表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「打算結婚の誤算。~俺は『親の財産目当て』という嘘を、死ぬまで突き通すことにした~」  作者: 品川太朗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第2話:快適な結婚生活と、わずかな違和感

主人公の「勘違い」と「無自覚な溺愛(?)」が深まる回です。

まだ平和です。まだ……。

結婚とは、長期的な投資だ。


多くの男はその単純な事実を忘れ、「愛だの恋だの」という不確定な要素で銘柄を選び、失敗する。


「あー、マジで嫁がウザい。またブランドバッグねだられたよ……」

「うちはもっと酷いぞ。先月、浮気がバレて慰謝料請求されそうだ」


会社の給湯室で、同期たちが死んだ魚のような目で愚痴り合っている。


彼らの妻は、学生時代から評判だった美人たちだ。

だが、維持費は高く、リスク管理もなっていない。


あんなものは「高利回りを謳う詐欺商品」と同じだ。


その点、俺の妻・美鈴は「超優良物件」だった。


結婚して三年。

生活は快適そのものだ。


美鈴は文句一つ言わない。

ブランド品にも興味がないし、エステに行きたいとも言わない。

彼女が欲しがるのは、スーパーの特売チラシと、新しい掃除道具くらいだ。


家に帰れば、風呂が沸いていて、部屋はチリ一つなく掃除され、見た目は悪いが味は絶品の飯が出てくる。


俺がすることは、月に一度、給料明細を渡して「いつもご苦労さん」と声をかけることだけ。


これほどコストパフォーマンスの良い結婚生活が、他にあるだろうか?


ただ――。

時折、彼女に対して「得体の知れない気味の悪さ」を感じることがあるのも事実だ。


それは、先週のことだった。

急なトラブル対応で、帰宅が深夜二時を回った夜だ。


連絡も入れられず、タクシーでマンションに帰り着いた俺は、静かに鍵を開けた。

当然、美鈴は寝ていると思っていた。


「……あ」


玄関のドアを開けた瞬間、足元に黒い塊があった。


俺は心臓が止まるかと思った。

美鈴だ。


彼女は玄関の冷たいタイルの上で、膝を抱えるようにして座り込み、船を漕いでいたのだ。


「お前、何やってんだ……!」


「……っ! あ、あなた……!?」


俺の声にビクリと肩を震わせ、彼女は飛び起きた。

眼鏡がズレて、寝ぼけた目が泳いでいる。


「おかえり、なさいませ。あの、メールがなくて、心配で……」


「だからって、こんなところで待つ必要ないだろ。リビングにいればいいじゃないか」


「い、いえ。ここなら、鍵が開く音ですぐに気付けるので……すぐに、コートをお預かりできると思って……」


意味がわからなかった。


ただコートを受け取るためだけに、何時間もこの硬いタイルの上で待っていたのか?

忠犬ハチ公でも、もう少し自分を大事にするだろう。


「……はぁ。わかったから立てよ。風邪引くぞ」


「はい。すみません……」


彼女は慌てて立ち上がろうとしたが、


「あっ」


短く悲鳴を上げて、その巨体がぐらりと傾いた。

長時間正座していたせいで、足が痺れたらしい。


ドスン、と大きな音を立てて、彼女は俺の胸元に倒れ込んできた。


「おい!」


「す、すみません! 足が、いうことを……!」


「まったく……不器用すぎるだろ」


俺は舌打ちしながらも、彼女の体を支えた。


重い。

物理的にも重いが、その向けてくる感情の重さが、ずしりと腕に来る気がした。


だが、不思議と不快ではなかった。


彼女の体からは、ほのかに線香の匂いがした。

きっと昼間、俺の実家の仏壇を掃除してくれていたのだろう。

俺の親に対しても、彼女は異常なほど尽くしている。


(……こいつは絶対に、俺を裏切らないな)


同期たちの妻のように、浮気をしたり、俺の稼ぎが悪いと罵ったりすることは、天地がひっくり返ってもあり得ない。


俺の腕の中で、申し訳無さそうに縮こまっているこの女は、世界で一番安全な「資産」だ。


「風呂、沸かし直しますから……!」


「いい。シャワーで済ませる。お前もさっさと寝ろ」


「でも……」


「寝ろ。命令だ」


「……はい」


俺は彼女を立たせ、背中を押して寝室へ追いやった。


一人になったリビングで、俺は冷蔵庫からビールを取り出す。

よく冷えていた。グラスも凍らせてある。

 

「……悪くねえな」


独り言が漏れる。

俺はこの生活に満足しきっていた。


この平穏で、打算的で、一方的に搾取できる関係が、永遠に続くと信じて疑わなかった。


そう。

あの電話が鳴るまでは。




平和な日常はここまでです。

次回、ついに義父の会社が倒産します。


主人公の「損切り」思考が炸裂する一方で、美鈴がどう動くのか。

ここからが物語の本番です。


続きが気になる方は、ぜひブックマークをしてお待ちいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ