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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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三つ葉のクローバー

 「ねえ、融合結果はどうだったの?」


 迷宮都市の門で合流し、歩き始めてしばらくしてから、マリィがそう尋ねてきた。周囲に人通りがなくなったのを見計らっての質問だ。視線は、リリエットの足元――彼女のグリーブに向けられている。


 「実は……半分成功、半分失敗ってところだね」


 僕がそう答えると、マリィが目を丸くした。


 「どういうこと?」


 僕は、今朝起きたことを簡潔に説明した。


 融合の結果として生まれたのは、意図していたグリーブではなく、薄手の衣服――《黒糸のストッキング》だったこと。そして、結局それは防具の下に身につけることになったこと。やはり融合時のイメージが、ある程度結果に影響を及ぼす可能性があると感じたことを伝えた。


 「ふーん、でもやっぱり融合するときのイメージが結果に影響したってことよね? それって、すごいことよね」


 マリィは感心したように言いながら、軽快な足取りで僕たちの前を歩いていく。


 「うん、それは間違いないね。でも、なんでもイメージ通りにできるわけじゃないみたい」


 グリーブとストッキングでは、形状も機能もまるで異なる。共通点といえば、”足に身に着けるもの”という点くらいだ。


 「たぶんだけど、イメージが影響できる範囲って、ある程度決まってるんじゃないかな。素材の組み合わせによって、できるものの“自由度”が違うというか」


 僕は、過去の融合を思い出していた。ナイフを二本融合して、ショートソードになるかと思って試したことがあった。だけど、できあがったのは《ツインヘッドダガー》という、奇妙な双頭の短剣だった。あの融合は、どんなイメージを抱こうと、結果が変わることはなかったのかもしれない。


 一方で、今回の革と糸の融合は、素材の段階では形や用途が定まっていなかった。だからこそ、イメージの影響が入り込む余地があって、クロークとストッキングに結果が分かれたのではないかと思っている。


 「私も同意見だ」


 リリエットが言葉を挟んだ。


 「それで思ったのだが……次は、グリーブに黒狼の革を直接融合してみるのはどうだろうか?」


 「いつもの融合パターンだね」


 「そうだ。ただし、今度は“小手”をイメージして融合する。これで、どの程度イメージが完成品に影響するか、ある程度は見えてくるはずだ」


 なるほど、グリーブと小手は使う素材の系統は同じでも、形状が違う。イメージの違いがそのまま結果に反映されるか、検証にはもってこいの実験だ。


 「確かにちょうどいい実験になりそうだね」


 唯一の欠点は、本当に小手が出来てしまった場合、すぐには使い道がないことくらいだろう。


 「次の融合はマリィの防具にしてはどうだろうか?」


 リリエットが、マリィと僕の両方を見ながら尋ねてきた。


 「いいの? リリエットの装備、今回できなかったんでしょ?」


 マリィが少し驚いたように聞き返す。


 「ああ。だが私は、次はリザードマンの鱗か、例の百足の素材で装備を試してみたいと思っている。今回はあくまで実験として、黒狼の革を使ったまでだ」


 リリエットの言葉に、僕も納得する。実際、防具屋で見た限りでは、リザードマンの鱗で作った鎧のほうが、狼革より防御力が高かった。


 ただ、マリィは以前から、鱗同士が擦れて出る音が気になるのと、柔軟性を重視して狼革の方が良いと言っていた。


 「そう? じゃあ、あたしとしては問題ないわ。どうせなら、狼革で揃えたいと思ってたの」


 マリィが嬉しそうに答える。


 「僕もそれでいいと思うよ」


 僕も頷き、そう言った。


 そんな会話をしながら、今日もまた迷宮へと歩を進めていった。


   * * *


「今日は、先客がいるね」


 ダンジョンの入り口にたどり着くと、そこにはすでに準備を整えている別のパーティがいた。三人組で、全員が女性のようだった。装備を確認しながら、軽く言葉を交わしている。どうやら、最終チェックを終えて、これから階段を降りるところのようだ。


 僕たちは距離を開け、立ち止まり、その様子を静かに見送った。


 冒険者同士の間では、こうした時にすぐ続けてダンジョンに入るのは避けるのが暗黙のルールだ。魔物の取り合いや、不用意な接近によるトラブルを防ぐため、一定の距離を保つのが望ましいとされている。


「少し、間を空けてから入ろう」


 僕がそう言うと、リリエットとマリィも頷き、それぞれ静かに装備の点検を始めた。


「ねえ、今のパーティって……」


 ふいに、マリィが小声で言った。


「え、知り合いだったの?」


「違うわよ。ほら、あの……トレントのダンジョンで有名だったパーティよ」


「ああ、ルミナスクローバーか。私も、どこかで見たことがあるような気がしていたのだ」


 確かに、そんな名前のパーティがいた。トレントのダンジョンでもかなり深い階層まで踏破していた、実力者たちだ。ギルドで素材を売却しているところを、一度だけ見かけたことがある。


 あの時は、サハギンのダンジョンよりも先にトレントが討伐されてしまうのではないかと、焦りを覚えたのを思い出す。


「でも、彼女たちって四人組じゃなかった?」


「ええ。私もそう記憶してるけど……」


 何らかの理由で、メンバーが減ったのだろうか。体調不良か、あるいは――。


 考えかけたところで、僕は首を振った。


「まあ、僕らが考えても仕方ないね。もう十分、時間も空けたし……僕らも行こうか」


「うん」


「了解だ」


 二人が軽く頷き、僕たちは階段を降りる。


 考えても仕方ない。口ではそう言ったけれど、さきほどの会話はわずかな違和感として胸の奥に引っかかったままだった。


 ――それでも、いまはただ、目の前の探索に集中するしかなかった。


【次回更新について】


 いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます。


 これまで毎日投稿を続けてまいりましたが、最近は私自身を含め、家族の体調不良が続いております。大変申し訳ありませんが、《《3日間のお休みをいただきます》》。


(この4月から娘たちが保育園に通うようになり、ありがたくも日々いろいろな菌を持ち帰ってくるようになりました……。)


 次回の更新は【6月27日(金)】を予定しております。


 引き続き本作を楽しんでいただけると幸いです。

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