表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

第二章 第2話

フェルディナンド男爵家の屋敷は、ルンディニウム郊外の緩やかな丘の上に、まるで時代に取り残された古城のように鎮座していた。

 馬車が車寄せに止まると、家令のミラーに案内され、蓮とリリは重厚なエントランスをくぐった。

 広間に入った瞬間、蓮の肌を刺したのは、冷たい空気ではなく、身内同士が放つ濃厚な**「殺意」**だった。

「……また、兄上が無駄な金を。家令、それが噂の『探偵』か何かか? 見たところ、ただの身なりのいい浮浪者にしか見えんが」

 暖炉の前でグラスを傾けていた、鋭い眼光の男――現当主の弟、オズワルドが鼻で笑った。その横では、現当主であるバルトロメ男爵が、病的なまでに青白い顔で椅子に深く沈み込んでいる。

「オズワルド、無礼を……。ヘムラー殿、すまない。我が家は今、この『予告状』のせいで極限状態にあるのだ」

「不仲な兄弟に、不透明な相続。ミステリーの舞台装置としては三流だが、舞台の設え(しつらえ)は悪くない」

 蓮は彼らの挨拶を無視し、大理石の床や壁のタペストリーを、値踏みするように眺めながら歩き回った。

「さて、男爵。時間が惜しい。予告状が届いたのはいつだ? そして、その紙はどこで、どういう状態で発見された?」

「昨夜の未明、私の執務室の机の上だ。窓も扉も施錠されていたというのに……!」

「リリ、ライトを」

 蓮はリリから受け取った、ペン型の高輝度マルチ波長ライトを予告状に当てた。

 波長を切り替えながら、蓮は紙の繊維やインクの沈着具合をミリ単位で観察していく。

「ほう……。面白い。このインク、単なる炭素ベースじゃないな。魔石の粉末を極微量に含んでいる。特定の温度条件下でのみ、文字が浮かび上がるよう細工されていた形跡がある」

 蓮はそのまま、男爵の机の周囲を調べ始めた。

「つまり、犯人は『不法侵入』などしていない。この紙は、数日前からこの部屋に『白紙のメモ』として置いてあったんだ。……何者かが室温を調整し、文字を浮かび上がらせた。密室でも何でもない、ただの化学反応だ」

 その言葉に、オズワルドの眉がぴくりと動いた。

 蓮はその一瞬の反応を見逃さず、さらに視線を部屋の隅の暗がりへと向けた。

(……視線を感じるな)

 現代のセンサーに匹敵する蓮の感覚が、屋敷の「影」に潜む何者かの存在を捉えていた。それは、男爵家の人間でも、使用人でもない。

 プロの、それも極めて冷徹な「観測者」の視線。

「男爵、家宝がどこにあるか見当もつかないと言ったな。だが、この予告状には、君が気づいていない『地図』が既に記されているぞ」

「な、なんだと!?」

 蓮は不敵な笑みを浮かべ、アタッシュケースから取り出した超音波構造スキャナーを壁に押し当てた。

 文明の遅れたこの世界で、蓮だけが「壁の向こう側」にある歴史の空洞を見透かしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ