ep2
8月某日。
夕立だ。
何時の間に暗くなったんだろう。
僕は自転車のスタンドを蹴るとまたがって走り出した。
参考書を買いに来て、店の中から雨が降っていることに気付いてビニールの袋に入れて貰ったけど、この雨だと濡れてしまうかもしれない。
パーカーのフードを被り少し体をかがめながら自転車をこぐ。
雨が強まってきた。
立ちこぎで人ごみを避けながら走っていく。
雨のせいで多くの人が小走りだったり、店先のテントで雨宿りしていたり。
赤になった信号を見てブレーキをかけると、ふとパン屋の前に少女が立っているのが見えた。
まだ小学生くらいで誰かを待っている様子で空を見上げている。
僕はパン屋に親がいるのだろうと思って信号が変わると自転車を漕ぎ出した。
8月某日。
夕立だ。
客足が途切れたのはいいが、雑誌コーナーの立ち読みが減ることはなく雨が止むまであのままだろう。
吉田はレジに視線を向けてホットスナックのケースを確認する。
冷蔵庫でジュースを補充し終えた橘さんは俺と目が合うとホットスナックのケースを見た。
「あ、補充しよっか。雨が止んで揚げたてが売れるといいね」
「そうだね」
店内を確認してから二人でフライヤーに唐揚げ、ポテト、ホットドックを放り込む。
時間がくれば引きあがるから簡単なものだ。
フライヤーの確認をしつつ橘さんが店の外を見て俺に振り向いた。
「ねえ、吉田君、あの子……なんか変じゃない?」
「え?」
俺は橘さんの指差した場所を見る。
コンビニの向い道路を挟んだ向こう側、パン屋の前に少女が蹲って座っている。
橘さんの言いたいことを察して「さすがに親いるんじゃない?」と振ると、橘さんは「そうだよね」と眉をひそめた。
「でもなんか……」
橘さんがそう言いかけると丁度フライヤーの音がして会話が終わり、レジの前に客が来た。
8月某日。
仕事終わり一杯引っ掛けて帰るかと馴染みの店を目指す。
夏の夜はまだ明るい。
隣を歩く後輩の佐藤は暑いのかハンカチで額を拭った。
「この先ですよ、うまいんすよ焼き鳥、ビールと合うから最高っす」
「ビールに焼き鳥は合うだろ。佐藤はよく行くのか?」
「まさか~、今日は高橋さんがおごってくれるってので。あ、勿論安いですよ」
「それはありがとうよ」
今日は定時で上がることができたから高橋から飲みに行こうと誘ったのだ。
二人でパン屋の前を通り過ぎると佐藤が言った。
「あ、ここのパンうまいんすよ?もう閉店か~、メロンパンがすごく……」
ガラス越しに中を覗きながら佐藤が足を止めた。
そして数歩戻ると店と店の間の路地を見つめている。
「高橋さん、ちょっと」
手招きされて佐藤が覗き込んでいる場所を見ると、暗い路地が続いていた。
「何だ?何かあるのか?」
「え?あれ……?」
佐藤は目を凝らして奥を見ている。
「どうした?お化けでも見たとか言うのか?」
「いや……女の子が居た気がして」
「女の子?」
二人して見つめるも暗いだけで人の気配はない。
そういう気がしただけかも知れない。
佐藤の背中をポンと叩くと「ほら行こう。酔っ払うのはこれからだろ?」と促した。
「気のせいっすね……すいません」
佐藤は俺の隣に来るとまたさっきと変わらずに歩き出した。




