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Joker oF Way  作者: 相野里緒
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第二部 少女の空想(4)




     #




「今日、集会場の近くにある教会の辺りでお祭りがあるらしいわよ? アリサちゃん誘って行ってくればいいじゃない。若いんだし~」

「お祭り? そんなのあったっけ?」

「あったわよ。あなたが気づかなかっただけだけど、何年かに一度のお祭りだからね……。気づけなかったのはしょうがないか。これの前はたしか、あなたがまだ学校に入る前だったかな?」

「オレに聞かれても……」

「とりあえず行ってきなさい! 理解できないわ。可愛い幼なじみがいるのに定番すぎるお祭りに連れていってもやらないなんて!」

「定番って何の定番さ」

「とりあえずまず家を出なさいよ。アリサちゃんはあなたのことをずっと待ってるわよ」

「引きとめたのは誰さ……。まあいいや、行ってきます」

 息子が目の前の玄関から肌寒い外に向かったのを見送り、大嶋加奈子は肺に意味もなく溜まっていた空気を吐き出した。

「ほんと、鈍いわあの子。まったく誰に似たんだか」

 背後の開けはなたれているドアから誰かが出てきた。まともに寝ていないのか、夜明けだというのにその顔には隈ができている。

「感謝します、加奈子さん」

 納藤倫がドアに寄り掛かりながら言った。

「これでオレも一休みできる……」

 倫はそう言うと、その場にずり落ちてあぐらをかいた。

 結局、有里沙を部屋に戻してベッドに寝かせた後、夜通しで彼女と一央の部屋の周りで警戒していたのだが何かが起きるということはなかった。

 ただ何もなかったのはいいが、あの夜に莫大な量のエネルギーを使い魔術を行使したのにはかわらない。その上徹夜したものだから、倫の体は疲れきっていた。

「ふう」

 体を壁に預けて頭を傾ける。

「へー、珍しくずいぶんとお疲れなのね。いつ以来だったかしら……。アリサちゃんが消えそうになったときも倫、あなたは今みたいにぐだっとしていたわ」

「はは。なんてこと記憶してるんですか。ま、正確に言うと、アリサが消えるわけじゃなく、あのときはこの村の全員の命がヤバくなりかけてたんですけどね」

「今回もヤバい?」

 昨夜の月明かりに照らされた光景。あのとき有里沙本人から、彼女は二重人格であると聞き、さらにこれから何かを引き起こすだろうとも宣告された。

 さらに付け加えて、鳴海霙、村上翔人とその背後の者の動き。村上と対峙した際に感じた、黒幕の冷気と霊力。ただ者ではないのは疑いようもない。

「ヤバいですよ。超ヤバい」

「またアリサちゃん存続の危機?」

「あー……。どうなんだろ……。ただ何者かが彼女たちに接触をはかろうとしているのは確かです。下校途中二人っきりのときを狙ったかのように霊が出没したなんて、故意的にしか思えない。なにしろアリサ本人が霊ですから……」

「ああ、わかったわ。だからカズとアリサちゃんを祭に行かせたのね」

 加奈子は合点がいったようにぽんっと手をうった。

 倫は「ええ」と頷いた。

「いくらなんでも衆人環視の中で派手なことはしないでしょう。学校でもまあ人数はいるにはいるんですが、そろそろ……」

「そろそろ?」

 倫はなにやら気まずそうな渋るような顔つきで頭をわしゃわしゃとかいた。

「ほら……。二人の仲にもそろそろ進展があってもいいかなって……」

 照れるように言った倫を見て、加奈子は思わず笑い出してしまった。

「あははは! ほんと、今日の倫はなにかと珍しいわ。レアモノ倫よ!」

「え……。だから言いたくなかったんだ……」

 倫はそっぽを向いた。顔は見えなくなったが、おそらくは赤くなっているだろう。

 加奈子は笑いを堪えながら話を続ける。

「いやいや。悪い意味じゃないわよ。へー。普段は結構とそういうところに無頓着なくせに、今日はいやにしおらしいわね。じゃあ頑張んなきゃだね、倫。今回も頼りにしてるわよ。私の息子と彼女を、恋路を邪魔しようとする人たちからどうか護ってちょうだい」

 倫は振り返り、加奈子に向かって言った。

「わかってます。カズとアリサは、オレが絶対に護ってみせます」

 朝日の中、倫は微笑んだ。


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