幕間1 霧の都と不純な溜息
王都ルンディニウムの朝は、常に深い灰色の霧に閉ざされている。
アパートの窓からその光景を眺めながら、助手のリリは不満げに頬を膨らませていた。
「ねえ、天城様。……いえ、ヘムラー先生! せっかく異世界アステリアに来たんですから、たまには外に出て観光でもしませんか? ほら、この霧だって、ガス灯に照らされてとってもロマンティックじゃないですか」
蓮はソファに深く沈み込み、タブレットで元の世界の経済ニュースをチェックしながら、鼻で笑った。
「ロマンティック? リリ、君は天使のくせに視覚情報に騙されすぎだ。あの霧がなぜあんなに重苦しい色をしているか、考えたことはないのか?」
「えっ? それは……水蒸気じゃないんですか?」
「半分正解だが、半分は致命的な有害物質だ。この世界のエネルギー源は魔石だろう? だが、この時代の魔石炉は燃焼効率が悪すぎる。魔石を消費する際に出る『不純な魔素』が、空気中の水分と結合して滞留しているんだ。地球でいうところの『光化学スモック』や『ロンドンスモッグ』の類だよ。あの中を歩くのは、薄めた毒ガスの中を散歩するようなものだ。肺胞を汚したくない」
蓮は無造作に窓のカーテンを閉め切った。
「異世界情緒なんてものは、適切な距離から眺めるから美しく見える。……不純物まみれの空気を吸いに出かけるなんて、御免だね」




