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「打算結婚の誤算。~俺は『親の財産目当て』という嘘を、死ぬまで突き通すことにした~」  作者: 品川太朗


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6/10

第6話:1500万という現実

今まで貯め込んだ個人の全財産、1500万円。

これを赤の他人の借金返済に投げ打つバカな男がいるでしょうか?


ここにいます。

ただし、彼なりの「打算」に基づいた決断です。


電卓の液晶に表示された数字を見て、俺は天を仰いだ。


詰んだ。

完全に詰んでいる。


不祥事による違約金、取引先への未払い、そして銀行への返済。


俺が徹夜で財務整理を行い、不要な資産を売却し、削れるコストを限界まで削った結果、どうしても埋められない穴が残った。


金一千五百万円。


今月末までにこのキャッシュを用意できなければ、高村建設は不渡りを出し、法的整理に移行する。

そうなれば義父は全てを失い、最悪の場合、背任で豚箱行きだ。


「……もう、無理だ」


義父が頭を抱えて呻く。

銀行はどこも相手にしてくれない。親戚も全員逃げた。


万策尽きた。

それが冷酷な現実だった。


「ごめんなさい……私のせいで、あなたまでこんな……」


美鈴が部屋の隅で縮こまり、声を殺して泣いている。


その姿を見ていると、胸の奥がざらついた。


暗い。辛気臭い。


俺が帰宅した時、彼女が玄関で暗い顔をして待っている未来が容易に想像できた。

そんな生活は「快適」とは程遠い。


俺は懐からスマートフォンを取り出し、自身のネットバンキングの画面を開いた。


コツコツ貯めた独身時代の貯金。

株の含み益。

将来のために積み立てていた個人年金と保険の解約返戻金。


全てを合算すると、約一千五百万円。


俺が三十年近く生きてきて築き上げた、俺の自由と安心の結晶だ。

これがあれば、離婚して一人になっても数年は遊んで暮らせる。


それを、ドブに捨てる?

あり得ない。正気の沙汰じゃない。


――だが。


俺は舌打ちを一回鳴らすと、銀行の通帳と印鑑をテーブルに放り投げた。


「……使え」


「え?」


「俺の個人資産だ。かき集めりゃ一千五百にはなる。これを当座の運転資金に充てろ」


静まり返るリビング。

義父も美鈴も、ポカンとして言葉を失っている。


「な、何を言ってるんですか!?」


最初に反応したのは美鈴だった。

彼女は血相を変えて俺に詰め寄った。


「そんな大金、受け取れません! これはあなたが頑張って貯めたお金でしょう!? 泥舟と一緒に沈む必要なんてないんです!」


「うるさいな。黙って受け取れ」


「嫌です! 絶対に嫌! 離婚してください。今すぐ逃げてください!」


美鈴が俺の腕を掴み、必死に揺さぶる。

その目からはボロボロと大粒の涙が溢れていた。


自分が助かることよりも、俺の財産を守ることを優先する女。


本当に、どこまでもお人好しで、馬鹿な奴だ。

だからこそ――放っておけないんだろうが。


「いい加減にしろ!」


俺は彼女の手を振り払った。


そして、涙でぐしゃぐしゃになった彼女の顔を指差して、吐き捨てるように言った。


「いいか、よく聞け。俺はな、お前が毎日メソメソ泣いてる姿を見るのが死ぬほど嫌なんだよ」


「っ……」


「お前の親父が破産して、万が一首でも括ってみろ。お前は一生、そんな辛気臭い顔をして生きていくことになるだろうが。俺が家に帰るたびに、お前の暗い顔を見せられる身にもなれ。飯が不味くなる」


俺は彼女の目を見据え、宣言する。


「これは俺の『快適な生活環境』への投資だ。俺の横で笑って美味い飯を作れ。そのための必要経費だ」


とんでもない暴論だ。


一千五百万の対価が「笑顔」と「飯」?

コストパフォーマンスが悪すぎる。投資家が見れば発狂するレベルだ。


だが、今の俺にはこれが唯一の正解だった。


「……あ、あなた……うぅ……」


美鈴はその場に崩れ落ち、子供のように声を上げて泣きじゃくった。


義父は床に額を擦り付け、震えながら「すまない、すまない」と繰り返している。


俺は大きく息を吐き出した。


なくなった。俺の金が。

すっからかんだ。


もう後戻りはできない。

俺はこの「高村建設」という泥船のオーナーの一人になってしまったわけだ。


「泣いてる暇があったら銀行に行くぞ。手続きが山積みだ」


俺は美鈴の肩を乱暴に叩き、立ち上がらせた。


彼女は泣きながら、それでも何度も何度も頷いて、俺の手を握り返してきた。


その手は温かく、力強かった。


こうして俺は、人生最大の「誤算」となる一千五百万円の出費を確定させたのだった。




1500万、溶けました。

もう後戻りできません。彼は完全に「こちらの世界」の住人となりました。


さて、ここからは「回収」のターンです。

次回、一気に時が飛びます。

10年後、泥水をすすって這い上がった彼らの姿を描きます。


ここまで読んで「こいつ、カッコいいな」と思っていただけたら、ぜひブックマークと【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!

(この回で評価を入れてもらうのが一番嬉しいです!)

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