表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

『入学式』

久遠学園の講堂は、まるで神殿のようだった。

大理石の床に光が反射し、空中には金色の紋章が浮かんでいる。

その一つひとつが、**理符りふ**と呼ばれる異能制御式だ。


〈用語補足:理符りふ

久遠学園の構造を支える異能制御装置。

“理制塔”から送られるエネルギーを受信・安定化させる役割を持つ。

建物そのものが巨大な“理回路”として機能している。


講堂中央には、生徒たちが整然と並んでいた。

制服の色で学年が分かれ、

一糸乱れぬ姿勢で壇上の演壇を見つめている。


その規律の正確さに、マオはわずかに眉をひそめた。


(……整いすぎている。

 まるで、この世界の人間は“理の歯車”だな。)


隣に立つヒナが、小声で囁く。


「マオくん、大丈夫? 初日から緊張してる?」

「……緊張、という感情を思い出そうとしている。

「うん? それ、どういう意味?」


マオは答えず、前を見た。

壇上には学園長が立っていた。

銀髪に白衣――その背後には、半透明の立体紋章が浮かんでいる。


「久遠学園に集う者たちよ。

 汝らの力は、理を成す礎となる。

 異能とは混沌の力にあらず――理を守る秩序の証なり。」


朗々とした声が講堂に響く。

生徒たちは一斉に胸へ手を当て、静かに唱和した。


「理の名のもとに、我ら秩序を誓う。」


講堂の空気が揺れ、

天井の理符が同調して金色の光を放つ。

その瞬間、マオの中で何かが反応した。


(……理の共鳴。

 だが、これは“自然”の共鳴ではない――強制だ。)


封印の瞬間に感じた“理の軋み”。

あのときと同じ波動が、わずかに講堂を震わせていた。


ヒナはそんな異変に気づく様子もなく、

「すごいでしょ、光が全部魔力で制御されてるんだよ!」と目を輝かせていた。

マオはその横顔を見つめ、静かに呟く。


「……人は理を信仰し、理を神と呼ぶのか。」

「うん? なに?」

「いや。少し昔のことを思い出しただけだ。」


(理に祈るとは……神が不在の世界か。)


式が終わると、生徒たちは拍手とともにざわめきを取り戻した。

異能による浮遊装飾が消え、金の光が静かに消えていく。

講堂の外、渡り廊下から見える空は澄み切っていた。


ヒナが嬉しそうに伸びをする。


「はぁ~、終わった終わった。

 ねぇマオくん、校舎見学行こ。初日から迷子になっちゃうよ。」

「迷うこともまた、学びの一つだ。」

「もう、そういう言い方ほんとズルい!」


ヒナが笑う。

その笑顔に、マオは一瞬、記憶の底で別の笑みを思い出す。

かつての勇者――リアン・グラン=アーク。

彼もまた、同じように微笑んでいた。


(……この世界の“光”もまた、人の形をしているのか。)


ヒナが小走りで階段へ向かう。


「さ、行こ! 街のほうも少し見てみたいでしょ?」


マオはしばし空を見上げた。

理符が微かに明滅し、天井の彼方で“理の塔”の影が揺れる。


「……ああ。見ておこう、この世界の“外側”を。」


――こうして、マオは初めて“人の群れ”に立った。

 理に支配された平穏の中で、

 彼の中の“魔王”だけが、静かに不協和音を奏でていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ