第5世界
初任務終了からちょうど1週間。
今、来波は静かな水の中を漂っていた。
2つ目の仕事場所である。
「ここも想ってたのと違う。」
転移した瞬間現れた水の塊に、来波は驚く様子もない。以前と同様、冷静に地図を確認してから落胆している。
初任務終了後、ちゃんとクレームを入れたから今回は始めから説明文つきだ。
この世界は水の世界。光に照らされて刻々と色を変え、形を変える変幻自在な水の世界である。
「呼吸はできるし、水中で動いても疲労は少ない。」
泳いだり歩いたり、意味もなく深呼吸したりと忙しなく状況を確認している。
この世界には水圧が存在しないようだが、浮力らしきものはあり、来波は常にプカプカと漂っているが下に沈むことはない。それに、そもそも上下の概念もない世界なのだ。
どこへ行っても水。
万が一水の外に出てしまえば、そこに待っているのは死かもしれないが、それは神のみぞ知る。
と言うわけで、今回も期待は大きく外れ、こんな何もない世界に飛ばされてしまったのだ。
もう少し怒っても良さそうだが、来波は至って平静を保っている。
「これ、食事と稼働すれば良いんだ。今回は食料も渡されてないし。」
来波の今の格好は、謎の花が描かれたTシャツに灰色の七分丈パンツ。
海らしい格好かもしれないが、微妙にダサい。これも依頼人が勝手に選んだものだが、今回は他に持ち物がない。
全て自給しろという意味か、もしくは食べなくても死なない世界だという意味のどちらかだろう。
「つっても、食べられそうな物なんてどこにもないぞ。」
来波は改めて辺りを見渡す。
常に明るさが移ろい、綺麗ではあるが実に見にくい。
必死に目をこらしてやっと視界に捉えたのは、クラゲだった。その次もクラゲ、その次もクラゲ、その次にやっとプリオネらしき生き物を捉える。
他にも見慣れない生き物を見つけるが全て半透明。
この世界を創った神も、これまた偏った趣味の持ち主らしい。
いずれにしても、食べたところで腹の足しにもならないだろう。
途方に暮れる来波の脳内に前回同様、脳天気な通知音が響く。戻ったら、この通知音に関しても文句を言った方が良いかも知れない。
とにかく、来波はメッセージを確認する。
追伸、という言葉から文章が始まっている。
「スキルボード内の食事ボタンで、午前と午後の6時に食事が提供されるって、これのことか。」
来波は1度メッセージチャットを閉じ、ホーム画面に戻る。
確かに、メッセージチャット機能の上にフォークとナイフのイラスト付きのボタンがある。ご丁寧に、提供までの残り時間付きだ。
「食事がちゃんと提供されるのはありがたいが、それなら先に言ってくれ。」
怒りを通り越して呆れた表情を見せる。
とにかく、食事問題も解決した。残りの問題は睡眠場所だ。
とはいっても水中ではテントも寝袋も使えない。生き物は攻撃性もないし、そのまま浮いて寝るのが妥当だろう。
そうと決まれば、後は仕事をするだけ。
気持ちを切り替えた来波は、この世界を評価するために行動を始める。
残り時間は6日9時間34分。




