炎と氷
ナズカが放った雷の一撃は確かに「最強」と言いたくなる威力だった。
魔法を放ったあとのナズカの表情は、誇らしさとどこか真剣さが入り混じっている。
正直なところ、これまで「最強、最強」と連呼していたから、少し盛ってるんじゃないかと疑っていた部分もあった。
だが、期待以上だった。完全に見直さざるを得ない。
「すごいよ! ナズカ、本当に一撃で倒すなんて!」
そう声をかけると、ナズカは嬉しそうに胸を張る。
「ああ、これほどとは……魔法とは実にすさまじいな」
リリエットも感心したように言い、マリィもうんうんと頷く。
「ふふん、だから言っただろう。偉大なる魔法使いだとね」
ナズカは杖を掲げ、まるで英雄の彫像のように決めポーズを取って見せた。
「うん、本当にすごかった。でも、今度は僕たちの番だね。次は僕とリリエットで倒すよ」
僕がそう告げると、ナズカは余裕たっぷりの笑みで頷いた。
「ふふ、僕の雷魔法にはかなわないと思うけど、君たちの力――見せてもらうよ」
ナズカはすっかり得意になってしまっているが、まあそれだけ心に余裕があるのは悪いことではない。
「マリィもトレントのダンジョンは初めてだから、最初は様子見でお願い」
僕が言うと、マリィは笑顔で頷いた。
「そうね、じゃあ最初は甘えさせてもらうわ」
「リリエット、大丈夫だよね?」
二人でこのダンジョンに挑んだのはもうずいぶん昔のことのように思える。
「もちろんだとも」
リリエットは口の端を上げ、不敵に笑った。
* * *
しばらく探索を続けた後、前方の通路にトレントの姿を発見した。
「行くよ」
僕が声をかけると同時に、リリエットと二人で駆け出す。
トレントはこちらに気づき、太い腕を振り上げる。
だが――遅い。
僕は駆け寄った勢いそのままに、黒溶の戦斧をトレントの胴体へ叩き込んだ。
刃が深く食い込み、傷口には赤く輝く溶岩が湧き出す。
激しく煙が上がり、トレントは後ろに半歩下がる。
「はぁっ!」
その隙を逃さず、リリエットがアイスブランドでトレントの足元を切り裂く。
硬い樹皮に覆われたトレントの体は普通の剣では通らないはずだが、切っ先が触れた場所にぱきぱきと亀裂が走る。
これはアイスブランドの威力と、リリエットの正確無比な剣技のおかげだろう。
トレントは大きく体勢を崩した。
だがリリエットは止まらない。
剣先を瞬時に額に構え直すと、稲妻のような速さで踏み込み、突きを放つ。
人間離れした速度の連続攻撃、彼女のスキル――連撃だ。
アイスブランドの刃がトレントの瞳に刺さり、後頭部から突き抜ける。突き刺さったアイスブランドからは冷気が霧のように広がる。
そして――トレントはその場で光の粒子となり、崩れ落ちた。
――瞬殺。
最初にここに来たときは苦戦した相手だったが、僕たちの装備は融合によって強化され、戦闘経験も積んでいる。
今やまったく別の手応えだ。
リリエットが僕に笑みを向ける。
僕も微笑みを返し、そして後ろを振り返った。
そこには――驚きの表情を隠せないナズカの姿があった。
「どうだろうか。私たちも偉大な魔法使いには及ばないかもしれないが――なかなかだろう?」
リリエットが、勝ち気な笑みを浮かべながら自信満々にそう言う。
意外とナズカの先ほどの言葉が気になっていたのだろうか。
僕はちらりとナズカの様子を窺った。
その顔は――完全に固まっていた。
驚愕、困惑、軽く口が半開きで、さっきまでの余裕の表情はどこかへいってしまったようだ。
「……う、うん、まあ……なかなかやるじゃないか……」
ナズカは目を逸らし、小さな声でつぶやいた。
「これほどとはね……正直、想像以上だよ……」
俯きながら、ぼそりと続けた。




