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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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「大蜘蛛の粘着糸」×「大蜘蛛の絹糸」

 何となく不吉な予感から始まった探索だが、探索自体は順調に進んだ。


 大蜘蛛相手も、今となってはマリィとリリエットの連携でほぼ完封できている。


 未踏の通路を一本ずつ潰しながら、僕たちは地図を更新し、ほどなくして二階層への階段を発見した。


 「階段ね」


 マリィが足を止め、軽く顎で先を示す。


 「行くのだろう?」


 リリエットが僕に視線を向けた。


 まだ探索を始めたばかりで、体力にも余裕がある。


 「うん、そうだね。でも油断しないでね」


 僕がそう答えると、二人は軽く頷き、階段を下りていった。


   * * *


 二階層も特に問題はなかった。


 大蜘蛛たちは現れるが、マリィの動きは素早く正確で、リリエットの剣捌きにはまるで無駄がない。


 僕はというと、盾を構え、敵を引き付ける囮役に徹していた。


 ――この調子なら、三階層まで行けるかもしれない。


 そう思った、その時だった。


 通路の先に、大きな影が見えた。


 「いるね」


 僕は自然と足を止め、盾を構えた。


 大蜘蛛もこちらに気づいたようだった。


 八本の足を蠢かせ、こちらに向かってくる。だが、どこか様子がおかしい。僕たちの五、六メートル手前でピタリと足を止めた。


 「ユニス、背中! 青い模様よ!」


 マリィの叫びと同時に、大蜘蛛が身体を持ち上げ、腹部を曲げ、お尻の突起をこちらに向けた。


 糸だ!


 白い糸が勢いよく飛んできた。


 空気を切り裂くような音とともに、糸は僕の構えた盾に直撃した。


 バシュッと軽い音。糸は盾にぶつかると同時に広がり、僕の腕や脚へと瞬く間に絡みついた。


 「なっ……!」


 衝撃はそれほどでもない。けれど、次の瞬間には足が床に縫い付けられていた。

 

 動けない。


 「……粘着性の糸だ!」


 咄嗟に叫ぶ。


 幸い、マリィとリリエットは巻き込まれていない。だが、急がなければ……パーティ全員が動けなくなった時点で、全滅は避けられない。


 「次を撃たせちゃダメだ!」


 僕はそう叫びながら、必死に体をよじった。


 けれど、糸は微動だにしない。動けば動くほど、むしろ糸が広がり粘着が増していく気さえする。


 二人は駆け出していた。


 大蜘蛛は狙いをマリィに切り替えたのか、姿勢を維持したまま、八本の脚を細かく動かし、ゆっくりとその体をマリィの方へ向ける。


 ――でも、遅い。


 マリィの方が早かった。


 駆け出した勢いのまま、パラライズファングが蜘蛛の脚を切り裂く。


 斬り込んだ箇所に麻痺が回ったのか、蜘蛛はまるで尻餅をつくように後ろへ崩れ落ちた。


 そこに遅れてリリエットが到達し、正面から一閃。


 「はあっ!」


 アイスブランドの斬撃が大蜘蛛の頭部を切り裂いた。


 大蜘蛛の体が一瞬揺らいだかと思うと、光の粒となって霧散していく。


 それと同時に、僕の体を絡めていた糸も、まるで雪が溶けていくようにゆるみ、そのまま跡形もなく消えていった。


 「ユニス!」


 リリエットがこちらを振り返る。


 「大丈夫、何ともないよ」


 僕はそう答え、二人の元へ駆け寄った。


 「大蜘蛛を倒すと、糸も消えるのか」


 リリエットが観察するように言った。


 「そうみたいだね。でも……あれ、かなり危険だよ」


 もしソロで挑んでいたら、一発で詰んでいただろう。


 「隊列や戦い方を変える必要があるだろうか?」


 「いや、このままで大丈夫だよ」


 僕は首を振る。


 確かに危険ではある。けれど、僕たちは三人だ。盾役である僕が拘束されても、残りの二人が確実に対処できる。


 「まあ、あたしたちの場合、ユニスがちょっとだけ糸まみれになるだけだものね」


 マリィが笑いながら肩をすくめる。


 「……まあ、その通りだね」


 結局、僕たちは青い模様を持つ個体と出会った場合、発見した時点で即座に距離を詰める、という戦術を決めた。


 ただし、模様は意外と近づかないと分からない。


 おそらく、次に出会った時も、最初の糸は僕が食らうことになるだろう。


 まあ、それだけなら僕が多少不快な思いをするだけだから問題ない。


「あ、そういえばドロップは?」


 地面を確認すると、透明な膜に包まれた糸の塊が落ちていた。


 僕はすぐさま鑑定を行った。


 《大蜘蛛の粘着糸:素材》


 恐る恐る指先で触れてみる。膜のおかげか、べたつくことはなかった。これならバックパックに入れても問題なさそうだ。


 その後も探索を続けたが、大きな危険はなく、バックパックが素材でいっぱいになったところで探索を打ち切ることにした。青い模様の大蜘蛛はあの一体きりで、その後は現れなかった。どうやら、あの個体はそう頻繁に出現するものではないらしい。


 何はともあれ、無事に探索を終えられた。そう思えば、今日は上出来な一日だった。


   * * *


 翌日、マリィと合流して、昨日話していた通り、グリーブの融合を試すことになった。場所は街の外れ、裏路地にある人通りの少ない場所だ。


「じゃあ……始めるね」


 僕はグリーブと黒狼の革を両手に持ち、目を閉じて集中する。今回は、形状を“グリーブ”ではなく“小手”としてイメージしていた。狙いは、イメージがどこまで融合結果に反映されるかの検証だ。


 融合。


 光が走り、手元に新しい装備が現れる。


《狼革のグリーブ(右):小手 防御力2 ※マリィ以外が使用すると破損》


「ふむ、やはりイメージはどうあれ、融合素材となったものの形が影響するのか」


 リリエットが結果を見て、頷く。


「そうみたいだね。やっぱり、何でもかんでもイメージ通りってわけじゃないね」


 僕も肩をすくめながら答えた。どうやら、素材の形状が明確な場合は、イメージが及ぼせる範囲に限界があるようだった。


「でも、よかったわ。もし本当に小手になってたら、無駄な出費になるところだったし」


 マリィがグリーブを装着しながら言った。その通りだった。もし形状が変わってしまえば、マリィが付けるグリーブがなくなってしまうので買い直す羽目になっていた。それに備えて、今日は都市を出る前に裏路地で融合したのだが、結果的に杞憂に終わってくれて助かった。


   * * *


 この日の探索も大きな問題はなかった。三階層への階段こそ見つからなかったが、迷宮内の未踏部分を少しずつ埋めていくことができた。


 帰り道、マリィが「左右で素材が違うと結構、変な感じね」とグリーブを軽く叩いて笑っていた。


   * * *


 そして翌日。今度は左のグリーブに黒狼の革を融合した。左右で素材が異なると違和感があるとのマリィの希望で、優先して揃えることにしたのだ。


 融合は無事に成功し、《狼革のグリーブ(左)》が完成。防御力も右と同じ2で、対としての装備がようやく整った。


 一日一回しか融合できないという制限はもどかしくもあるが、普通の冒険者が装備を買い換えるまでにかかる時間や金銭を考えれば、僕たちのアドバンテージは相当なものだ。


 この日も探索は順調だった。三階層に通じる階段をついに発見し、そこで探索を切り上げた。


 ただ、今日は青い模様のある特殊な大蜘蛛と二度も遭遇し、僕はその度に糸まみれになる羽目になった。幸い被害は僕だけで、マリィとリリエットが迅速に討伐してくれたおかげで、深刻な事態にはならなかった。


 帰り道、僕は今日も手に入った“大蜘蛛の粘着糸”について話を切り出した。


「青い模様のやつがドロップする糸、やっぱり使い道あるよね。敵を拘束できる武器とか、できないかな」


「確かに、拘束効果が再現できるなら強力だが……剣や短剣に融合して、うまくいくとは私は思えないな」


 リリエットが難しそうな顔をする。


「持ち手がネバネバするだけの武器ができそうよね」


 マリィが苦笑した。


「バインドウィップ……とか、どうかな?」


「鞭なら相性は良さそうだけど……誰が使うの?」


 その問題があった。もともとはスリをしていたマリィを捕まえるために作った武器で、ダンジョンでの実戦で使ったことは結局、一度もない。そんな装備に一日一回の融合を割くのは、少しもったいない気もする。


 それに、次に控えている敵は百足系の魔物だ。動きを止めるのに鞭を使うのは、相当な技術が必要になりそうだ。


「じゃあ、いっそ糸同士を融合して、ボールにしてみない? 投げて使うのよ」


 マリィが提案した。


「投げる道具……なるほど、使い捨てということか」


 リリエットが頷く。


「そう。たった一回でも、ピンチを切り抜けられるなら意味はあると思うの」


 確かにそれなら、保険になる。ポーションみたいに一回きりの効果でも、状況によっては命を救ってくれる可能性がある。


「でも、そんな都合よく……」


「だからイメージよ。敵にぶつかって、足とかに絡みつくような糸玉。できなくないと思うけど」


 ……試す価値は、ある。


   * * *


 翌朝、マリィと合流して、ダンジョンへ向かう途中で件の融合を試すことにした。


「この辺りでいい?」


 マリィが周囲を見回しながら言った。


「うん。じゃあ、昨日話していた融合を試してみようか」


 僕はバックパックから、大蜘蛛の粘着糸と絹糸を取り出した。どちらも昨日の戦闘で手に入れた素材だ。


 粘着糸同士を融合する案もあったが、絹糸の方が一般的な糸に近く、球状にまとめやすいイメージが浮かんだ。それに貴重な粘着糸の節約にもなる。


 両手に糸を持ち、目を閉じて集中する。


 ――敵を拘束する、投擲型の糸玉。


 融合。


 光が収まり、拳大の球状の物体が現れた。表面はさらさらしている。形は思い描いた通りだ。


 鑑定。


《大蜘蛛の捕獲玉:道具 拘束効果(中)》


「……できた。大蜘蛛の捕獲玉、拘束効果中だって」


「やったじゃない!」


 マリィが声を弾ませる。


「狙い通り、だな」


 リリエットも小さく頷いた。


 僕は捕獲玉を、ポーションをしまっているポーチに丁寧に収めた。この先の探索のどこかで、この“一度きりの切り札”が必要になる場面があるかもしれない。


 そう思うと、自然と背筋が伸びた。気を引き締めて、再びダンジョンに向かって歩き始めた。

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