即死コンボ
トレントに《ヴェノムエッジ》の脱力が効くことが分かった後も、僕たちは一階層に留まり、数度にわたってトレントを倒して連携を確認した。
やはりトレント相手に脱力はかなり有効だ。それにマリィの「作戦」――といっても、脱力したトレントを蹴り飛ばして転倒させるだけのもの――が意外に重要であることもわかった。
大切なのは再現性だ。トレントの動きを止め、こちらが確実に攻撃を叩き込める状況をつくる。ただ脱力させるだけでは、その後の動きはまちまちで安定しない。だが、転倒する方向を制御できれば一気に勝負を決められる。
特にリリエットとマリィの連携は、戦うごとに磨きがかかっていった。マリィがトレントを前方へと倒し、そこへリリエットがアイスブランドで正確な突きを繰り出す。硬い外皮を貫くのは難しいが、顔にある目のような洞だけは例外だ。そこに突きが炸裂すれば、あっという間に勝負はつく。
「マリィもリリエットも、二人ともすごい連携だね」
ドロップアイテムを拾い上げながら、僕は素直に感心して声をかけた。
「あたしは転ばしているだけよ。リリエットがすごいの」
「いや、私もただ倒れてきたところを突いているだけだ。むしろマリィのおかげだな」
二人は互いに謙遜しつつ、、どこか誇らしげに笑みを浮かべていた。
「でも、これならトレントが同時に二体現れても、かなりスムーズに倒せそうだね」
今までは僕が一体を受け止め、もう一体をマリィとリリエットに任せていた。武器の相性もあって二人にとっては少し荷が重かったが、今の連携なら十分対応できそうだ。
前回の探索では、距離がある場合はナズカの魔法で一体を先に仕留めていた。しかし、これからは必ずしも必要ないかもしれない。魔法には回数制限がある以上、温存できるならそれに越したことはない。
「ねえ、ナズカ」
「やれやれ、僕はいつまでお預けを食らっていればいいんだろうね」
僕が声をかけると、ナズカはむくれたように答えた。今回の探索では《ヴェノムエッジ》の効果を確かめるため、ナズカには魔法の使用を控えてもらっていた。退屈に感じるのも無理はない。
「それなんだけど、トレント相手なら魔法はなくても十分だと思うんだ」
「えっ……」
ナズカは思わず声を詰まらせ、表情を固くした。ほんの一瞬だけ、取り残されたような顔をしたのが見えた気がした。
「その代わり、五階層の人食い花からはナズカに活躍してもらいたいんだ」
「……なんだ、そういうことか」
安堵が混じったような声でそう言うと、すぐにいつもの調子に戻る。
「そうだね、僕の最強の雷魔法をトレント相手に浪費するのは、やっぱりもったいない。いいとも、五階層までは君たちに任せようじゃないか」
ナズカは胸を張り、再び自信に満ちた笑みを浮かべた。
* * *
だが、五階層に足を踏み入れてみると、僕たちは思わぬ誤算に直面することになった。
いや、誤算といっても、ある意味では嬉しいものだったのだ。
――人食い花には、麻痺も脱力も驚くほどよく効いた。
つまり、魔法に頼らずとも、拍子抜けするほど容易に倒せてしまったのだ。




