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44. 難しい

「夫婦関係って難しい…」

「まぁ、ここの皆そうだったからね。そんなものなのよ、きっと」


 レオノラが思わず呟いた一言に、若干の憐憫を滲ませながら応えたのは、“旦那様と仲良く愛し愛されたい”同盟のミシェルだ。


 ヒロインと思わぬ会合を果たした次の日、レオノラは愚痴、もとい相談の為にミシェルの屋敷を尋ねていた。


 結局授業の開始に侍女が呼びにくるまで寝たままだった王女殿下は、その事に可哀想なくらい恐縮しながら教師の元へと舞い戻って行った。


 可憐で健気なヒロインの登場と彼女に迫っているらしいベルナールに、夫婦生活の進展の無さを思い知ったレオノラの為、ミシェル達同盟仲間が集まってくれたのだ。


「なんとなく話を聞いてくれることも増えたから、人間関係はちょっとは進んでると思うんだけど…」


 しかし、それもレオノラが煩いのが面倒くさくて聞いてくれている気がしてならない。

 フゥッと短いため息と一緒に、自信無さげな声がでてしまう。


 それに、ベルナールに利益があることをレオノラが提案しているからでもある。

 その証拠に、昨日セラフィーネ王女とのお茶会のどさくさに紛れて「一緒に帰ろう」とした提案はあっさり断られた。


 後ろ向きな考えに浸りそうになるレオノラに、ミシェルがテーブルの菓子を進めながら口を開いた。


「でもお弁当作戦は良い考えだと思うわ。このままインパクトを強めていきましょう」


 明るくさっぱりしたその言葉に、レオノラも暗い考えを紅茶で流し込む。


「そうね。インパクトって大事だものね。でも、どうすれば良いか…」

「花の形に切った飾り野菜を入れるとか。メッセージを書いたメモをいれるとか、どう?」

「あ、いいかもそれ」


 可愛い形に切った野菜やサンドイッチを入れたら、何かもっと反応があるかもしれない。それに、それを食べているベルナールの姿を想像したら、可愛く思えた。


 次の差し入れの時に実践してみよう。とレオノラがどの野菜を使おうかと考えていると、横で聞いていたナンシーが頬に手を当てて可愛く小首を傾げた。


「ええ、でもここは逆に~、お弁当をやめてみるっていうのも手な気がするよ~」

「やめる?」

「そうそう。急にやめたら、向こうも気になるでしょ~」


 片目を瞑って人差し指を口元に当てる、なんとも可愛らしいポーズから発せられた言葉に、反対側のポーラも小さく上品に頷いて見せた。


「たしかに、それも一つの戦法でございますね。押すか、引くか、難しいところであります」

「押してダメなら引いてみろって、立派な恋愛テクニックだよ~」

「相手はゲルツ宰相よ。引いたらそのまま恋の可能性が下火になっちゃうじゃない。ここは攻めの一手よ」


 ポーラ、ナンシー、ミシェル、とそれぞれが真剣に考えてくれる言葉に感謝しかない。が、そのなかにレオノラは気になる単語が聞こえて、思わず項垂れた。


「恋、かぁ……ベルナール様って恋愛するのかな?そういう感情がもともと無いのかもしれない」


 思わずそんな言葉が漏れてしまう。

 ベルナールが恋愛に現を抜かしている様子が、全く想像できない。今の所、彼の行動動機はいつだって仕事か権力の為だったように思える。


 恋だの愛だのというものに重きを置いている様には見えず。はっきり言えば見下していても不思議ではない。

 なにせレオノラが「素敵です」とか「お顔が好きです」と褒めれば「頭が可笑しいのか」と返ってくるのだから捻くれている。


 そんな呟きに共感したのか、ミシェルがズイッと顔を近づけてきた。


「分かるわ!手応えがまったく無いとそう思うわよね」

「ミシェルもそうだったの?」


 うんうん、とミシェルが激しく頷く。横からポーラとナンシーも同意してくる。


「恋情はなくとも家族の情は…なんてことになっても納得いきませんわよね」

「心が満たされないもんね〜。ちゃんと男女としての好きがなくちゃね〜」


 しみじみと語りながら頷く様子から、三人とも同じ様に悩んだことがあるのか、とレオノラは少しだけ気分が浮上してくる。


「もっと頑張ってみようかな…」

「そうよ!まだ諦めるのは早いわ」


 ガシッと手を強く握られレオノラは思わず口の端が緩んだ。なんだかんだ、いつも励ましてくれるミシェル達の優しさに、心が暖かくなる。


「だからこそ、ここはガンガン押して、押しまくるのよ」

「だから〜、引くのも歴としたテクニックだってば〜」

「そんなことしてる間に、別の女に横取りされたらどうするのよ!」


 その言葉に、ギクッとレオノラの肩が反射的に揺れた。別の女という言葉に、レオノラの脳裏にフッと一人の存在が影を差す。

 しかし、他の三人はそうは思わなかったらしい。


「ゲルツ宰相様が、別の女に、とミシェル様は申されましたか?」

「心配いらないんじゃな〜い?ゲルツ宰相でしょ~」

「あ、いや…私もつい、勢いというか…」


 ミシェルも自分で言っておいてあり得ないと思ったのか、気恥ずかしそうに頬を少し赤くしている。


 レオノラは、心当たりが一人居ることをその場で言い出せなかった。

 相手は王女殿下で、下手なことを言えばあっという間に状況が悪くなりかねない。


(ああ…うん、まぁ、そうならないように頑張るしかないよね)


 それに、権力欲に塗れた蛇のような緑眼のベルナールが、あの無垢なセラフィーネ王女に手を出そうとしている姿を思い浮かべると…

 妻の立場として夫が他の女性に迫るのも、推しを鑑賞する立場として死亡エンドへのフラグも、どちらにしても放置はできない。


 ただ、そのゲス顔を想像するとどうしてもそんな場面を見たい気持ちが湧き出てくるから厄介なのだが。


 レオノラは盛り上がる三人にバレないよう、こっそりと深いため息を吐いた。



ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

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