氷の剣
融合の光が収まり、手の中に現れたのは――青く透き通るような刀身を持つ、美しい剣だった。
思わず、その刀身にそっと触れる。
まるで氷柱を削り出して作られたかのような冷たさと鋭さ。だが、同時に金属のような確かな強靭さも兼ね備えている。
鍔や柄には、かつての聖銀の剣の面影がわずかに残っていた。
しかし、それはもはやただの武器ではない。
見る者すべてに、これは人の手では到底生み出せない――そんな確信を抱かせる、圧倒的な存在感を放っていた。
鑑定。
《アイスブランド:片手剣 攻撃力20 冷気ダメージ+5》
表示された数値に、思わず息をのんだ。
想像を超える性能だ。
攻撃力20――これは本当にすごい。黒溶の戦斧でさえ攻撃力は15。もちろん、攻撃力の値は万能な基準じゃない。例えば、マリィのアメジストダガーは攻撃力5しかないけれど、コボルトの喉を的確に狙えば一撃で倒せる。けれど、それでも20という数値は、圧倒的だ。それに加えて冷気ダメージまであるなんて、まさに理想的な融合結果だ。
「できたよ、リリエット。名前はアイスブランド。攻撃力は20で、冷気の追加ダメージが5もついている。今までで一番すごい性能だよ」
そう伝えると、リリエットは静かに剣を受け取り、刀身を見つめた。
普段は落ち着いた雰囲気の彼女が、その瞬間だけ年相応の笑顔を浮かべる。その表情に、僕の胸にも嬉しさと安堵が広がった。よかった、無事に融合が成功して――そして、リリエットが本当に喜んでくれて。
「すごいわ、リリエット。おめでとう!」
横からマリィも声をかける。
「ああ、ありがとう」
リリエットは短く礼を返しながら、まだ剣から目を離さずにいた。ずっと大切に使っていた聖銀の剣が、新たな力を得て生まれ変わった。それが彼女にとって、どれほど特別なことなのか――表情を見れば分かる。
「重さとか、使い心地はどう?」
ふと気になって、僕はリリエットに尋ねた。
彼女によれば、聖銀は軽くて丈夫な金属らしい。そのおかげで素早く剣を振るえるのだと、以前聞いたことがある。けれど、今となっては――それは半分以上、彼女の謙遜だと思っている。
あの連撃を繰り出せるのは、素材の特性以上に、彼女自身の技量あってこそだ。
リリエットはちらりと僕を見てから、剣を握り直し、手の中で軽く振ってバランスを確かめるような仕草を見せた。
「少し離れてくれ」
その短い言葉に、僕とマリィは顔を見合わせてから、数歩だけ後ろに下がった。
リリエットは軽く膝を曲げ、構えを取ると――
次の瞬間、音もなく剣を振り抜いた。
蒼い剣光が、空中に一瞬だけ軌跡を残す。
「うむ、これなら……今までと変わらない」
リリエットはにこりと笑った。
その笑みは、どこか誇らしげで、自信に満ちているように見えた。その姿に僕の胸も自然と高鳴る。新しい力を手にした彼女が、これからダンジョンでどんな活躍を見せてくれるのか――想像するだけでワクワクしてきた。
「すっごいわ、リリエット。すぐに実戦で試してみましょうよ! で、結局、今日はどのダンジョンに行くの?」
マリィも同じ気持ちだったようだ。
次のダンジョンについては、昨日の帰り道でも話題に上がった。目標であった《凍てつく牙》が手に入ったので、このままコボルトのダンジョンの下層を目指すか、別のダンジョンに行くのかを議論したのだ。
だが、決まり切らなかったので昨日はひとまず保留にしていた。
「その前に、まずは新しい小手を買わないとね」
昨日の白コボルト戦で、彼女の左腕の小手は凍気のブレスを受け、完全にひび割れてしまった。もう戦闘に使える状態ではない。
対して右手の小手は、黒狼の革を融合した強化品だ。見た目にも損傷はなく、問題なく使えそうだ。防御力1の差は、ダンジョンのような厳しい環境では決して侮れない。
「そうだったわ。だから、今日は門じゃなくて、ここで待ち合わせだったんだっけ」
マリィは思い出したように手を打ち、ぱっと顔を輝かせた。
「なら早く行きましょう! ぴったりの小手を見つけるんだから!」
そう言って、防具屋のある通りへと歩き始めた。
僕とリリエットは顔を見合わせて、その後に続いた。
実は、次のダンジョンについて――僕とリリエットの間では、すでに意見が一致していた。
狙いは、虫系の魔物が出るというダンジョンだ。宿屋の食堂で、そこで手に入るドロップアイテムが、防具の素材として注目されているという噂を耳にしたのだ。きっと融合の素材としても使えるはずだ。
しかし、問題はマリィだ。
以前からそのダンジョンの情報を聞いたときは顔をしかめ、「あたしは行かないから」と言っていた。そのため今朝、宿屋でリリエットと二人になったとき、少しだけ話し合ったのだ。
新しい素材はたしかに魅力的。でも、それを理由に無理をさせるのは違う。
「一度だけ、説得してみる。それでも無理なら、別のダンジョンを考えよう」と、そう決めた。
果たして、どうなるか――。
少し不安を抱えながら、僕たちは防具屋に向かって歩き出した。




