォ……
りっちゃんが従うと、掃除機みたいな音が鳴った。
ボールは少しだけ軌道を変えたが、そのまま通り過ぎていく。
「惜しい」
お兄さんが笑った。
「今みたいに、
タイミングよく押すと、魔導杖で吸い込めるんだ。
もう一回やってみよう、リカ」
男性がまたボールを投げる。
山なりを描いて飛んでくるボール。
今度は――吸い込まれる。
「掴んだら、向きを変えて、ゴールに合わせる」
画面の奥に、バスケットボールのゴールが見える。
「そこでボタンを押すと……」
少女が杖を振る。
吸い込んだボールが、勢いよく弾き出されて、ゴールへ飛んでいった。
わたしは、息をするのを忘れて画面を見つめていた。
「じゃあ次、チカ」
「はい!」
チカは軽く返事をして、コントローラーを受け取る。
嵩結の説明に合わせて走り、飛び、着地する。
男性から投げられたボールも、一発で受け取り、
放ったボールはゴールに吸い込まれた。
「だいたい分かった」
そう言って、チカはあっさりオルビーを外す。
「うん、問題なさそうだね」
嵩結が頷き、視線をこちらに向けた。
「じゃあ、最後。ユイ」
「……はい」
差し出されたオルビーを受け取る。
ゴーグル型端末は、温もりが残っていた。
「装着して、ここに座って」
ユイは小さく頷き、前髪に手を添えてオルビーを顔に当てた。
次の瞬間。
――世界が、切り替わった。
目の前に、草原が広がっている。
「……え」
思わず、声が漏れた。
空が高い。風の音がする。
でも――自分の姿は、見えない。
代わりに、右手の先に細い杖が映っていた。
魔導杖。
「ユイ、これコントローラーね」
嵩結の声が、少し遠くから聞こえる。
同時に、左手の表示が現れ、勝手に動いた。
コントローラーを受け取ると、左手の表示は消え、
右手には魔導杖だけが残った。
「あ……ユイ、少女なんだ」
思わず呟く。
「そうだよ。じゃあ、まず歩いてみようか。
右手の親指でスティックを押してみて」
ユイは、恐る恐る親指を動かす。
すると、視界の下に右足が映り、
景色が、ほんの少しだけ前に動いた。
「離したら止まるからね」
そっと添えられた手が、親指を導く。
足が交互に表示され、草原が流れていく。
「よし。で、このボタンを押すと走る」
――走ってる。
理解するより先に、身体が納得した。
そのまま進むと、崖が近づく。
足元の地面が、途切れる。
胸が、きゅっと縮んだ。
「飛ぶよ」
嵩結の声。
ユイは、表示された通りにボタンを押す。
身体が、ふわっと軽くなる。
足が、地面を離れた。
「え、ふわ……わ……」
下を見ると、地面が遠い。
怖いのに、不思議と落ちない。
「羽ばたくみたいに、一定のリズムでスティック押して」
もう一度。
風を蹴るような感覚。
もう一度。
前へ進む。
「……飛んでる」
崖の向こうに、陸地が見えてくる。
自分が、そこへ向かっている。
「着地ね。親指を、自分に向ける感じで」
ユイは、スティックを押すのをやめ、コントローラーの角度を変えた。
視界が、地面に近づく。
「……できた」
ドタン。
着地と同時に、視界が一気に下がる。
「ひゃっ」
顔が、地面とぶつかった。
「あ、これは……」
嵩結の声が、少し近づく。
「ここは補足が必要だな。
……オルビー、開発モード。
着地の補足をチュートリアルに組み込んで」
「了解」
ユイの右手が、そっと握られる。
そのまま動かされると、右足が映り、視界が元の高さへ戻った。
「ユイ、今こけた?」
「うん。
着地したあと、そのまま止まると転ぶんだ。
勢いを受け止めるために、
ふわっと着地するか、着地姿勢をとるか、すぐ走りに移るか、何かしないといけない」
「へぇ……」
ユイは、草原を見回した。
怖かった。
でも――
「……おもしろい」
ユイは、魔導杖をぎゅっと握り直す。
少し進むと、景色が切り替わった。
開けた場所の向こう側に、大柄な男性が立っている。
両腕には、バスケットボールのような球を抱えていた。
「次は、遠投キャッチだね」
男性が、腕を振る。
球が、こちらへ向かって飛んでくる。
――早い。
思ったよりも、ずっと。
画面の端に、コントローラーの角度を調整してボタンを押すよう合図が表示される。
ユイは、右手の角度を調整し、ボタンを押した。
――ゴォッ。
掃除機のような音が響く。
球は、わずかに軌道を変えたが、
そのまま横をすり抜けていった。
「……あ」
「惜しい」
リカが言う。
もう一度。
今度は、少し早めに押す。
――ゴォッ。
音だけがして、球は吸えない。
「……むずかしい」
胸の奥が、少しだけ、ぎゅっとなる。
「ユイちゃん、杖の先見てる?」
チカの声が、外から聞こえた。
「え……杖の先?」
次の球。
ユイは、杖の先を意識する。
合図。
ボタン。
――ゴォッ。
今度は、球が杖の先に消えた。
――バシュッ。
そして球が、勢いよく弾き出された。
「……あれ?」
吸えた。
でも、持てなかった。
「ユイ」
嵩結が、少し考えるように言う。
「今のね、吸うのはできてる。
でも、溜める前に吐き出しちゃってる」
「ためる……?」
「うん。
この杖、吸うときと吐くときで、同じボタンを使ってるんだ」
ユイは、魔導杖を見下ろす。
「……知らなかった、です」
一瞬、間が空いた。
でも、嵩結は笑った。
「そう。それ、それ」
少し嬉しそうに。
「そこも補足しとこう。
オルビー、開発モード。
溜める補足をチュートリアルに組み込んで」
「了解」
嵩結の声が続く。
「いいね、いいね!」
「え?」
「リカもチカちゃんも、ゲームに慣れてる感じだから」
リカが、誇らしげに笑った。
「はい、よくパパので遊んでます」
チカは、くすっと笑った。
「ユイ。初めて、です」
次の球が、投げられる。
「ユイ。吸ったあと、ボタンは押しっぱなしね」
嵩結の声が、落ち着いている。
「振動がずっと続くのが正解だから」
ユイは、深呼吸をした。
球が来る。合図。ボタン。
――ゴォッ。
今度も杖の先に球が消える。
右手に振動。
「……あ」
「それ。今、持ってる」
ユイは、そのまま、ボタンを押し続ける。
「向きを変えて、ゴールに向けて」
ユイは、視線を上げる。
遠くに、バスケットゴール。
杖の先を向ける。
「今度は、離す」
ボタンを離す。
――バシュッ。
球が、一直線に飛んでいく。
弧を描いて――
ゴールに、吸い込まれた。
少し遅れて、音が鳴る。
「……入った」
「おお」
チカの声。
「やったじゃん、ユイ」
リカの声が、弾んでいる。
ユイは、その場でじっと立ったまま右手を見つめた。
「できた」
嵩結が、静かに頷く。
「どう? おもしろい?」
ユイは、魔導杖を握り直す。
「はい、とっても!」
「それじゃ、チュートリアルを続けるよ」
嵩結は、穏やかな声で言った。
「ここからは、まほらとほとんど同じだから、リカとチカは知ってるかもしれない。
そこで今度はユイから始めて、チカ、リカの順で進めよう」
二つ目のチュートリアルが始まる。
立っている場所は、さっきとよく似た草原だった。
どこまでも続く緑と、少し高い空。
けれど、同じ景色のはずなのに――どこか空気が違う。
「ソロビッチではね、まほらと同じで野生の動植物をワイル、魔物をアニマと呼ぶんだ」
その言葉に応えるように、遠くで草が揺れた。
現れたのは、獣のような影。
ウサギに似ている。
けれど、丸くて愛らしいというより、筋の通った、引き締まった印象を受ける姿だった。
その頭上に、淡く文字が浮かぶ。
――種族: ラビニ
――Lv.1
「最初にできる行動は三つだけ」
嵩結の声は落ち着いている。
「吸う。吐く。それと、魔導杖での打撃」
ユイは小さく頷いた。
「まずは、近づいてみよう」
次の瞬間だった。
草むらから、ラビニが弾けるように飛び出す。
「——っ!」
跳躍したラビニと、正面からぶつかった。
画面左上のゲージが、ほんの少し減る。
「え……今の、攻撃?」
「そうだね」
嵩結は、間を置かずに続ける。
「回避って文字が表示されたらボタンを押す。
と、回避行動が取れる。それから、打撃を押せば」
――カン。
軽い音とともに、魔導杖がラビニを捉えた。
ラビニはその場に倒れ伏す。
画面に、操作の指示が表示される。
魔導杖をラビニへ向け、右のボタンを押す。
従うと、青い光がラビニの身体から抜け、魔導杖へ吸い込まれていった。
ラビニ全体が、淡い青に包まれる。
やがて光がほどけると――
そこにいたのは、ただの野ウサギだった。
ぴくりと動き、跳ねるように意識を取り戻すと、そのまま草むらへ駆けていく。
「ラビニの魔素を吸い取ったから、元のウサギに戻ったんだ」
嵩結は、軽く笑った。
「じゃあ、チカと代わろうか」
チカがオルビーを装着する。
「次は仲間変異種だな。
ワイルに魔素を与えると、アニマが生まれるんだ。しかも仲間になる」
モニターの中で、少女が持つ魔導杖が淡く光る。
「どうしたの?」
ユイが尋ねると、チカが答えた。
「チュートリアルで、魔素をもらったの」
少女は、足元に咲く黄色い花――タンポポに杖を向ける。
ユイがモニターを見つめると、花は淡い光に包まれ――姿を変えた。
「「かわいい!!」」
三人の声が、ぴたりと重なる。
「かわいいよね。僕も好きなんだ」
嵩結は、嬉しそうに言う。
「ホワンポっていうアニマだよ」
「ホワンポ……」
チカが、確かめるように名前を口にする。
少女が歩き出すと、その後ろを、ゆさゆさと揺れながらホワンポがついていく。
その姿がほっこりする。
――と、思っていると。
いつのまにか、前方にラビニがいた。
しかも、二体。
チカはフレアニマのホワンポを守る形で前方に立ち、魔導杖で打撃を繰り返す。
二体のラビニは次々と気絶し、その場に倒れ伏した。
すると、少女の身体が、ふわりと淡く光る。
「レベルアップだね」
「ほんとだ! HPとMP、IPが上がったみたい」
「そうだね」
嵩結が補足する。
「HPは生きる力――生力。MPは魔力。IPは瞬発力だ」
少し間を置いて、
「じゃあ、魔素を吸収して、リカに代わろう」
少女が杖を向けると、
魔素が吸い取られ、ラビニは元の野ウサギへ戻る。
飛び起きて、一目散に逃げていった。
――
リカの番。
「仲間変異種を戦わせよう。……だって」
リカはそう言って、数歩進む。
すると、またラビニが現れた。
少女は動かず、ホワンポが前へ出る。
花びらが広がり、光が集い、放たれる。
光線はラビニに直撃し、そのまま倒れた。
「すごい!」
「かわいいのに、かっこいい!」
少女は、ラビニから魔素を吸収する。
「次は……連携だって」
ホワンポが、少女に向かって光を放つ。
それを少女は、魔導杖で吸収した。
杖の先を淡く輝かせたまま、数歩進み――
現れたラビニへと放つ。
ラビニは光に打たれ、その場で気絶する。
「すごい! あれが連携。魔法を使ったみたい!!」
ユイが興奮していうと、リカも同調した。
「だね! すごかった」
その間も、リカはコントローラーを操作して少女を動かし、魔素を吸収させる。
すると、今までとは違い、魔導杖が淡く光った。
「魔素もらった! 次は、進化?」
少女はホワンポへ向き直り、杖を向ける。
いつのまにかホワンポはLv.1からLv.10に上がっていた。
仲間のホワンポが光に包まれ、姿が変わる。
可愛さを残したまま、少し大きく、凛々しくなった。
「おぉー!!」「わぁ」「えぇー」
「1進化のホワタンポだね」
嵩結は、どこか嬉しそうに言った。
「アニマは進化するんだ。
どんな姿になるかは、育て方次第。そこも楽しみの一つだよ」
嵩結は、一拍置いて続ける。
「ここまでがチュートリアル。
これから難易度の調整を手伝ってもらうよ。
ソロビッチは、戦闘が2種類あるんだ。
一つはさっきのように、移動をコントローラーで。
画面に“打撃”とか“回避”って表示が出てたでしょ?
ああやって、使える技だけが表示されて、選んだあとはほぼ自動で動くバトルモード〈ワールド〉。
これはまほらと同じだね。
もう一つは、移動以外の動作――技や回避の予備動作がミニゲームになっているバトルモード〈マッチ〉。
攻撃、防御、回避の全部がね。
マッチは難易度が高い分、必ず一対一で戦える。
敵の乱入を気にしなくていいんだ。まあ、仲間の介入もできないけどね」
嵩結は、リカに手を伸ばす。
「まずは僕のプレイを見て。リカ、オルビー貸して」
リカからオルビーを受け取った嵩結は、開発者用と思われる画面を操作する。
「では、始めるよ」
モニターを見ると、ラビニの面影を残しつつ、より強そうで大きくなったアニマが現れた。
「ラビニの2進化。ラベーニだ」
ラベーニは、少女の動きを見定めるような鋭い眼差しを向ける。
「ラベーニの技は三つ。
超速度での突進。
二本の角の間に電撃を迸らせて飛ばす雷撃。
そして、雷撃を纏った角による突き上げ」
ラベーニは跳ねた。
するとコントローラーが画面に表示される。
「今は、ラベーニの初動から突進だと判断して、防御魔法を準備する。
相手の動作より短い動作でできる技を選ぶ必要があるから、どんな技でも良いってわけじゃない。
それに、どこに攻撃してくるかまだ分からないから、回避できない」
ほんの僅かな時間の後、ラベーニは加速。
目にも止まらぬ速さで直線的に、少女へ突っ込む。
すると、またゆっくりな動きになった。
コントローラーが表示され、嵩結は幾度も動かし、ボタンを操作する。
「攻撃は身体の中心を狙っているから、回避する。
あの角に真正面で当たったら、防御魔法が砕かれる可能性があるからね。
逆に、接触反動を防御魔法に付与したから、ラベーニの体が触れたら体勢を崩せる」
杖から白い膜が吐き出され、少女を包む。
ラベーニは軌道を変えようとしたが、突進の速度が早すぎて、白い膜にわずかに触れる。
体勢が崩れた。
すかさず、少女は反転し、魔導杖による打撃を加える。
だが、ラベーニはピンピンしている。
体勢を整え、電撃を放つモーションに入った。
その動きを見て少女は杖を前に出す。
吸い込む気だ。
雷撃は高速。タイミングが命取り。
攻撃モーションから放たれた雷撃は、何事もなかったかのように魔導杖に吸い込まれる。
雷撃を得た魔導杖は、ファンネル状の円錐部が神々しく輝き、消える。
「吸収した雷撃を保管したんだ。
上級以上の魔導杖でできるよ」
いつのまにか、先ほどまでの魔導杖より高級そうな見た目になっていた。
竹のような枝から、年季の入った木へ。
今度は少女が杖を振った。
円錐部を下にした逆さ持ち。細い方の先端は金属で覆われている。
距離的には全然届かない――そのはずだった。
ビューン。
円錐部から放出された爆風によって少女は魔導杖と共に加速して移動。
ラベーニは横へ移動して回避。
だが、少女は魔導杖を持ち上げ、ラベーニに向ける。
そのまま雷撃を吐き出した。
ジリジリ。ドゴーン。
まともにラベーニに当たるが、耐性があるのだろう。
あまりダメージを受けた様子はない。
「すごい……」
だが、雷撃は次モーションへの布石でしかなかった。
少女はラベーニの方へ向き、魔導杖を構える。
そこから蒼白い火球が放たれた。
ドゴーン。
それもラベーニに直撃。
ラベーニはその場に倒れ伏した。
「ふぅ……」
嵩結は息を吐き、操作を止める。
「……まあ、こんな感じだ」
ユイは、自分の鼓動が早くなっているのを感じていた。
それから、二時間ほど。
三人は交代しながら難易度:普通をプレイした。
チカちゃんとりっちゃんは、すごかった。
最初は何度もHPを全損し、戦闘をやり直していた。
けれど、次第に流れを掴んだのだろう。
二人とも、ラベーニに勝利していた。
一方で。わたしは、全然ダメ。
この戦闘は、交互に攻撃し合うものじゃない。
どちらが攻撃してもいい。
けれど、技を出す前にも、出した後にも、やることが多すぎる。
相手の技を予測して、先に最大二つの技をボタンにセットする。
攻撃を当てる位置を定める。
接近する経路を選ぶ。
技の角度に合わせて、コントローラーの向きを調整する。
移動のために、スティックを押し続ける。
考える前に、手が動いていないと、追いつかない。
今ので“普通”なら、さらに細かなモーション制御が求められるのだろう。
ゲーム初心者のわたしには――
料理よりも、ずっと難しく感じられた。
「今日はありがとう。色々と改善点が見つかったよ」
嵩結がそう言って、オルビーをテーブルに置く。
ユイは、少し下を向いた。
楽しかった。
それは、確かだ。
初めて触る世界で、初めて動かす身体で、
うまくいかないなりに、必死で考えて、追いつこうとして――
その時間自体は、間違いなく楽しかった。
でも。
悔しい。
指が、思った通りに動かなかったこと。
考えている間に、状況が先へ行ってしまったこと。
「わかった気がした瞬間」に、もう遅れていたこと。
胸の奥に、ちくりと残る感覚。
それでも。
「……すごいです」
気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
「こんなゲーム、作れるなんて」
嵩結が、少しだけ目を丸くする。
「そう?」
「はい」
ユイは、素直に頷いた。
悔しさと、楽しさと、驚きと。
全部が混ざったまま、でも、その奥に――
「……わたしも」
一瞬、言葉を探す。
「作ってみたい、って思いました」
部屋の空気が、わずかに変わった。
「ゲーム?」
「うん。」
「だよね! うちも作ってるの」
リカが、口を挟む。
「そうなの?」
「うん。まだ三日前に始めたんだけどね」
「すごい! チカもつくる!」
嵩結は、ふっと笑った。
「いいね。じゃあ、三人で作ったら?」
「え? みんなで?」
ユイは思わず聞き返した。
「いいね! 作ろうよ。ユイちゃん、チカちゃん」
「楽しそう。チカ賛成!」
「うん。ユイもやってみたい。
でも……作り方が」
ユイが俯くと。
「じゃぁ、おにーにまたクエスト出してもらおうよ。
その間に、どんなゲームを作るか考えるっていいじゃん?」
リカが笑うと、嵩結も頷いた。
「うん。それがいい。
ゲーム作りって、いきなり“作る”より、
まず“いろんな遊びを知る”ことが大事なんだ」
「遊びを……知る?」
「そう。世の中には本当に色んなゲームがあるからね。
まほらにも何百とあって、ソロビッチみたいなオープンワールドだけじゃなく、ボードゲームやパズル、運動系もある。
どんな遊びがあって、どんな楽しさがあるのか。
それを知らないと、作る側にはなれないと思うんだ」
ユイは、今日の自分を思い返した。
飛んだときの風。
吸い込めたときの振動。
成功したときの嬉しさ。
失敗したときの悔しさ。
その全部が、胸の奥でまだあたたかい。
「作る側のことは、僕のクエストを受けてくれるなら、少しずつ教えるよ。
いきなり全部は無理だけど、遊びながら覚えていけば大丈夫」
「じゃあ……またクエスト出してくれる?」
リカが、嵩結の顔をのぞき込む。
「もちろん。三人の予定が合えば、いつでも」
「チカ、あいてる!」
「ユイも!」
「じゃあ決まりだね。明日、またクエストを出すよ」
嵩結が笑うと、三人の胸が同時に高鳴った。
「よし、今日はここまで。帰り道、気をつけてね」
「はーい!」
三人はそろって立ち上がり、玄関へ向かった。
靴を履きながら、ユイはふと右手を見つめた。
魔導杖を握ったときの感覚が、まだ残っている。
「明日、楽しみだね!」
リカが笑う。
「うん!」
「チカも!」
三人の声が重なる。
ユイは、夕方の空を見上げた。
―― 帰ったら、ゲームしよう。
少しだけ“作る側”の気持ちで。
その想いが胸の奥で、そっと灯った。




