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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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魔法使いナズカ

 「ねえ、君……大丈夫?」


 僕が声をかけると、地面に座り込んでいた少女は少し驚いたように瞬きをして、こちらを見上げた。


 漆黒の帽子の縁からのぞいた顔は、つややかな黒髪と、宝石のように澄んだ黄玉トパーズ色の瞳。その瞳はわずかに揺れていて、かすかな不安がにじみ出ているようだった。


 だが、次の瞬間――少女はすっと立ち上がり、顔つきを切り替えた。


「やあ、僕に声をかけるとは、見る目があるじゃないか。僕こそは雷を統べる偉大なる魔法使いナズカだ。で、なにか用かい?」


 意外な反応に、僕はほんの少しだけ戸惑う。


 その口ぶりは堂々としているが、先ほど見えた表情が、嘘だったとは思えない。


「えっと、特に用があったわけじゃないけど……。その、君が困ってるみたいだったから……、邪魔しちゃったなら、僕はこれで――」


「ちょっと待った」


 ナズカが僕の言葉をさえぎるように言った。


「さっき、“大丈夫か”って聞いたよね? ……君には、僕が“大丈夫そう”に見えたのかい?」


 まっすぐに向けられた視線に、少しだけたじろぐ。


「いや、正直に言えば……お金がなくて、宿を追い出されたのかなって思った。違った?」


「その通りだよ!」


 ナズカは大げさに肩をすくめ、空を仰いだ。


「だが、僕は偉大な魔法使いだ。ダンジョンに潜れば、資金などすぐに手に入る!たまたま今は持ち合わせがないだけさ」


 かなり個性的な性格のようだ――。


 思わず、僕は後ろにいるネルコを振り返った。


 だが、彼女は意味ありげな含み笑いを浮かべただけで、何も口を挟んではこない。

 どうやら、助けは期待できないらしい。


 僕はもう一度、ナズカに視線を戻す。

 すると、その視線が僕の腰元をじっと見ていることに気づいた。


 ――黒溶の戦斧だ。


 今日は鎧をつけずに出歩いていたけれど、念のために武器だけは装備していた。どうやら、僕が冒険者だと察したようだ。


「えっと、実は僕も冒険者で……」


「うん、そのようだね! なんて奇遇なんだろう。それで?」


 急に身を乗り出してくるような調子に、少したじろぐ。


「今は三人でパーティを組んでいて……」


「三人! それは少し心もとないね。四人ぐらいがバランスがいいんじゃないかな。それで?」


 まるで会話を誘導しているようだったが、何を期待されているのかは察しがついた。


 けれど、ここであえて乗ってみるのも悪くないかもしれない――そんな気がしていた。


 少なくとも、ナズカの身につけているローブや杖は駆け出しのそれではない。本当に魔法が使えるのだとしたら、ダンジョンでの戦力になりそうだ。


「その……。君が良ければ、一度パーティを組んで、試しにダンジョンに行ってみる?」


「いいとも! 僕がパーティに加わったからには、どんな魔物も怖くないよ!」


 即答だった。少し拍子抜けするくらいに。


「その、他のメンバーの了承も必要なんだけど……」


「些細な問題さ。きっと他のメンバーも、僕の魔法を見れば“ぜひ”と言ってくれるだろう。だが――」


 ナズカはわざとらしく額に手を当て、困ったような顔をした。


「だが……不幸なことに、僕は今まさに宿を追い出されたところでね。このままでは、野外で干からびるしかないよ……」


 たった一日野宿しただけで干からびることはないと思うが――

 とはいえ、いくら都市の中とはいえ、無防備に道端で夜を明かせば、トラブルに巻き込まれる可能性は十分にある。


「……じゃあ、僕たちの泊まっている宿に来る?」


 ナズカは、じっと僕の目を見つめたまま、何も言わなかった。


「もちろん、宿代は僕が出すよ」


「――よし! じゃあ、決まりだ!」


 まるでその一言を待っていたかのように、ナズカはぱっと笑顔を咲かせ、手を差し伸べてきた。握手のつもりらしい。


「これからよろしく。えっと……」


 ナズカが言いよどんだ。


 そこで、僕はまだ自分が名乗っていなかったことに気づく。


「僕はユニス。よろしく、ナズカ」


 * * *


 そして、僕たちはそのまま宿へ向かうことになった。


 途中、ネルコが肩をすくめながら、ナズカに聞こえないよう僕にそっと近づいて、小さな声で言った。


「また、そういう子を拾うのね」


「な、何が?」


「ふふ、まあ……あなたって、そういうところあるからね」


 拾ったつもりはないし、“また”というほど前にも同じことがあったわけじゃない。色々と反論が頭に浮かんだけれど、ネルコ相手に口論で勝てる未来がまるで見えなかったので、黙っておくことにした。


 * * *


 宿に着いた頃には、ちょうど夕食時だった。ネルコはそのまま厨房へ向かい、ゴードンさんの手伝いに入った。ナズカには下の食堂で待っていてもらい、僕はリリエットの部屋を訪ねた。


「リリエット、手紙は無事に書けた?」


「ああ、なんとかな。書きたいことが多くてな。少し長くなったが、先ほどギルドに頼んで届けてもらう手はずにしたところだ」


「そっか、良かったよ」


「ユニスの方は、どうしていたんだ?」


「ネルコの買い出しについていってたんだ。それで、ちょっと――思わぬ拾い物があってさ」


「拾い物?」


「いや、正確には“出会い”かな。宿を追い出されてた冒険者がいてね。なんでも魔法使いだって言うから、一度一緒に潜ってみないかって誘ってみたんだ。今、下の食堂で待ってもらってる」


「ほう。魔法使い、か。とにかく、まずは話をしてみないとな」


 リリエットと一緒に食堂へ降り、三人でテーブルについた。


「改めて、僕がユニスで、こっちが一緒にパーティを組んでるリリエットだよ」


「やあ、リリエット! 初めまして! 僕こそは、雷を統べる偉大なる魔法使い――ナズカだ!」


 勢いのある名乗りに、リリエットは一瞬きょとんとしたあと、落ち着いた声で応じた。


「……リリエットだ。よろしく頼む」


 一瞬、気まずい沈黙が流れる。


 空気を和らげようと、僕は話題を変えることにした。


「えっと、ところでナズカ。君は魔法使いで、雷の魔法が使えるってことなの?」


 ナズカは、待ってましたとばかりに胸を張った。


「そうとも! 雷魔法! 最強! 無敵! そして――なによりも、かっこいい!」


 あまりの大声に、厨房の奥からネルコが飛び出してきた。


「ちょっと、あなた。声が大きすぎるわよ。厨房まで丸聞こえなんだから」


「おっと、これは失敬」


 ナズカが照れくさそうに頭をかくと、ネルコは少し真剣な顔つきになった。


「それに、雷魔法って――魔法系のスキルでしょ。魔法って、けっこう制約があるって話よ? 有名な話だから、私でも知ってるわ」


「そうなの?」


 僕が尋ねると、ネルコはうなずいた。


「魔法系のスキルって、たいてい『集中』って状態が必要なの。目を閉じて、数秒間は完全に無防備になるわ。しかも金属製の装備をつけていると、その集中時間がさらに伸びる。だから、魔法使いって大抵、布の装備をしてるのよね」


「へえ……初めて聞いた」


「だから、ナズカちゃん。“最強”って言い切るのは自由だけど、ちゃんと仲間にはそのへんも説明しておいたほうがいいわよ?」


 ネルコのその言葉に、ナズカは一瞬だけ沈黙し――わずかに眉を曇らせた。


「……最強のスキルの前では、些細なことだよ」


 そう言う彼女の顔は、どこか張りつめていて、不安を隠そうとしているようにも見えた。

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