表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2. 乙女ゲームの悪役

 これはいわゆる、転生、という奴なのか。

 レオノラとして生きてきた二十二年間の記憶に、前世と分かる記憶が流れ込んできた。


 全体的に若干ぼんやりとした記憶だが、そこだけ妙にはっきりしていて、一番重要だと分かるのは、この世界と全く同じ設定の乙女ゲームをプレイしたということ。


 乙女ゲーム『太陽に願えば~Love Melody〜』。

 田舎でのんびり暮らしていたヒロインが、ある日突然王女だったと告げられ、慣れない王宮暮らしが始まるところからスタートする。


 なぜ王女が田舎で隠されていたかというと、生まれた時病弱だった王女だが、対外的には死んだことにし、自然豊かな場所で年頃までのびのび過ごせば健康になる、と占い師が言ったから。


 わざわざ死んだことにする必要が?とも思うが。それが「今日からあなたはプリンセス」というゲームの売り文句と、それまで死んだと思われていた王女に攻略対象達が注目する、という展開に一役買っているので、なんとも言えない。


 王宮に迎えられたヒロインは攻略対象達と絆や愛を深めると同時に、ミニゲームやクエスト課題でステータスを上げて一国の女王になる。というのが大まかなストーリー。


 メインストーリーに沿ってクリアすれば攻略対象は女王になったヒロインと結婚し王配になるのだが、エンディング分岐もあった。

 クリアまでに女王になるステータスが足りないと、王位継承権を公爵子息に譲り、女王ではなく、一人の花嫁として攻略対象と結ばれるのだ。


 ステータス管理がそこそこ厳しく、ただのお姫様物じゃない、という制作側の熱意がプレイしていても十分伝わってきた。


 そして、王位継承という一大事がテーマのこのゲーム。己の権力を高めようと企む悪者が存在していた。

 国の宰相、ベルナール・ゲルツ。通称蛇宰相(へびさいしょう)。というのはもちろん、影で呼ばれるあだ名だが。


 権力欲が強く王宮内でも一大派閥を牛耳る彼にとって、ヒロインは最高の獲物。結婚すれば女王の夫、王配。まさにカモがネギを背負ってきたのだ。


 当然ながら、蛇宰相はヒロインを狙った。カモ鍋を前に箸を構えた奉行よろしく。そりゃもうネチネチと。


 蛇宰相の呼び名通り、ほっそりとした身体に黒髪を後ろに撫でつけ。ギョロッと動く爬虫類のような緑眼は、獲物を狙う時には細められジットリと視線が絡みつく。歳は三十六で、ヒロインとはひと回り以上も歳が離れているというのに。

 見た目に相応しく性格もねちっこくて、攻略対象へは嫌味のオンパレード。ヒロインにはお世辞おべっかのフルコースを、背筋を這うゾワゾワとイヤらしい声で吐きまくっていた。


 そのシーンを思い出し、レオノラは溜息を漏らす。


「ハァ…好き」


 にやける頬を抑えながら、胸を擽る羞恥にパタパタとベッドの上で暴れてみる。

 

 嫌われ悪役の蛇宰相はレオノラの前世の推しだった。権力欲に塗れたところも、蛇のような見た目も、ねちっこい声も。全てがツボ。何よりも、彼のゲス顔は最高だった。


 レオノラは前世、読む漫画観る映画遊ぶゲーム殆どが「悪役」専。人の趣味はそれぞれだからね、と友人には可哀そうなものを見る目を向けられるほど、徹底的に。


 そしてこの『太陽に願えば~Love Melody〜』、通称ラブメロもやっぱり悪役にハマった。


 攻略対象も勿論好きだが、誰が一番かと聞かれれば迷わず蛇宰相を挙げる。クライマックスでヒロインにキス寸前まで無理やり迫る最高のゲス顔、プレイヤー間での通称“ヒロインのトラウマ”シーンを目当てに周回プレイするほどには。


「だってあの顔と声が……たまらないんだもん」


 このまま結婚すれば、それらをずっと堪能できるのか。と妄想してしまう。


 結婚。つまり蛇宰相は妻帯者のクセにヒロインに言い寄っていたのだ。

 というツッコミは度々プレイヤー達の口に上ったが、そこは権力欲の権化。蛇宰相とレオノラは完全政略結婚で、関係性は夫婦というよりむしろ上司と部下。


 攻略対象をレオノラがあの手この手で引き離し、その間に蛇宰相がヒロインに言い寄る。というのがお決まりのパターンであり、レオノラが唯一登場する展開。

 そもそも冷えるほどの夫婦関係すらなかった。

 むしろ蛇宰相が王女を手に入れれば、その恩恵で攻略対象と再婚させてやると持ち掛けられ、喜々として手伝っていた。


 攻略対象が居なくなった途端に影から現れる蛇宰相はかっこよかったなぁ。


 とまたもや思い出してニマニマとしながら、無視できない重大な悩みにも思いを馳せる。


「どうしよう……ベルナール様が死んじゃう」


 初回プレイでレオノラを絶望に叩き落とした、蛇宰相の最期。

 ヒロインに強引に迫るべく色々とやらかしていたことを攻略対象に暴かれ、投獄されるも脱獄し逃亡。その最中、崖から足を踏み外し転落していく展開に、前世で悲鳴をあげて涙したのを覚えている。


 あと一歩でヒロインとキス、というところまで追い詰めたのに。返り咲いてやる、と捨て台詞を残したのに。夢半ばで転落した彼を思うと無念で仕方ない。


 シナリオ通り結婚することは最大のチャンスであり、願わくばレオノラはベルナール死亡を阻止したい。

 が、だからといって彼の野望成就の手助けをするのは憚られる。


 ベルナールの野望とはすなわちヒロインとの再婚。


 貴方は王女だと急に言われて戸惑う中、支えてくれて恋仲になった攻略対象がいるのに、王座狙いの蛇顔の男と無理やり結婚なんて。


「ヒロイン気の毒すぎる……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ