第1世界
「来波君、お帰り。どう、楽しめた。」
転移して現れた来波に、青髪の青年がにこやかに質問する。
「楽しめたわけないじゃないですか。いきなり群れの中に飛ばされて、死んだと思いましたよ。」
来波の声は怒っているが、内心久しぶりの会話に喜んでいる。
そんな来波の反応に楽しそうな笑い声を立てている青年は、デューパ・デューパ。来波が先ほどまで行っていた、ライオンの世界・第18世界を創った神である。
「まぁまぁ、最終的には楽しめたんじゃないですか、第2世界の時も第5世界の時も、なんだかんだ楽しんでましたし。」
もう1人の女性が来波を宥める。
こちらはシェラル。『世界ランキング』の制作を担当しているこの世界の職員である。
ここは第一世界。
来波を召喚した神々が住む世界だ。
「報告書は届いています。後は自由に過ごしてください。」
シェラルさんが事務的に連絡事項を伝えると、来波は2人に軽く挨拶をするとその場から去る。
今いるのはデューパ・デューパの仕事場だ。
といっても、初めて来た人がゲームオタクやアニメオタクの部屋と間違えても可笑しくない内装をしている。
4畳ほどの部屋で、壁の至る所に映像が映り、部屋の中央にはキーボードらしき装置の乗った机がある。
壁の右側に出口があり、左側のかろうじて空いた空間に転移陣らしき紋様が描かれている。
外装は大きなキノコのようなデザインで、他にも同じ大きさの建物がいくつか見えるが、どれも外装のデザインが異なる。
ここは神々の仕事場が集るオフィス街、通称ビギー通り。
通りのあちらこちらに木々が生え、小さな建物たちがその木々に隠れるように建っている。
通りを抜けしばらく歩くと、次に現れるのは商店街。通称アリアナ通りだ。
神々は食事をしなくても生きていけるが、娯楽として味を楽しんでいる。
商店の店員や、建物の管理などを行っているのは、下級神と呼ばれる神様。
来波の立場から見ればこの世界に住む人は全員神様だが、実際は2つに分類されている。
世界を想像することができる上級神は、数万年という時を生きる。与えられた役割は世界を創り、管理すること。
その他の神は下級神と呼ばれ、人間より長命だが、精々100年ほど。子孫を残し、人間のように繁栄し続ける。
シェラルは下級神だ。
アリアナ通りも抜けて更に行くと居住区がある。
その中央辺りに位置する小さな屋敷が来波の、鑑定師の家だ。
屋敷の周りには小規模だが庭園があり、木々の手入れを週に1回来る庭師が行っている。
屋敷は石造りだが、窓が多く暖かい印象を与える。
2階建てで、食堂、厨房、書斎、応接室が1階に、鑑定師の寝室と内装の異なる4つの客室が2階にある。
鑑定師は下級神を数人雇い、従者として雇い食事の準備や掃除を任せるのが慣例だが、来波は断った。
それほど広くないから1人でも十分管理できると判断したのだ。
ただ、この広い空間に1人だと、時々寂しさを感じることもあるようだ。本人は絶対、そのことを口にしないけれど。
来波は屋敷に入ると、真っ直ぐ厨房へ向かう。
業務用冷蔵庫の中には、食材が揃っている。この食材は1週間分まとめて準備されて、来波が不在の間に入れ替えられている。
その中に、来波が自分で解体したあのライオン肉も入れる。
自分で奪った命だから、最後まで食べたくてデューパ・デューパに頼んで残してもらったのだ。
牛乳を取り、冷蔵庫を閉めると、その隣に置かれた戸棚からパンとインスタントスープを取り出す。
食器も取り出し、厨房の中で簡単に食事を済ませる。
久しぶりの肉以外の食事を味わう余裕はないようで、若干ウトウトしながら動いている。
空になった食器を魔法式の食器洗浄機に入れると、ノソノソと2階の自室に向かう。
やっとのことで扉を開けると、着替えもせずにベッドに倒れ込む。
流石に疲れたようで、しばらくすると寝息が響く。
次の日、来波が目を覚ますと既に日が登っていた。時間としては10時頃だ。
半日以上眠ってすっかり疲れは取れたようで、ベットから出て伸びをすると1階へ降りていく。
雷斗の足音だけが屋敷に響き、妙に寒々しい。
今日は少しだけ凝った朝食を用意するようで、炊飯器と同じ機能を持つ魔道具に米をセットしている。
冷蔵庫から卵を取り出し、コネギと混ぜて手際よく巻いていく。
焦げもなくとても美味しそうだ。
これだけの料理の腕前ならモテそうだが、残念なことに今まで彼女はいなかった。
高校は男子校だったし、根っからの真面目人間でしかもオタク。
顔はまぁいいほうなのだが、恋愛に興味を持ったこともなかったため、そんな機会すらなかったのである。
そんな話をしている間に朝食が完成している。
時間的には昼食と行っても良さそうだが、まだ午前中だから一応朝食だ。
今日はちゃんと椅子に座り、手を合わせて食事を始める。
場所が厨房なのは変わらないが、座っただけで雰囲気が変わる。
ちゃんと出汁から作った味噌汁を飲み干し、卵焼きと一緒に白米を食べると食器を魔道具に入れる。
その辺りは男子っぽい。
昨日の食器を戸棚に片付けると、再び自室に戻り着替えを始める。
今はまだ帰ってきたときの格好のままだ。
この服自体はあの世界に持って行っていないが、大分お金のかかった私服なのだ。シワが残る前に洗濯をしてアイロン掛けしなければいけない。
黒がメインのTシャツとジーンズに着替えると、脱いだ服を洗濯機と同じ機能がある魔道具に入れる。
ちなみに、この屋敷に設置された魔道具のほとんどは、従者をつけず生活している来波のため特別に用意された物だ。
戸締まりの確認をしてから、外出をする。
今日の目的地はこの世界で友人になった、上級神2人の仕事部屋だ。
と言っても、仕事ではなくただお喋りをするだけ。
最近の休暇時は、毎回そこで時間を潰している。
そこではゲームをしたりアニメを見たりできるのだ。
来波は鼻歌交じりの軽い足取りで、庭を抜けビギー通りへと向かっている。




