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「スライムゼリー(青)」×「スライムゼリー(黄)」

 朝食を済ませ、装備を整えて宿を出る。


 今日は街をぶらつくだけのつもりだったが、丸腰で歩けるほどの度胸はない。

 さすがに兜だけは宿に置いてきたけれど、それ以外の装備はすべて身に着けている。


 僕はまだ出くわしたことはないけれど、盗賊のような輩がいると聞いたことがある。

 昼間に襲われるなんてことは滅多にないと思いたいけれど、念のためだ。


 腰の皮袋には、今の全財産である600ゴルドが入っている。

 元々、日雇いのころから少しずつ貯めていた分に加え、最近の稼ぎのおかげで懐が温かい。


 まずはギルドの周辺に広がる露店街を歩いてみる。

 水筒、皮袋、バックパックなど、冒険者向けの日用品を扱う店が多い。

 何点か鑑定してみたが、結果が表示されるようなものはほとんどなかった。


 唯一鑑定できたのが麻紐だった。

《麻紐:道具》

 確かに使い道はあるだろうけど、これを素材に融合して良い結果が出る未来が思い浮かばない。


 露店をぶらつきながら思った。

 ドロップアイテムをそのまま売っているような店は、やはり見当たらない。

 普通の人にとって、魔物の素材はそのままでは利用しづらいものが多いのだろう。


 ギルドにも立ち寄ってみる。

 昼間に来るのは初めてだ。

 いつもは人でごった返しているカウンターも、今は落ち着いている。


 販売カウンターを何気なく眺めると、目に留まったのは赤い液体で満たされた小さな瓶だった。


「え、これって……回復のポーションですよね?」


 思わず声が出ると、店員が笑って答えた。


「そうよ、昨日入荷したばかり。すぐ売れる人気商品よ」


 鑑定してみる。

《回復ポーション(小):道具 回復効果・小》


 ポーションは、ダンジョンの魔物が種類を問わず極まれにドロップするらしい。

 なかでも、回復ポーションはもっともよくドロップするもので、そこそこ流通しているが僕は売っているのは初めて見た。


 使いどころを間違えなければ命を繋いでくれる。


「いくらですか?」

「これは500ゴルドね。すぐ売れるから、買うなら今のうちよ」


 僕の所持金は600ゴルド。

 今朝の宿代はすでに支払ってある。

 残り100ゴルドでも、明日の宿代を払って、明日またダンジョンで稼げば問題ない。


 日雇い時代、一日100ゴルド稼いで80ゴルドの宿代を払う。

 20ゴルドを貯めるのが精いっぱいだった。

 今は、平均して一日200ゴルド前後稼げている。

 100ゴルドずつ貯金ができていると考えれば、いま500ゴルドを支払てもすぐに取り戻せるはずだ。


「買います」


 ポーションは透明な瓶に入っており、この容器は壊れにくいことで知られている。

 僕が以前飲んだスキルポーションの空き瓶も、実は捨てずに取ってある。

 念のため、回復ポーションをバックパックの中に大事にしまい込む。


 ギルドを出たあと、街をぶらぶらと歩く。

 今日は一日、街を散策する予定だったが、もうほとんどお金がなくなってしまった。


 でも、素材を買えなくても、新しい融合のアイディアが浮かぶかもしれない。

 そう思って、北の通りにある防具屋へと足を運ぶ。


 この店は、僕が今使っている皮製の防具一式を買った場所だ。

 皮鎧をメインに扱っていて、冒険者の出入りも多い。


 僕の装備はこの店で売られている中でも最も安価な部類だが、それでも全部そろえるのに千ゴルドかかった。

 日雇い時代、少しずつ買いそろえた日々を思い出す。


「よう、いらっしゃい」


 店主がいつものように気さくに声をかけてくれる。


 店内にはサイズ別に皮の装備がずらりと並び、購入時には細かいサイズ調整もしてくれる。


 今、僕が見ているのは、ワンランク上の装備。

 狼革の鎧。

 鑑定すると、《狼革の鎧:鎧 防御力4》と出た


 さらにその奥、カウンターの内側に飾るように置かれているのは、鎧は。

 緑色の鱗が何重にも重なったそれは、見るからに高そうだった。

 鑑定すると、《蜥蜴鱗の鎧:鎧 防御力6》と出た。


「この鎧って、いくらですか?」


 僕はまず狼革の鎧を指さす。


「これなら600ゴルド。兜も600。小手とか靴は一つ300だな。全部そろえると3000ゴルドだ」


 やはり、それなりにする。


「じゃあ、あの奥の鎧は?」


「こいつは一つ一つが特注だ。鎧だけで1200ゴルド。

 全部なら6000ゴルドってとこだな。

 注文が入ってから作るから、何日か待つことになる。

 注文していくか?」


「いえ、お金が……」


「だろうな。坊主、この鎧が似合うくらい稼げるようになれよ」


 そう言って笑う店主、だが僕の装備に目を移すとぴたりと動きを止めた。


「ん? ちょっと待て坊主。その小手……ちょっと見せてみろよ」


「え、それは……」


「頼むよ。見るだけだからさ」


 正直、融合で出来た装備を見せるのはなにか危険な気もするが、この店主には色々聞きたいことがある。

 ここで無下にするのも気が引けた。


「……このままでよければ……」


 僕は小手をつけたまま、腕を差し出した。


「これは……ダンジョン産の装備か?」


「えぇ、まぁ……」


 曖昧に頷く。


 魔物の持っていた武器や防具がドロップすることは珍しくない。

 ゴブリンが落とす、棍棒やナイフもその一つだ。

 だが、店主の言う“ダンジョン産の装備”は、それとは違う。

 

 魔物の中には、ごくまれに他の個体とは違う特別な装備を持つ個体がいて、その装備をそのままドロップすることがある。

 それらの装備が俗にいう“ダンジョン産の装備”なのだ。


 もちろん、この小手は融合で作ったものなのでダンジョン産ではないのだが、スキルのことをペラペラと喋ることはない。


「スライム系の素材が使われているようだが……こんなのは初めて見た。良いものを見せてもらったよ」


「代わりにちょっと聞きたいですが、あの奥の鎧って何の素材なんですか?」


「あれは、南のダンジョンにいるリザードマンの鱗だよ」


「その素材、売ってもらえませんか?」


 一瞬、店主の表情が固まる。


「悪いな。ギルドから仕入れてる素材は転売禁止って組合の決まりがあるんだ」


「そうですか……すみません」


「何に使う気かは知らんが、冒険者なら自分で取りに行くんだな」


「確かに、そうですね」


「また来ます」


 そう言って、防具屋を後にした。


 リザードマンの鱗か……。

 そのダンジョンはいつか挑んでみたいが、リザードマンは成人男性ほどの体格に、筋肉も発達していて、太い尻尾で打ち据えられると、骨が何本も折れるという話もある。


 いずれ、だ。


 宿屋に戻り、夕食を済ませて部屋に戻る。


 翌朝。

 左足の皮の靴に、スライムゼリー(黄)を融合する。


《黄色スライムの靴(左):防御力2 打撃耐性+1 跳躍性能+1 魔法耐性−1 ※ユニス以外が装備すると破損》


 装備してみると、やっぱり少し跳ねやすくなった気がする。

 部屋で軽く飛び跳ねて確認してみる。


 悪くない。左右がそろって、歩きやすくもなった。


 意気揚々とダンジョンへ向かう。


 歩いていると、足が疲れにくくなっている気がした。

 踏みしめたとき、素材のせいか軽く押し返されるような反発があり、歩くのが楽だった。 鑑定結果にはなかったが、これも嬉しい誤算だ。


 その日もゴブリンを二十体倒し、無事に帰還。


 今日の稼ぎは220ゴルド。


 昨日、貯えがなくなったので安定的に稼げるゴブリンはありがたい。

 靴のおかげで戦闘が特別楽になったというわけではないが、防御力が上がっているのは心強い。


 宿に戻り、夕食を済ませ、明日の融合について考える。


 次は鎧を強化したい。

 ゴブリンのナイフを思えば、胴体に斬撃耐性がついていると安心だ。

 ここはスライムゼリー(青)を鎧に融合するべきか。


 そこまで考えて、ふとスライムゼリー(青)とスライムゼリー(黄)を融合したらいいのではないかという気がしてきた。

 上手くいけば両方の性質が合わされば、斬撃と打撃の両方に耐性がつくかもしれない。


 翌朝。


 ゼリーを両手に持って融合と念じる。


 手のひら大の緑色のゼリーができた。

 鑑定すると《スライムゼリー(緑):素材》と出た。


 触ってみると、青のぷにぷにと黄の弾力が混ざったような感触。


 これは、いけるかもしれない。


 だが、融合スキルは一日一回しか使えない。


 もどかしい気持ちを抱えながら、僕は今日もゴブリンダンジョンへと向かった。

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