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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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氷剣の閃き

「よし、最後の確認だけど、僕が正面、リリエットとマリィは左右からお願いね。僕の盾には虫系統からの敵対心上昇って効果が付いているから、相手がどんな動きをしてきても慌てないでね」


 僕は盾を軽く構え直しながら言った。


 リリエットのアイスブランドも今回が初陣だが、僕の蒼花紋の盾も、虫系統の魔物に使うのはこれが初めてだ。敵対心上昇という効果がどのように働くかは分からない。良い方向に働けばよいが、悪くすれば敵の予想外の行動につながるかもしれない。


 内心では少し緊張していたが、それが顔に出ないように気を付けた。


「それと、麻痺が効くかは分からないから、そこも油断しないでね」


「もちろんよ」


 マリィが短く答える。


「よし、じゃあ行こう!」


 僕たちは階段付近から探索を始めた。ややじめっとした空気と土の匂い。聞こえるのは、自分たちの足音と、どこかで滴る水の音だけ。


 しばらくして――横を歩くマリィが立ち止まった。


「通路の先、いるわよ」


 彼女は囁くように言って、僕の右横で素早くダガーを構えた。リリエットも左側に並び、剣を抜いた。


 通路の奥、確かにいる。黒くて低い影が動いた。


 大蜘蛛。


 その姿をしっかりと目にした瞬間、喉の奥がぴくりと引きつった。


 漆黒の体に、長く太い八本の足。全体の高さは大人の腰ほどもあり、足を広げた姿は二メートル近くはあるだろう。八本の足をせわしなく動かして、そいつは一直線に僕たちの方へと進んでくる。


 ……聞いていたよりも、ずっと大きく見える。


「よし、こい!」


 あえて声を出して、一歩前へ踏み出した。心臓の鼓動がうるさいほど響く。でも――僕が怯えるわけにはいかない。マリィも、リリエットも見ているのだから。


 複数の目が、僕をじっと見つめている。感情の読めないその目に、確かな敵意を感じた。


 来る!


 大蜘蛛は僕の目の前でピタリと止まったかと思うと、前足を二本振り上げて勢いよく振り下ろしてきた!


 ――ガンッ!


 盾で受ける。衝撃は思ったより軽い。いける、そう思った瞬間だった。


 大蜘蛛がぬるりと顔を前に突き出し、口の横にある左右の牙を大きく広げてきた。


「くっ――!」


 僕は咄嗟に一歩、後ろへ跳んだ。


 直後、二本の牙が鋏のように閉じて空を切る。もしそのままだったら、胴体ごと挟まれていたかもしれない。


 危なかった……。この魔物、攻撃の動作が読みにくすぎる。


 それでも、まだ狙いは僕。大蜘蛛はすぐさま再び体勢を整え、襲いかかろうとした――その時だった。


 青い剣閃が、横から閃く。


 大蜘蛛の足が二本、宙を舞った。


 リリエットだ!


 僕の左から横合いに踏み込んで、大蜘蛛の左側の足を二本同時に正確に切り払ったのだ。


 足を失った大蜘蛛はバランスを崩しかけ、六本の足で必死に踏ん張る。が、それに構うことなく、リリエットはもう一歩踏み込んだ。


 そして、そのまま剣を上段に構え、頭部――、目が集まっているあたりに狙いを定めて、渾身の一撃を叩き込んだ。


 ザシュッ――!


 横から振り抜かれた氷の剣が、大蜘蛛の頭を真っ二つに裂いた。裂けた傷口から白い霜がじわじわと広がり、内側からは淡い煙のような冷気が地を這うように漏れ出していく。


 ――頭部がそんな状態になって、生きていける生き物なんていない。


 断末魔を上げる暇もなく、大蜘蛛はその場に崩れ落ち、光の粒となって消えていった。


「すごい……」


 呆然としながら、僕は呟いた。リリエットはいつものように静かに剣を収めていた。


「ああ、すごい切れ味だ」


 リリエットは小さく笑い、先ほどの戦闘の手応えを噛みしめているようだった。


「うん……それもすごかったけど……」


 僕は頷きながら、あの冷静な立ち回りを思い出す。


 アイスブランドの威力は確かに抜群だった。けれど、それ以上に、大蜘蛛という異形の魔物に対して、全く怯まずに斬り込んだリリエットの胆力も凄かった。


「リリエット、よく攻撃できたわね。ごめんなさい、あたし、今回何もできてない……」


 マリィが、肩を落としつつも、称賛と悔しさが混ざった声で言った。


「ふむ、正面はユニスが引きつけてくれたからな。横からなら危険も少ないと思っただけのことだ。それにマリィは虫が苦手なのだろう。慣れるまでは無理をする必要はない。武器のリーチの差もあるしな」


 確かに、マリィの短剣は敵にかなり接近しないと当たらない。その距離であの大蜘蛛に挑むのは、想像以上に勇気が要るだろう。


 慣れ――リリエットの言葉に、僕はうなずいた。


「うん、確かにそうかも。正直、僕も今回はちょっと怖かったよ。でもあいつが今までの敵より強いからってわけじゃない。ただ、あの姿が見慣れないだけで、余計に恐ろしく感じたんだと思う」


 実際、足の打撃は大した威力ではなかった。問題は鋏のような牙――だが、あれも射程は短い。落ち着いて見て、しっかり下がれば避けられる。そう考えれば、戦いようはある。


「……そうね。慣れ、か。わかったわ」


 マリィは小さく頷き、気持ちを切り替えるように息を吐いた。


「じゃあ、次に行こうか。まずはドロップアイテムの回収だね」


 僕が足元を見やると、床に白く輝く一束の糸が落ちていた。細く、柔らかそうに見えるが、どこか芯の強さを感じさせる光沢がある。


 鑑定。


《大蜘蛛の絹糸:素材》


 これは、なかなか面白い融合素材になりそうだ。

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