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ep12

 深夜。

 今日辿ってきた道を真っ青な顔をして千砂子は走っていた。

 その後ろを夫・啓が周りを見渡しながらやってくる。

「どうしよう!どうしよう!」

 千砂子は口元でぼそぼそ呟きながら、視界が滲んでいくのを感じていた。

 けれどぐっと両手でそれを払い唇を噛む。

 自分のことばかりで満のことなんて思いもしなかった。

 どうしてあんな小さな子がいるのに、私は。

 そんな後悔ばかりがぐるぐると頭を駆け巡っている。

 あの子に何かあったらどうしよう、何かあったら私は生きていけない。

 いつの間にか足が止まっていたらしく肩に啓の手が触れていた。

「千砂ちゃん。大丈夫、きっと無事だ。頑張って探そう。さっき警察にも連絡しておいた。満はまだそこまで遠くへは行けない。大丈夫だ」

「うん。……うん」

「ほら、行こう」

 千砂子の手を啓の手が包む。

 ぎゅっと握られて千砂子は大きく頷いた。




 来た道を戻り、何度も繰り返す絶望感は千砂子そして啓にもあった。

 最近は落ち着いていたものの千砂子が昔を思い出して取り乱すのは仕方のないことだとわかっていた。

 母親をあんな形で亡くし、父親とは疎遠。

 小学生の千砂子が行き着いたのは養護施設だった。

 啓の母・義子は自分たちが引き取りたいと申し出たが希望は通らず、一年ほど養護施設にいた千砂子は里親の元へ引き取られた。

 千砂子本人から聞いた話によると里親は本当にいい人たちで沢山愛してくれたと。

 しかし時々思い出してしまうのだと。

 啓と千砂子がもう一度出会ったのは、千砂子が啓の住むアパートの傍に引っ越してきたからだ。

 小さな頃とは違いぐんと大人になって綺麗になっていた千砂子に始めは気がつかなかったが、啓の名前を聞いて彼女が気がついた。

 それから恋に落ちるにはそんなにかからなかった。

 啓のほうが千砂子に一目ぼれしてしまっていたから。

 プロポーズする頃には千砂子も啓をお兄ちゃんではなく、啓君と呼べるようになっていた。

 結婚が決まって啓の母・義子に話をしたときは相当な喜びようだった。

 相手が千砂子だということもあるが、随分と長く恋愛と距離を置いていた啓を見ていたからだろう。

 里親にも二人で挨拶に行った。

 千砂子が話したとおり本当にいい人たちで、啓はどんなことがあろうと千砂子を一生守っていこうとその時深く思ったのだった。

 深夜の道路を真っ青な顔で千砂子が隣を歩いている。

 手を握っているが冷たく彼女の緊張が伝わるようだった。

「千砂ちゃん、大丈夫?」

「うん。……啓君、ごめんなさい」

「大丈夫、満は千砂ちゃんに似て賢くて優しいから。すぐ見つかる」

「……」

 千砂子の顔を覗きこむと彼女の目から涙が溢れた。

「啓君に似たほうが良かった。……私はいつも弱くて泣き虫で。馬鹿で……お母さんも救えない……駄目な人間」

「……」

「でもね……頑張るから。……頑張るから。敬君」

「うん」

「一緒にいて。これからも一緒にいて」

「うん」

 啓は千砂子の手を引き寄せると肩を抱く。

 細い肩が小さく震えている。

「守るよ、絶対」

「うん」

 千砂子が何度も頷いて啓の胸にもたれると、啓の携帯電話が鳴った。




 深夜。

 横山とその妻・幹子は警察署の待合室で迷子の少女・満と一緒にいた。

 先ほどまで署員が話を聞きにきていたが、どうやらこの近辺で迷子になっている少女と満が一致するようで駆け出して行ってしまった。

 満は幹子の膝の上ですやすや眠っている。

 随分と歩きつかれているようだ。

「あなた……まだ顔が利くんですね?」

 幹子がフフと笑うと横山は頭を振った。

「昔のことだ、でもありがたいことだね」

 横山は昔、児童センターで働いていた。

 保護した子供たちを養護施設へ送り届けその後も子供たちが快適に暮らせているかなどの仕事を熱心にしていた。

 横山と幹子には子供がいないため、横山の仕事を幹子は誇らしく思っていたし頭が下がるほどにサポートをしてもらってきていた。

 また今日のように迷子や非行少年少女などを保護し、警察に連れてくることもあり、署員とは顔見知りであったが、随分前に横山が仕事を辞めてからは久しぶりのことだった。

 それでも横山を知っている連中も少なからずいて説明等が長くならずに済んで助かった。

「満ちゃんのご両親、連絡ついたかしら?」

 幹子は膝の上の少女の頭を撫でる。

「うん、きっと。理由はわからないが、心配しているだろう」

「そうね、そう願うわ」

 幹子が少し顔を曇らせる。その理由は、子が望んでも親は望まないこともあるからだ。

 横山は幹子の肩を抱くと頷いた。

「大丈夫、きっとね」

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