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第2世界

 荒れ果てた大地と不自然に並ぶ岩。

 その中央で来波雷斗(らいはらいと)は途方に暮れていた。

 つい数秒前まであれほど期待に胸を膨らませていた分、その落胆も一入だろう。

 なんといったって、異世界に行けると聞いていたのだ。

 しかし、目の前に現れたのは命の気配すらもない荒野。

「これ、本当に1週間ここで過ごさないといけないのか。」

 話し相手はいない、遠慮なく独り言が言えるのは利点かも知れない。

「だから事前に食料を渡されたのか。まぁ、とにかく仕事だな。」

 30分硬直の末、自分の立場を思い出し行動を始める。

 初めにスキルボードを開き時間を確認する。

 この世界に来てから既に1時間経っている。

 しかし、残り6日と23時間ここに滞在する必要がある。1人で過ごすにはあまりにも長い時間だ。

 緊急離脱することもできるが、その代償はデカい。

 スキルボードには他に、仕事内容や達成状況、依頼人とのメッセージチャット、それから地図が搭載されている。

 スキルボードは基本、本人しか見えないから他人が見れば、ただ空中に手を伸ばしている怪しい人。

 まぁ、ここには人がいないし関係ない。

「スキルボードは異常なし。」

 念のために地図を確認した来波は、さらに落胆の表情を浮かべる。

 地図には自分が立つ場所から半径10メートルまでが随時更新され、過去に通った場所は保存される。

 距離が近ければ生き物の位置も表示されるが、現在その地図に映っているのは荒野だけ。

 何度かスキルボードを確認すると座り込み、持ち物の確認に移る。

 来波の今の出で立ちは迷彩服に、迷彩柄の帽子。そして迷彩柄のリュックである。

 今時こんなセンスのないコーデを組む人間などいないが、残念ながらこのコーデを選んだのは来波ではない。

 この世界に転送されるとき、服装も依頼人が勝手に変更したのだ。

 文句を言えるのは1週間後、仕事を終えて依頼人の元へ帰ったときだ。

 その頃には服装の恨み程度忘れていることだろう。

「食料は余分に入っている。調理器具も一式揃っているな。」

 リュックから荷物を全て出し、名称と数量をスキルボードのメモ欄に書き込んでいる。

 リュックは何でも入る空間魔法付き。動きやすいよう軽量タイプだ。

「けど、アイテムボックスならリュックじゃなくてウエストポーチタイプが普通だろ。」

 来波はこう言っているが、もらえるだけありがたい。

 荷物持ちまで終わった来波は、手持ち無沙汰になった。

 とにかく何もないのである。

 来波が今いるのは、さっきも説明したとおり草や木の1つもない荒野。

 上空は雲1つない晴天だが、鳥が飛んでいる気配もない。

 見渡しても生き物や建物の気配もない。

 とにかく何もないのである。

 大事なことなので二度言う。

「とりあえず、状況を整理するか。」

 流石、元・生徒会長。

 中々遭遇しないレアな状況でも、落ち着きだけはある。

 そういう訳で状況を説明しよう。


 始まりは来波雷斗の死、だ。

 とある私立高校の3年生として生徒会長を務めていた来波は、引き継ぎを終えたその日交通事故で死んだ。

 そして、異世界召喚されたのである。

 と、ここで勇者として世界を救ったり、落ちこぼれ騎士の成り上がりを期待した来波だったが、実際はそうではなかった。

 来波が召喚された理由は勇者としてでも、剣士としてでも、生け贄としてでもなく、鑑定師としてだった。

 鑑定師と聞くと、魔石や魔草、ドロップアイテムを鑑定する外れスキルを想像するかも知れないが、そうではない。

 来波を召喚したのは神々で、鑑定を依頼されたのは世界そのものなのだ。

 神はそれぞれが自分の世界を創り、日々管理している。

 とはいっても、世界は数百年単位でしか成長しない。その間、とても暇なのである。

 その退屈な時間を埋め、モチベーションの向上につなげようと始まったのが『世界ランキング』。

 それぞれの世界を第三者に評価してもらい、ランキングにするのだ。

 そしてその評価をする者が、鑑定師だ。

 来波はその記念すべき100人目に選ばれたのである。

 今はその初任務中である。


「あれ、なんだ。」

 そうして虚ろになり時間を潰しているだけだった来波が動き始めたのは、更に2時間後のことだ。

 視界の隅に、動く影を捉える。

 とは言っても地図では何の反応もない。

 それなのに動き、しかもこちらに近づいてきている。

 それで危機感を持たない人間がいれば、そいつは確実に近い将来死ぬ。

 来波は広げていた持ち物をリュックに放り入れ、逃げる準備を始める。

 だが、辺りは隠れる場所もない。

 逃げると言っても体力には限界がある。

 そうして色々と考えた結果、来波はその場に座り込む。

 要するに諦めたのである。

 残念なことに、来波は鑑定師であって勇者ではない。魔法も使えなければスキルも与えられていない。

 鑑定師という肩書き以外はただの高校生だ。

 この世界で死んでも、また召喚されるだろう。

 そう決心した来波の脳内に、脳天気な通知音が響く。

 依頼人からメッセージが届いたのである。

「なんだよ、こんなときに。」

 陰は今もドンドン近づいている。あとほんの数秒でこちらに到着する距離だ。

 自分の命と任務を天秤に掛け、一瞬悩んだ末にやや苛立ちながらスキルボードを表示する。

 送られてきたのはこの世界の説明文。

 初めに添付しておけ、という来波の苛立ちはもっともだが、百年に1度のイベントで主催者側も色々と忘れている。

 大目に見て欲しい。

 そういう訳で、動く影の正体が分かり来波は肩の力を抜く。

 あれは、異世界で定番の動く石人形、またの名をゴーレムである。

 そしてここはゴーレムの世界。

 この世界を創った神は大のゴーレム好きなのだろう。

 攻撃性もないゴーレムで、接触しても問題はない。

「それなら早く言ってくれ。警戒して損した。」

 来波は依頼主に文句を言いながら、また荷物を広げている。

 そろそろ食事の準備をするようだ。

 リュックから持ち運び式のコンロや調理道具を取り出し、料理を始める。

 来波は高校生だが既に独り暮らしをしている。

 まともな料理も一通り作れるのである。

 メニューはご飯に味噌汁、焼き鮭に梅干し。

 献立が和食に偏っているが、来波は根っからの日本人で、食材を選んだ人物も和食好きだったのだ。仕方がない。

 その食事を胃に流し込むと、テントを立てる。

 何もないこの世界だが、太陽は存在する。

 まもなく時刻は4時、日が傾き始めた頃だ。

 野営をしたことのない都会暮らしの来波でも快適に過ごせるよう、リュックの中には魔法式の野営セットが入っている。

 それらを取り出し、地面に置いてボタンを押せばあっという間にテントの完成だ。

 残念なことに、テント自体に特別な装備はない。だが中にある寝袋は防寒機能抜群だ。

 中を確認した来波は、調理道具を片付ける。

 なんと、このリュック、生ゴミや汚れた食器を自動で分別・洗浄をしてくれる便利機能がついているのである。

 というわけで、売れば家事をする大人たちが身銭を切ってでも買うであろう便利アイテムに、全てのものを放り投げ、来波は眠りにつく。

 何にもない荒野にぽつんと立つテントは目立つが、まぁ、これも異世界での思い出と考えればよいものだ。

 こうして、来波の初任務1日目は終わりを迎えた。

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