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ep14

 9月某日。

 喪服を着た千砂子と啓、そして二人の間でブランコとばかりに持ち上げられて喜んでいる満がいた。

 まだ熱い日差しだが、夕方のために少し空気は穏やかだ。

 今日は三人で遠方にある千砂子の母・三代子の墓参りに来ていた。

 三代子の墓は少し高台の綺麗な風景が一望できる場所にある。

 元々は無縁仏の墓に入る予定だったのを知り、千砂子の里親が墓を作ってくれたのだ。

 綺麗な墓石の前には優しい色の花が添えられている。

 折に触れて里親や啓の母も手を合わせに来てくれていた。

 千砂子は啓の持っていた花を受け取り備えると、綺麗に墓石を掃除する。

 それを見ていた満がにっこり笑って落ち葉を拾うと千砂子に手渡した。

「お婆ちゃんのお墓綺麗ね?」

「そうね、綺麗になった。ありがとう」

 三人は墓石を手を合わせる。

 啓と満が先に顔を上げると千砂子はまだ祈っていた。






 帰り道、電車の席で千砂子はぼんやりと窓の外を眺めていた。

 ボックス席で前の席には満が横になって眠っている。

 この時間はどうやら電車も空いていて乗客はポツポツとしかいなかった。

 千砂子の隣に座っていた啓が千砂子の肩にもたれかかる。

「ん?」

 千砂子が啓を見ると彼は優しく笑った。

「千砂ちゃん、俺さ」

「うん」

「千砂ちゃんが好きだよ」

 突然の言葉に千砂子の顔が赤くなる。それを見て啓は笑った。

「そういうとこも好き、……ねえ、聞いて」

「うん?」

「俺、頼りないかも知れないけど。もっと強くなるからさ……千砂ちゃんがしんどいこと俺に抱えさせてよ。一緒に……って言っても難しいかも知んないけど。できれば千砂ちゃんがしんどいこと全部俺が引き受けてやりたいくらいなんだ。でも出来ないだろ?どうしたって俺は何も出来ない」

「そんなこと……」

「だから、一緒に頑張らせて欲しいんだ。俺さ、お義父さん、お義母さんの前で守りますって言ったのに全然出来てない。本当全然何もできてなくて」

「啓君」

「俺、もっと頑張るからさ。もしお母さんに会いたいってそんな風に思ったらさ、言ってくれないかな?一緒に何時でもこうやってお墓に会いに行こう」

「うん」

「……なんか俺、検討違いみたいなこと言ってる気がする。ごめん、うまく言えなくて」

「……うん」

「千砂ちゃん」

 啓が体を離すと千砂子が頷いた。

「はい」

「愛してるよ。前よりももっとずっと」

 その言葉に千砂子の目に涙が浮かんで落ちた。

「うん……うん」

 泣き出した千砂子を抱き寄せて啓は微笑む。

「聞いた?満の話」

「なに?」

「満、横山さんたちに、お母さんの素敵なところばっかり話してたって。お料理が上手で、お掃除が上手、優しくて、ぎゅってすると暖かくていい匂いがする」

 二人して目の前で眠る満を見た。

「お母さんが大事なの。大切なのよって。満の一番の宝物なの。そう言ってたって」

「うん……」

 千砂子は止まらなくなった涙を拭って顔を上げると笑ってみせた。すると啓は片眉を上げて言う。

「でもさあ、お父さんも褒めて欲しいよ。高い高いが上手とか、風船膨らませるのが凄い早いとかさ」

 千砂子が噴出すと啓は抗議するように千砂子の顔を見る。

「あー、これは本人にちゃんと褒めてもらわないと」

「駄目だよ、啓君。まだ寝てるし」

「そっか」

「そうだよ。ねえ?」

「うん?」

「ありがとう。啓君。一緒にいてくれて」

 啓は頷くと素早く千砂子にキスをした。

「もうっ」

「誰も見てない、なあ、千砂ちゃん。わかってる?」

「何?」

「満は千砂ちゃんそっくりだ。いっつも千砂ちゃんが満に言ってることだよ。愛してる、あなたは宝物、そんな優しい言葉がいっぱいあの子に詰まってる。あの子は君にそっくりだよ。優しくて優しくて愛しい」

 千砂子は頷くと満を見た。寝息とともに丸いお腹が上下している。

「啓君……お母さんは……私を愛してくれていたかな?」

 啓は大きく頷く。

「勿論、だってそうだろ?千砂ちゃんの優しいところはお母さんから貰ったんだ。辛い思い出もある、でも君の中にある優しい記憶は本物だ。……嘘に聞こえる?」

「……」

「俺の母さんが言ってた。昔一緒にクッキーを作った時に、三代子さんは千砂子の自慢ばっかりしてたって。嬉しそうにしながら、星の形が好きとか、動物の何が好きとか、そんな話をいっぱいしたって。って……母さん、この話千砂ちゃんにしてなかった?」

「……聞いてない」

 そう言うと千砂子は噴出した。

「あー、母さんったら。じゃあ、家に帰る前に寄るか?」

「うん」

 千砂子は啓の胸にもたれると嬉しくて笑った。





 胸の中にある鎖のような悲しみはいまだ燻っている。

 切れることのないこれはこれからも千砂子の心をいたぶるだろう。

 けれど目の前にある啓と満の手があれば深い暗闇の底までは落ちてゆかずに済む。

 千砂子はそう思って秋の空を見上げた。

 遠くからランドセルを揺らして駆けてくる満が手を振っている。

 千砂子も手を上げると優しく笑った。

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