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32. 左遷

 急に声を荒げて嘆く青年の姿にレオノラは一瞬動揺する。が、彼を味方に引き込む為、必死に頭を回した。


「そ…そう!そうなんです!実は、ベルナール様の資料を勝手に見たり、盗み聞きしたりで、貴方のことを知っていたんです」

「……勝手に…?ということは、宰相様のご指示で私のところに来たのでは…」

「違います。ベルナール様は私にお仕事の話は全くしません。会ったのは本当に偶然です。でも、貴方の現状を少し知っていたので、こうして強引に……」

「そ、そう、だったのですね」


 ここは知ったかぶりをして、優位に立てるならそうしようと賭けにでることにした。後で話の整合が取れなくなるリスクはある。が、どうせ何も知らないと言っても信用されないなら、それを逆手に取ってしまえば良い。


(大丈夫。ゲーム知識でできるところまでは、なんとかする。実際、ネズミ司書については知ってるんだし)


 覚えているゲームの会話画面と、目の前のクリスの悲痛な訴えで、彼が蛇宰相に阿るくらいなら左遷を受け入れようとしていることも分かった。


「ところで、勿体ない話だと思います」

「は、はい…?」

「どうして、クリスさんが左遷されないといけないんですか?」

「そ、それは…宰相様の誘いを断り、昇進を逃せば不興を買ってそうなりますよね」


 ということは、ベルナールは彼を昇進させようとしているのか。レオノラの記憶では、ゲームでクリスが語った言葉は「宰相の言いなりになりたくなかった」だった筈。

 昇進の見返りに無理難題を押し付けられる関係になるのが嫌だった、ということか。


 なんとも、悪役キャラとその周辺のテンプレの様な展開ではないか。


「やっぱり勿体ないです。折角の機会なので、昇進を受けてみては?」

「……やはり、貴方も何か私からの見返りを…」

「そんなもの突っぱねて良いんです」

「は?」

「それで理不尽な要求をされるなら、断って良いんです。出世した後なら、クリスさんでも納得できる他の交換条件が提示できるのでは?」

「……それは…」


 今までに無い考えだったらしく、クリスは明らかに動揺して目を泳がせた。


「クリスさんは優秀なんですよね。だからベルナール様に声を掛けられた。だったら、普通に仕事面で役に立つと思わせれば、重宝されるのでは?」


 彼が実際どの程度の能力を持っているのか、レオノラは知らない。が、ゲームでは文官として非常に優秀である、と説明文に書いてあった。

 そもそも、ベルナールから声を掛けられる程だ。往々にして悪役とは、無能な部下が嫌いなもの。勧誘するなら優秀な人間と、相場は決まっている。


 能力主義ではなく、志とか、出会いとか、友情とか、そういうもので繋がるのは、主人公側の人間のすることだ。 


「でも…宰相様のお怒りを…」

「自分で昇進させた人物を、すぐに左遷なんかしたらベルナール様の評判が益々悪くなるだけです。そこを上手く主張すれば、きっと暫くはなんとかなります」

「そ、それは……そう、かもしれませんが…」


 どうも歯切れが悪い。やはり蛇宰相の印象が悪すぎて、その恩恵で出世するのは強い抵抗と恐怖しかないということか。

 しかし文官の仕事に未練はあるのだろう。だから、ゲームでも左遷された後元凶である蛇宰相に遺恨を残していた。


「あの……どうしてそこまで私に?」

「えっ!?えっと……それは、こうして出会えたのも何かの縁ですし。ベルナール様の評判が悪いのは私も気になっていて」

「はぁ…そ、そうなのです、か?」

「とにかく!どうしても嫌ということなら、昇進の話は断っても良いと思います。それならそれで、左遷されないよう考えましょう」

「それは…でも、どうやって…?」

「とにかく、後ろ向きになっても良いことないです。ベルナール様には、クリスさんを即刻左遷するよりも、そのまま今の部署に置いておく方が有用だと、アピールしましょう」


 進退が懸かっているのだから、彼の煮え切らない態度は仕方ない。ベルナールに対する悪印象を今この場で解消するのも無理だ。

 本音を言えば、ヒロイン側ではなく、悪役(蛇宰相)側に付いて欲しかったが。それが無理ならせめて、彼の左遷を阻止し、恨みを持たれるのを防ぐしかない。


 彼がベルナールを恨むようになれば、確実に崖下落下エンドの可能性が高くなる。


 とにかく、少しでもクリスとベルナールの未来を変えなければ。

 レオノラは長くなる作戦会議から彼を離席させない為、チーズケーキの追加を注文することにした。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

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