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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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糸付きブーメラン

 白く光る絹糸を拾い上げ、僕たちはそのまま探索を再開した。


 そしてすぐに、二体目の大蜘蛛と遭遇する。


 通路の奥から、黒い影がこちらへ向かってくる。姿は先ほどと同じ。あの異様な見た目に、一瞬だけ身体がこわばる……けれど、もう一度深く息を吸って、構えを取った。


 大丈夫。さっきと同じだ。他の魔物と比べて、特別に強いわけじゃない。慣れさえすれば、対応できる。


 蒼花紋の盾の効果で、虫系の敵対心が上がっているおかげか、またしても真っ直ぐ僕に向かってくる大蜘蛛。


 前足が振り下ろされるのを盾で受け、大蜘蛛が噛みつこうと顔を伸ばしてきたところで、リリエットが横から斬り込んだ。


 足を斬り飛ばされ、よろめいた大蜘蛛に、さらに渾身の一撃。


 氷の剣が頭を割る。大蜘蛛は光の粒となって消えていった。


 リリエットの動きは完璧だった。アイスブランドを完全に使いこなし、動きも全く無駄がない。


 でも、ふと横を見ると――マリィは、また一歩も動けていなかった。


「……ごめんなさい。あたし、まだ……」


 マリィは、悔しそうに目を伏せながらそう呟いた。


「慌てることないよ。やっぱり、こいつは今までの敵とちょっと毛色が違うからさ。ゆっくり慣れていけばいいよ」


 できるだけ、何でもないような調子で答えた。けれど、マリィの返事は、少しだけ元気がなかった。


「ありがとう……頑張るわ」


 僕たちは探索を続けた。


 大蜘蛛は一体ずつしか出てこない。一体だけなら、僕とリリエットでも十分倒せる。慣れてくれば所詮は一階層の魔物だ。マリィには、慣れるまでじっくり様子を見てもらえばいい――そう思っていた。


 でも、三体目も、四体目も――結果は同じだった。


 マリィは僕の隣で武器を構えたまま、結局動けなかった。そして、回数を重ねるごとに、マリィの表情はどんどん暗くなっていく。慣れるどころか、むしろプレッシャーだけが強くなってしまっているのかもしれない。


 僕は四体目のドロップを拾い上げて、ふぅっと息を吐いた。


「今日は、ここまでにしよう」


 唐突にそう言った僕に、マリィが慌てて顔を上げた。


「あ、あたしは大丈夫よ。次は上手くやるわ」


 その言葉は本心だと思う。だけど――このまま繰り返しても、逆効果な気がした。


「うん、分かってる。でも今は一旦、ダンジョンを出よう。今日はここまでにして、明日、また改めて考えよう。一日置いて、気持ちを切り替えるんだ」


 マリィは少しだけためらってから、静かに頷いた。


「……わかったわ」


 隣で様子を見ていたリリエットも心配そうにマリィを見たが、うなずくだけで何も言わなかった。


   * * *


 僕たちはダンジョンを出て、外の空気を吸い込んだ。


 新鮮な空気が肺を満たす。マリィも少しだけ表情を和らげて、静かに深呼吸していた。


 そのまま、いつものように迷宮都市への道を歩き出す。だけど――今日は、いつものような会話はなかった。


 僕自身、どんな言葉をかければいいのか分からなかった。ただ、少しでもマリィの心が楽になるようにと、言葉を考えては結局、声に出せず、ぐるぐると同じようなことを考えていた。


 やがて都市の門が見えたところで、マリィがぽつりと口を開いた。


「今日は……ごめんなさい。また明日も、門の前でいいわよね。じゃあ、またね」


 そう言って、軽く手を振ろうとするマリィの背に、僕はすかさず声をかけた。


「待ってよ、まだギルドで換金してないよ」


 僕の言葉に、マリィは振り返る。


「あたしは今日は、何もできてないもの。貰うわけにはいかないわ」


「だめだよ。ついてきて」


 思わず、少し強い口調になった。自分でも驚いたくらいだ。


 でも、ここで引き下がってはいけない気がした。


 マリィは僕の口調に驚いたように目を見開いたが、やがて小さく頷いた。


   * * *


 ギルドでの換金はあっさりと終わった。


 今日の探索で得た大蜘蛛の絹糸は四つ。そのうちのひとつは融合の素材として残したので、売却したのは三つ。


 買い取り額はひとつ20ゴルドだった。合計60ゴルド。


 三人で分けて、一人20ゴルド。


 今まで一番低い額だが、確かに、今日の冒険の成果だ。


 ギルドの建物を出て、僕はマリィとリリエットに向き合った。


「はい、今日の分だね」


 僕は、20ゴルドを手渡した。


「ありがとう……」


 マリィはほんの少し迷ったような表情を見せたけれど、しっかりと受け取ってくれた。


「ねえ、今日の冒険、僕は失敗だったなんて思ってないよ」


 その言葉に、マリィが顔を上げる。


「マリィは苦手って言ってたのに、それでも大蜘蛛のダンジョンに行こうって決めてくれた。それだけで、十分すごいことだと思うんだ」


「でも……何もできなかった」


「それでも構わないよ。無理して我慢する必要なんてない。僕たちはパーティなんだから、誰か一人が全部を背負う必要なんかないんだ。……考えてみたけど、無理にあのダンジョンにこだわることもないよ。別のダンジョンだって、深く潜れば良い素材は手に入るよ」


 マリィは小さく唇をかんだ。


 だけど、その瞳には、ほんの少し光が戻っていた。


「……ありがとう。でも、あのダンジョンを諦めるかどうか、もう少しだけ考えさせて。あたしだって、何もできないままじゃ悔しいから」


 その言葉に、ほんの少し、いつものマリィらしさが戻ってきた気がした。


「もちろん。じゃあ、明日の朝は僕たちの宿で待ち合わせしよう。そこで改めて話そう」


「うん、そうね。……ありがとう」


   * * *


 マリィと別れたあと、僕とリリエットは並んで宿への道を歩いていた。


「……あれで良かったのかな」


 胸のあたりがどこかもやもやして、言葉が自然とこぼれた。


 僕の問いに、リリエットは少しだけ歩調を緩めて振り向いた。


「そうだな。結局は、マリィ自身の気持ち次第だな。だが……先ほどのユニスの対応は、リーダーとして立派だったと私は思うぞ」


 リリエットの横顔は、いつもより穏やかに見えた。


「そうかな……そうだといいんだけど」


 リーダーなんて言葉がまだしっくりこない。だけど、誰かを傷つけるような選択だけは、しないでいたいと思っている。


「とはいえ、他に私たちにできることがあれば、試してみたいところだな」


「うん。実は、少し考えてたんだ。……もっとリーチのある武器を作って、マリィに使ってもらうのはどうかな」


 僕がそう言うと、リリエットは顎に手を当て、少しだけ思案顔を浮かべる。


「なるほど。距離を取れるなら、少しは気持ちが楽かもしれないな。だが、何か当てはあるのか?」


「うん、ほら……ずいぶん前にサハギンの骨棍棒から作った、ブーメランがあったでしょ? あれを応用できないかなって」


「投擲武器、か……。確かに、それなら心理的なハードルは下がるかもしれない。だが、あのままでは武器としての威力は乏しいな」


「そこなんだよね。でも、今日拾った大蜘蛛の絹糸、あれを組み合わせたらどうかな?」


「ふむ、絹糸……で?」


「えっと……糸付きブーメラン、みたいな……?」


 言ってから、自分でもバカみたいなことを言ってる気がしてきて、言葉尻が自然としぼんだ。


 リリエットは黙って肩をすくめただけだった。たぶん、冗談だと思われた。


 結構、本気で考えていたんだけどな……。


 その後も、僕たちはいくつか融合のアイデアを出し合ってみたが、「これだ」と思える組み合わせにはたどり着けなかった


 結局その日は、それ以上の答えを見つけられないまま、翌朝を迎えることになった。

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