第二章 第7話
一歩。
蓮が踏み込んだ瞬間、視界からその姿が消えた。
「ぎ、あ……っ!?」
最前列にいた男が、自分が斬られたことすら気づかずに崩れ落ちた。蓮の動きは円を描き、集団の死角へと滑り込む。魔法障壁など、紙同然だった。気を纏った刃は、魔法という現象そのものを切り裂き、防具ごと肉体を断つ。
刀を振るう隙もない至近距離に肉薄された一人が、必死に組み付こうとする。だが、蓮の左手がその手首を蛇のように捕らえた。
「組術を知らんのか。戦場では、止まった者が死ぬ」
バキリ、と乾いた音が室内に響く。蓮は力を使うのではなく、相手の重心と関節の可動域を完全に掌握していた。瞬時に肘を逆方向に折り、肩を脱臼させる。そのまま肉の盾として利用し、背後から迫る刺客の首に、鞘に収めたままの刀を叩き込んだ。
それは舞踏のごとき流麗さと、屠殺場のような無慈悲さが同居した光景だった。
一人、また一人と、骨を砕かれ、腱を切られた男たちが転がっていく。
「化け物め……! 火炎球を放て!」
追い詰められた魔術師が魔術を放とうとしたが、蓮は刀を納め、一瞬で距離を詰めた。掌底が魔術師の胸元を打つ。衝撃波が背中に突き抜け、魔力回路を強制遮断された男は、血を吐いて沈んだ。
わずか数分。
立っているのは、呼吸一つ乱さず、返り血を一滴も浴びていない蓮と、腰を抜かしたオズワルド、そして呆然とするバルトロメたちだけだった。
「……リリ、掃除の業者を呼んでおけ。死体は不衛生だ」
蓮は無造作に刀を何処とも知れないところに戻すと、まだ開きっぱなしの隠し階段へと視線を向けた。
「さて、邪魔者は消えた。フェルディナンドの『真実』とやらを拝みに行こうか」




