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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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大蜘蛛のダンジョン

 「まいどあり、また来てくれよな!」


 店主の明るい声に見送られ、僕たちは防具屋を後にした。日差しのまぶしい通りに出ると、背筋がすっと伸びる気がした。これで準備は整った――あとは、次のダンジョンを決めるだけだ。


「ねえ、マリィ。次のダンジョンのことなんだけど……」


 僕は意を決して、切り出した。


「例の虫のダンジョンに行こうって言うんでしょ?」


 マリィはため息混じりに言った。その顔には呆れたような、けれど少し諦めを含んだ笑みが浮かんでいた。どうやら、すっかりお見通しのようだ。


「無理にってことじゃないんだ。ただ……素材としては魅力があるし、防具に活かせそうで……」


「いいわよ、別に」


「えっ?」


 思わず声が裏返った。マリィがあっさりと承諾するとは思っていなかった。


「あたしも子どもじゃないんだから。虫が苦手だからって、それを理由に反対しようとは思わないわよ。それに、防具の大切さは昨日、身に染みたわ。あの冷気のブレス、正直、あれがもっとまともに当たってたら……」


 マリィは左手の新しい小手を軽く叩いてみせた。あのブレスは一瞬食らっただけで皮の小手を使い物にならなくするほどの威力があった。マリィの言う通り防具はダンジョン探索において非常に重要だ。


「そっか……ありがとう、マリィ。じゃあ、次のダンジョンは決まりだね!」


 僕は素直に笑った。マリィの決断が嬉しかった。リリエットも隣で静かに頷いてくれた。


「ま、どうせ行くならじゃんじゃん倒して、すっごい装備を作りましょう!」


 意気込みを見せるマリィに、僕とリリエットは目を見合わせて、なんとなく嬉しくなって笑い合った。


   * * *


「じゃあ、改めて今から向かうダンジョンについて、今のうちにおさらいしておこうか」


 迷宮都市を出て、郊外のなだらかな丘を歩きながら、僕は声をかけた。ギルドで聞いた情報や、宿屋の食堂で耳にした噂話――きちんと頭の中で整理しておきたかったのだ。


「そうだな、頼む」


「ええ、いいわよ!」


 二人の返事を受けて、僕は記憶を手繰りながら説明を始めた。


「通称、虫のダンジョンって呼ばれてるけど、ギルドでは大蜘蛛のダンジョンって言うらしいね。その名の通り、一階層から三階層までは《大蜘蛛》が出現する。数は基本的に一体だけみたいだね」


 ギルドでの呼称は大抵は一階層に出現する魔物の名前をそのままとる場合が多い。


「ええ、そうね」


 マリィは、ここにきて覚悟が決まったのか、しっかりとした返事を返してくれた。ある程度はギルドの説明を一緒に聞いていたので覚えてくれていたようだ。


「《大蜘蛛》っていうくらいだから、かなり大きいみたいだよ。高さは大人の腰くらい。横幅は両手をいっぱいに伸ばしたくらいの幅があるらしいよ」


 手ぶりを交えて説明すると、マリィの目が微かに泳いだ。


「……そうね」


 さっきより少しだけトーンが下がっている気がする。まあ、僕だって、そんな巨大な蜘蛛と喜んで戦いたいわけじゃない。マリィの気持ちはよく分かる。


「それと、注意しないといけないのは糸だね。お尻の先端から粘着性の糸を飛ばしてくるらしい。あれを食らうと、身動きが取れなくなるんだって」


「………そうね」


 マリィの耳が、すこしずつ垂れてきた。分かりやすい子だ。


「それから、特殊個体もいるらしくて、背中に赤や青の模様がある蜘蛛は特に危険みたい。毒を持っていたり、糸の性質が変わっていたりするらしいよ。」


「………そうね」


 返事がほとんど絞り出すようになってきた。たぶん、頭の中では「巨大な蜘蛛」から「糸」「毒」と、どんどん嫌なイメージが膨らんでいってるのだろう。


「やっかいな敵だが、それだけに素材も期待できるということだ」


 リリエットが見かねてフォローをしてくれた。


「そうそう。特に糸は人気らしくて、服の素材としてそれなりの値段でギルドで買い取ってくれるらしいよ。あと、毒持ちの個体は牙をドロップすることもあって、それをダガーに融合すれば……」


「それ、いいわね!」


 マリィはあっさりと復活してくれた。わかりやすいというか、単純というか――でも、そういうところがマリィの良さだと思う。


「それから、四階層からは百足ムカデの魔物が出てくるらしいんだ。さっきの防具屋にあった鎧も、その素材で作ったみたいだね」


「では、当面の目標は四階層までの踏破、ということだな」


「うん、そうだね」


 そんな会話を交わしながら、僕たちはダンジョン入口へとたどり着いた。


 虫系の魔物との初戦――そして、リリエットの新たな武器アイスブランドの初陣でもある。


 僕たちは軽く装備を確認すると、いつもより少し緊張した面持ちで、薄暗いダンジョンの階段を降りて行った。

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