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19. 予想と結果

(…7対3、いや8対2かな)


 部屋の鏡の前に立ったレオノラは、朝からケイティ達にみっちり磨かれた自分の姿を何度も確認する。

 憧れのブランドではないが、ニクソンに選定して貰った中から選んだ“シェリー・アン・シュゼット”という名前の仕立屋で、一月掛けて作ったドレスだ。

 

 流石、仕事の出来る老紳士執事ニクソンが勧めた店なだけあり、完成したドレスは似合っていると自分でも思う。


 薄い青色の生地には花の刺繍が可憐に施され、普段はキツイ印象を与えてしまうレオノラの紅い瞳を、少し柔らかく見せている。

 気合を入れたケイティ達侍女の御業で、化粧を施された顔もかなり華やかになった。

 ぎっちぎちにマッサージで絞られた体とコルセットによって、腰のくびれも胸の盛り上がりも肌の艶感もばっちりだ。


 麗しい淑女に無事変身できた訳だが、レオノラの姿に果たしてベルナールはどんな反応を見せるのか。


(やっぱり7対3で期待してもいいかな…?)


 少なくとも、3割の確率で、この姿を褒めてくれるのではないか。なにせゲーム中では、ヒロインの細かいところまでネチネチと観察しては美しいだの愛らしいだの褒めていたのだし。

 いやいや、しかし期待し過ぎるのもよくない。あれはあくまでヒロイン仕様。レオノラに対しては『ニクソンに聞け』としか思っていないのだから。


 それでも、一応貴族として、夫として、着飾った妻に一声掛けるのは義務ではないだろうか。


 ここ一カ月、ミシェル達とのお茶会の時から考えていたことをグルグルとまた悩んでいると、扉をノックする音と共にニクソンが迎えに来た。


「奥様。旦那様が玄関でお待ちです」

「今行きます」


 期待と緊張を胸に速足で玄関ホールを目指す。

 するとそこには、階段の下からこちらを睨み上げる、理想の悪役宰相が居た。


「わ……」


 その姿に、レオノラは思わず足を止める。

 ベルナールが本日着ているジャケットやズボンは、しっとりと光沢のある黒い生地が使われていた。一目で高級だと分かる仕立ては、細身の身体を更に引き締めて見せる。

 さながら、光る鱗に覆われた、細くしなやかな蛇。その身体をなぞるように視線を上げれば、細い顔の輪郭に浮かぶ、ギョロリと鋭い緑眼。まさに蛇宰相。この顔で厳つい顔でもされようものなら、誰もが背筋を震え上げるだろう。


 そんな風にレオノラが考えた瞬間、まるで神がその願いを聞き届けたかの様に、ベルナールの眉間にグッと皺が寄り、瞳が剣呑な色を帯びた。


「かっこいい…」

「……は?」

「素敵です!ベルナール様、お似合いです。かっこいい」


 まさに悪役。もっといえば、これにもう少し凶悪さを足したら魔王属性も行けるのでは。ああ、この恰好で悪い顔。ゲス顔。悪巧み顔が見たい。叶うなら、”ヒロインのトラウマ”シーンを今すぐ再現してくれないだろうか。ああ、しかしヒロインが居ない。仕方ないから、ここはニクソンにお願いするか。


 感極まったレオノラが思考を若干暴走させながらベルナールに駆け寄った。


「はぁ、素敵。黒の御衣装が似合いますね」


 頬を染めてうっとりするレオノラの前で、ベルナールはポカンと呆けた表情のまま口を半開きにして固まってしまった。

 そのままたっぷり数秒微動だにしない時間が続くので、呼吸はできているのだろうかと心配になる。が、すぐに思い切り眉間に皺が寄ったことにレオノラは逆にホッと安堵した。


「……相変わらず、頭が可笑しいのか」


 瞳の色も剣呑になり、普段の不機嫌顔になってしまったベルナールが、さっさと踵を返して外に待機していた馬車へと乗り込んでしまう。


 好みの顔だと言っているのに、どうして毎回ああも不機嫌になるのか。なんともひねくれている。


 馬車へのエスコートすらしてくれない程怒るとは思わなかったレオノラだが、こうなっては仕方ないと自分も馬車へ乗り込んだ。


 そうして、夫婦で初めての舞踏会へ向かうことになった訳だが。自分の姿に対する感想が一言も無いことに気付いたのは、馬車の中で必死に無言の空気に耐えながら、漸く王宮に到着した後であった。




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