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ep13

 横山たちの待機する部屋の廊下をバタバタと走ってくる音がした。

 ドアが開き汗だくの女性が真っ青な顔で飛び込んでくる。

「満!」

 幹子の膝の上で眠る少女を見て女性はその場に崩れ落ちるとわあっと泣き出した。

 その後ろから背の高いスーツの男性が入ってくる。

 横山は彼の顔を見るとあ、と声にした。

「啓君かい?」

 その声に啓も目を丸くした。

「先生?」

 きょとんとしている幹子に向き直ると横山は頷いた。

「彼はボランティアで熱心に活動してくれていた子だよ。君には話していただろう?とても優秀な子がいると」

「……ああ、そういえば」

 啓は苦笑しつつ頭を下げると、目の前に蹲る女性の背中を撫でた。

「先生、すいません。その子はうちの子です。保護していただきありがとうございます」

 啓が礼を言うと女性も顔を上げた。

 ぐちゃぐちゃになった顔を両手で拭いて背筋を伸ばすと床に手をついて頭を下げた。

「申し訳ありません、私が目を離したばかりに……申し訳ありません。ありがとうございます」

 幹子は眠る満の体を抱いて女性の前に座ると優しい声で言った。

「お母さん、少し休憩しましょうか」

 女性は顔を上げると眉を下げて「はい」と泣き崩れた。




「すいません。先生、色々とご迷惑をおかけして」

「いいや」

「先生がいなかったらもっと時間がかかっていただろうし、俺も彼女も……警察にこっぴどくやられていたかもしれない」

 横山は自販機でコーヒーを買うと啓に手渡した。

「啓君、昔のこと覚えているかい?家出した子供を迎えにきた母親のこと」

「……ああ、はい。あれは……」

 啓が思い出すのも嫌そうに俯いた。

「あの子はかわいそうだった。母親が来て一瞬ホッとしたのもつかの間、何度も何度もぶん殴り、酷い言葉を浴びせて


 いた」

「はい」

「今でも鮮明に思い出せる。……今夜はそうでなくて良かった」

 啓は唇を噛むと頷いた。

「はい。本当にすいませんでした。先生に保護してもらってなかったらあの子はどうなっていたか……」

「うん、いいさ。それより……彼女」

「ああ、千砂ちゃん……。千砂子です」

「うん、千砂子さん。少し不安定なようだね?大丈夫かい?」

「……はい」

 啓は不安げに顔を上げると戸惑ったように口にした。

「先生……昔のことって忘れることは出来るんでしょうか?」

「うん?……うん、トラウマかい?」

「はい」

 横山は啓の顔を見てから腕を組んだ。

「そうだね、もしかしたら……あるいは。しかし殆どはずっと残っていく。ただ、癒していくことはできるはずだ。少しづつ毎日、毎日積み重ねて進んでも数ミリしか進めないかもしれないが」

「……はい」

 横山はにこりと笑うと啓の肩を叩いた。

「大丈夫、君なら」




 控え室の長椅子に幹子、そして千砂子が座り、千砂子の膝の上で満が眠っている。

「お父さんがタクシーを呼んでくれているから、もう少し待っていてね」

 幹子が微笑むと千砂子は小さく頷いた。先ほどよりは顔色はマシにはなったが相当焦っていたんだろう、頬には泣いた痕がいくつも見えた。

「千砂子さん」

 幹子は千砂子の手を握る。それに応じて千砂個は顔を上げた。

「はい」

「一人で抱え込んでは駄目よ?疲れてしまうから」

「……はい。……あの」

「なあに?」

「何も聞かないんですか?」

 千砂子の目が揺れている。幹子はフフと笑った。

「お話したいなら聞くわ。でも無理にしなくてもいいのよ。人は言いたくないこともあるもの」

 幹子の言葉に千砂子の目に涙が溢れて零れ落ちた。

「はい。すいません……ご、ごめんなさい」

「いいのよ、謝らなくても。しんどかったわね」

「……はい。はい」

「うん、満ちゃん、いい子ね。ずうっとね、お母さんの話をしてたわ。お母さんが大好きなのね。いい子ね」

 千砂子は両手で顔を覆うと頭を下げた。

「ありがとう……ございます。ありがとう……ございます」


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