表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/76

20. 挨拶回り


 結局、ドレス姿には何も言ってくれないのか。

 分かってはいたが、やはり二人の関係性はまだまだ進歩が足りないようだ。


 次回に期待だな、とレオノラが今後の作戦に思考を飛ばしていると、その横から地を這う様な声が響いた。


「いいか。最初は挨拶回りがあるが、貴様は何もするな。何も喋るな。分かったな」

「…はい。分かりました」


 耳が!耳がぁ!と思わず一瞬呆けたレオノラだが、崩れ落ちそうになる足をなんとか踏ん張り耐えた。


 流石に会場入りでエスコート無しは拙いらしく、今レオノラの手はベルナールの手に重ねられ、二人の距離は今までで最高に近い。

 その状態から、ベルナールの冷たい言葉を耳元で言われたものだから、その背筋を這う声にレオノラはゾワワと全身を粟立たせる。普通とは違う意味で。


 ああああ、これぞ悪役。これぞ蛇宰相。

 こんなご褒美があるのなら、毎週王宮で舞踏会を開いてほしい。


 その後のレオノラは、ニッコニコの上機嫌であった。ベルナールが何をしても、今は寛大な心で”推し”の行動を受け止められる。

 たとえ、言われた指示が「喋るな」というあんまりな内容だったとしても気にならない。


「これはゲルツ宰相。ご結婚されたとのことでおめでとうございます。是非奥様をご紹介いただきたいと…」

「これが妻です。それよりも、この度の街道の工事職員の派遣にご尽力いただいたこと、感謝申し上げます。実はまだ計画段階ですが、近々次の……」


 たとえ、妻の紹介を一言で済ませ、さっさと仕事の話に話題を移しても。


「おぉ、ゲルツ宰相。ご無沙汰しております。これは、お美しい奥様を迎えられて…」

「どうぞこれはお気になさらず。ところで次回の予算案について、後日ご相談がありまして、どこかでお時間はありますかな?」


 社交辞令でこちらが褒められたり視線が向いたりする度、嫌そうな顔で眉間に皺を寄せ、何事もなかったように話を逸らしても。


「ゲルツ宰相、どうですかな。今度我が商会が主催するオークションがありまして。是非、素敵な奥様とご一緒に招待させていただきたい」

「生憎と妻は家の外に滅多に出ませんので、恐縮ですが私一人で伺いましょう」


 妻同伴の招待をわざわざ断り、一人で行くと決めてしまっても。


 いや、最後のだけは、お出掛けの機会を潰されて少し残念だったが。

 それでも、仕事人間が私的な近況報告や社交辞令より、さっさと仕事の話題に移るのは仕方ないだろう。


 レオノラが見た限り、相手方も想定内なのか。一応礼儀としてベルナールが結婚した話題には触れたが、本人が一言で片付けてしまう姿に『ああ、やっぱり』という顔をして仕事の話に集中してしまう。


「ゲルツ宰相様。ご結婚されたと聞きました。どうか麗しい奥様に私もご挨拶を…」

「いいえ。どうぞ妻のことはお気になさらず」

 

 挨拶にくる貴族からの視線を遮る様に、エスコートされた腕をグイと引かれ距離を離されてしまう。ベルナールが間に立ち仕事の話を始めてしまう所為で、レオノラは誰ともまともな挨拶の一つできていない。


(まぁ、楽だけどね)


 美しいだ、幸せ者だ、などと社交辞令を並べられたところで、レオノラもなんと返して良いか迷うし、仕事の話に至ってはチンプンカンプンだ。

 

 正直に言えば、特に会話をせずに、横でニコニコしてれば良いだけの状態は楽で良い。しかも、仕事に勤しむベルナールの一面を見れて、一石二鳥。

 チラリと横を見れば、ベルナールも笑ってはいるが、貴族らしく貼り付けただけの作り笑いだと一目で分かった。その瞳は少しも笑っておらず、何かを探るようにギョロリと光っている。


(ああ、悪役っぽくて、良いィ!)


 ほぅっと短く吐き出された溜息を聞いた者は、まさかレオノラがベルナールに見惚れて吐いたものだとは思うまい。

 冷徹な蛇宰相に嫁いだ新妻は、やはり夫に関心を向けられず冷遇されている様子だ。と、殆どの貴族の予想を証明する様な挨拶回りとなったが、憐れむ視線などまるで気付かず。レオノラは暫くベルナールの悪役っぽい顔や言動を堪能していた。


 その後も、グイグイと遠慮もなく引っ張られて次の貴族、次の貴族と連れまわされ、ぐるりと会場を一周した頃には、大分時間が経っていた。そろそろ会場全体にも挨拶を終わらせる空気が流れている。

 先に済ませた者達は、より深い話に入ったり、ダンスへ向かったり、逆に壁際へ移動したり、とそれぞれだ。


 レオノラも、挨拶の後はどうしようか、と歩きながら意識をそちらに向けていると、丁度すぐ横で背中を向けていた人物がくるりと振り返った。

 相手も振り返った先にレオノラ達がいるのは予想外だったのか、ぶつかりそうな程近い距離に目を見開いている。

 これだけであれば、人込みの中で時々起こる偶然だが…


「っ!……くっ、」

「ん?…チッ」


 苦々しい声がどちらのものか。小さな舌打ちは誰のものだったか。考えるより前にビリッと緊張感と火花がその場を走る。

 えっ?とレオノラが顔を上げれば、そこには輝くばかりの美貌を携えた、アレク(攻略対象)が立っていた。



メイン攻略対象登場です。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

ブックマーク登録や評価などいただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんだか妻のことを他人に意識されて嫉妬しているようにも感じるベルナール、可愛いです!!!レオノラの愛も安定してて最高です。そして、ついに来た、攻略対象アレク!!!この後の展開、とても気になります!!続…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ