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「打算結婚の誤算。~俺は『親の財産目当て』という嘘を、死ぬまで突き通すことにした~」  作者: 品川太朗


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5/10

第5話:始まる泥沼

離婚を保留にした結果、なぜか主人公は義父の家に入り浸っています。

そして、弱った人間に群がるハイエナを、性格の悪い主人公が狩る回です。


離婚を保留にしてから一週間。

俺はなぜか、妻の実家のリビングにいた。


部屋の中は嵐が過ぎ去った後のように荒れ果てていた。

鳴り止まない固定電話、山積みの請求書、そして憔悴しきって抜け殻のようになった義父。


「……おい、美鈴。これはどういう状況だ」


「すみません……父が、もう何から手をつけていいかわからない状態で……」


美鈴がおろおろと茶を運んでくる。


俺はあくまで「離婚しないためのポーズ」として、様子見に来ただけだ。

深入りするつもりは毛頭なかった。


だが、その決意は目前の光景によって揺らぐことになる。


「社長、ですからこの『資産保全スキーム』を使えば、確実に財産を守れます。手数料は少しかかりますが、今のままでは全て差し押さえですよ?」


胡散臭い男が、義父に契約書を突きつけていた。


安っぽいスーツに、テカテカの革靴。

自称・経営コンサルタントだというその男は、溺れる者に藁を掴ませようとするハイエナそのものだった。


義父は震える手でハンコを持とうとしている。


「……なるほど。それで会社も家族も守れるなら……」


「ええ、ええ! さあ、ここに捺印を!」


俺の頭の中で、何かがプツンと切れた。


「――待て」


俺は義父の手からハンコをひったくり、テーブルの上に叩きつけた。


「く、君は……娘婿くん?」


「誰だお前は! 部外者は引っ込んでろ!」


コンサルタントが色めき立つが、俺は無視して契約書を手に取った。

ざっと目を通す。


……予想通りだ。


資産隠しに見せかけた、ただの手数料詐欺。

しかも法的にブラックな条項が含まれており、署名した時点で義父は共犯者として終わる。


「おい、アンタ。この第5条の免責事項、どういうつもりだ? それにこの送金先、先月金融庁から警告受けてるペーパーカンパニーだろ」


俺がスマホの画面を見せつけると、男の顔が引きつった。


俺は本業で法務関係の書類も見ている。

この程度の浅知恵、見抜けないわけがない。


「詐欺で通報されたくなきゃ、今すぐ失せろ。二度とこの家の敷居を跨ぐな」


ドスの利いた声で威圧すると、男は「ちっ、面倒なのがいりやがる」と捨て台詞を吐いて逃げ出した。


静寂が戻ったリビングで、義父が涙目で俺を見上げる。


「あ、ありがとう……危うく騙されるところだった……」


「感謝なんていりませんよ。……あんた、本当に社長やってたのか? こんな子供騙しに引っかかるなんて、ボケるには早すぎるでしょうが」


俺は毒づきながら、散乱した書類の山を睨みつけた。


請求書、督促状、決算資料がめちゃくちゃに混ざっている。

合理主義者の俺にとって、この「非効率の極み」のような状況は生理的に耐え難かった。


「……あー、もう! 見てられない!」


俺はジャケットを脱ぎ捨て、腕まくりをした。


「美鈴! 赤ペンとファイル持ってこい! 義父さんはそこの領収書を日付順に並べろ! 俺が優先順位をつけてやる!」


「は、はいっ!」


「す、すまない……!」


結局、その日は深夜まで書類整理と資金繰り表の作成をさせられた。


俺には関係ないはずなのに。

こんな倒産寸前の会社の整理なんて、一円の得にもならないのに。


「……あなた、お疲れ様です」


休憩中、美鈴がタッパーを差し出した。

中には、黒くて丸い塊がゴロゴロ入っている。爆弾か何かか?


「おにぎりです。海苔がうまく巻けなくて……」


「……相変わらず独創的だな」


俺は呆れつつ、その黒い塊を口に放り込んだ。


具は高級な焼肉だった。

米の塩加減も絶妙だ。疲れた脳と体に、旨味が染み渡る。


悔しいが、エネルギーが湧いてくるのがわかった。


「……美味い」


「よかった……! もっとありますから!」


美鈴が嬉しそうに次々と黒い塊を出してくる。義父も申し訳なさそうに茶を啜っている。


不器用な妻と、無能な義父。

このどうしようもない二人を前に、俺は深いため息をついた。


「勘違いするなよ。俺は俺の経歴を守るためにやってるだけだ」


そう言い訳しながら、俺は再び電卓を叩き始めた。


この時の俺はまだ知らなかったのだ。


この泥沼の整理作業の先に、俺自身の身銭を切る羽目になる「究極の決断」が待っていることを。




詐欺師を撃退し、現場指揮まで執ってしまいました。

もう完全に巻き込まれています。


次回、この物語の最大の山場。

「伝説の1500万投入回」です。

主人公がなぜ大金を捨てる決断をするのか、その理由にご注目ください。


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― 新着の感想 ―
次回予告に期待が高まります。 私は作者様の作品が好きみたいです。
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