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9. 奇怪な妻(ベルナールside)

 カタカタと揺れる馬車の中、ベルナールは苛立ちのままに舌打ちを漏らした。


 今朝は確かに、昨晩の莫迦に時間を取られたことに苛立っていた。しかし、朝食の席に着いた頃から、それが別の感情に塗り替えられている。

 同じ苛立ちには違いないが、昨晩の莫迦に覚えた嫌悪感しかないものとは違う。言うなれば、どうしたら良いのか分からない、歯痒さのようなものだ。


 そもそもベルナールにとって、妻となったレオノラは奇怪過ぎて、扱い方も接し方もまったく不明だった。


 一々自分のすることに反論してくる様は、確かに腹立たしい。

 寄るなと言っても寄ってくる。黙れと言っても黙らない。

 政敵を始め、反発してくる相手はベルナールにとって等しく憎たらしい排除すべき存在である。筈なのに…


『ベルナール様とお話したいんです』


 そう言われるのは初めてで、憎たらしさはあるが、それを上回るほどの違和感が募る。不快にも思えるその感覚に、また自然と舌打ちが漏れた。


「……チッ」


 ベルナールの人生で女から向けられる評価といえば、大抵が「嫌い」だった。


 威圧的と評されるこの顔が好かれるものでないことは、思春期に入った頃から嫌でも自覚させられた。その所為で歪んだのか、生来のものかは分からないが、プライドの高い性格も、好かれるものでないと認識もしている。


 好かれない容姿と好かれない性格。二つが合わされば立派な嫌われ者の完成だ。


 十代前半の頃はその現実に憤っていた。思春期らしく異性に興味はあったし、同世代の女子に無条件でちやほやされる容姿端麗な男達を、嫉妬混じりに睨みつけていた。


 しかし十代を過ぎるとだんだんと慣れてしまった。それに、揃いも揃って向けられる女の怯えた視線に、一々傷付く自分を許せるほどプライドは低くない。


 少年期を過ぎて大人になればなるほど、ベルナールにとって女の視線はどうでも良くなっていった。


 今まで結婚していなかったのは必要がなかったからで、レオノラと婚姻を決めたのは丁度政略的に都合が良かったからである。

 妻となる相手に興味など欠片もなければ、相手のことなど考えもしなかった。ただ辺境伯と姻戚になった事実だけがあればよく、妻と関わる必要など一切ないとも…


 それがまさか、毎日朝食を一緒に摂り、しきりに話し掛けてくるなど誰が予想しようか。

 何か企んでいるのか、もしや政敵と裏で取引でもしてるのか、と考えもしたが。王宮の主だった貴族達と余計な関わりを持っていないことは結婚前に徹底的に調べあげたばかりだ。


 それに幾らベルナールが疑い深くても、自分に対して「顔が素敵ですね」と言ってレオノラが得をすることなど何もないことくらい分かる。


 いったい何なんだ、とレオノラのことで頭を一杯にしている間に馬車が王宮に到着する。レオノラが嫁いできてから、そんなことがベルナールの日常に増えていた。




読んでいただき誠にありがとうございます。

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