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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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「聖銀の剣」×「凍てつく牙」

 白コボルトが大きく口を開けたのが見えた。


 ――止めなければ!


 僕は黒溶の戦斧を振りかぶり、白コボルトの背に振り下ろそうとする。


 けれど、刃が白コボルトに到達するよりも早く、白く輝くブレスが白コボルトの口から放たれた。


 すべてがゆっくりと進んでいるような感覚に囚われる。急いでいるはずなのに、腕の動きも、息づかいさえも重い。


 マリィは咄嗟に両腕を交差させて顔を庇った。


 そのまま地面に身を投げるようにして後方に飛び退く。ぎりぎりで冷気の直撃を逃れ、ブレスに晒されたのはほんの一瞬のように見えたが――


「マリィ!」


 これ以上、マリィにダメージを負わせるわけにはいかない。


 斧が白い毛皮を切り裂き、赤い軌跡を残す。黒溶の戦斧が切り込んだ場所に、赤く輝く溶岩が発生し、ジュッと音を立てて蒸気を上げる。


 白コボルトが甲高い悲鳴をあげた。


 だが、まだだ。これだけでは倒せない。


 振り下ろした斧を引き戻し、体勢を整えて、今度は横なぎに振る。


 しかし、白コボルトも怯んでいなかった。


 くるりと右回転し、振り返りざま、右手をすくい上げるように突き出す。鋭く伸びた爪が、僕の顔面に迫ってくる。


 ――負けない!


 たとえ痛み分けでも、今はダメージを与えるのが先決だ。早く倒してマリィの治療をしなければ。


 僕の斧が白コボルトの胴体に食い込むのが、ほんの一瞬だけ早かった。


 だが、それでも白コボルトの爪は止まらない。


 僕は覚悟を決め、斧を振りぬいた。


 爪が目前に迫る――


 その瞬間。


 視界の端で、何かがひらめいた。


 シュンッ――。


 空気が切り裂かれた音と同時に、白コボルトの右腕が断ち落とされ、くるくると宙を舞う。


「リリエット!」


 聖銀の剣を構えたリリエットが、横合いから駆け込みながら振り抜いたのだ。


 彼女の動きはそれだけにとどまらない。剣を一瞬で引き戻し、額の前に構える。


 次の瞬間、稲妻のような速度で突きを放つ。


 白コボルトの青い瞳が、驚愕に見開かれる。


 聖銀の剣が真っ直ぐにその額を貫いた。


 甲高い絶叫。体がのけ反る。


 白コボルトは、光の粒子となって静かに霧散した。


「マリィ!」


 すぐに駆け寄る。マリィは地面に倒れたまま、呻いていた。


 顔はうっすら赤く腫れ、唇が青みを帯びている。


「大丈夫!?」


「……ん、大丈夫よ……しゃべるのが……少しだけ、つらい……」


 震える声だったが、彼女の瞳にはまだしっかりと光が宿っていた。


「すぐにポーションを使うよ。ちょっと待ってて」


 焦りを押さえながら、腰のポーチを開けて、ポーションを取り出す。


 これは以前、癒しの薬草と融合して作ったポーションだ。効果はそこそこ期待できるが、正直、ダンジョンで拾える回復ポーションのほうが即効性は高いかもしれない。けれど、それはマリィのポーチの中だし、今は一秒でも惜しい。


「これを飲んで」


 口元にポーションの瓶を当てる。マリィは目を閉じたまま、わずかにうなずいて、少しずつ中身を口に含んでいった。


 そして―――


「げほっ、げほっ……! にっがーい。なによそのポーション……!」


 身を起こしてせき込むマリィの声に、僕は思わず苦笑してしまう。この様子なら大丈夫そうだ。このポーションの効果は傷口修復(小)だが使ってみると意外といろいろなダメージにもしっかり効果がある。


「もう大丈夫なのか?」


 リリエットが心配そうに覗き込む。彼女も同じく癒やしのグリーンポーションを手に持っていた。すぐにでも渡せるように準備してくれていたらしい。


「ええ、大丈夫よ。だから、そのまずいポーションはしまってちょうだい」


 マリィは立ち上がると、ズボンについた土をパンパンとはたいた。


「もともとブレスは直撃じゃなかったの。でも、慌てて避けようとしたら思いっきり背中から地面にいっちゃって……。すぐに立てなかったの。ありがとね、二人とも」


「ならよかった」


 僕は胸をなでおろす。何より命に別状がなくて本当によかった。


 となれば、あまりここに長居するのもよくない。今日の目的は達成できた。地上に戻るには十分な理由だ。


 そう考えながら、ふと、まだ肝心なものを回収していないことに気がついた。


「ドロップアイテム……」


 視線を地面に向けると、それはあった。


 長く鋭い牙。青みがかっており、まるで氷柱のように澄んでいる。近づいて拾い上げると、小手越しでもひんやりとした冷たさが伝わってきた。


 鑑定。


《凍てつく牙:素材》


 よし、聞いていた通りだ。それに手に取ってわかる、この素材は今までの素材とは一段格が違う。リリエットの剣に融合するのに、これほど相応しいものはないだろう。


「あっ」


 僕が凍てつく牙に夢中になっているとマリィが急に声を上げた。振り向くと、彼女が左腕を見つめて固まっていた。


 その視線の先、皮の小手の表面には、無数の細かいひびが走っていた。あの瞬間、ブレスから顔を庇ったとき、凍てつく冷気が皮を凍らせたのだろう。


「買い直さないとダメね、これ……」


 マリィはため息まじりに言った。


 僕も試しに鑑定してみたが、できなかった。完全に破損している。ここまで傷んでしまえば、融合もできないということだろう。


「よし、今日はもう帰ろう。目的は十分果たしたしね」


   * * *


 ダンジョンを出た僕らは、地上の空気を吸って一息ついた。


 あの白コボルトは、間違いなく強敵だった。反省点も多い。


「今日はあたしがへましちゃって、みんなに迷惑かけちゃったわ。すっかり麻痺するもんだと思って油断してた。ごめんなさい」


 マリィがぺこりと頭を下げる。


「何を言う。マリィ一人のせいではない。それを言うなら、私がもっと素早くコボルトを倒して、そちらに加勢すべきだった」


 リリエットがきっぱりとした口調で返す。


「僕も……このダンジョンで、マリィと麻痺の力に頼りすぎてたよ」


 パラライズファングの麻痺効果は強力だ。だが、所詮は麻痺効果(小)――黒コボルトには通じても、白コボルトには通じない可能性は十分あった。


「あっ」


 思わず、間抜けな声を漏らしてしまう。麻痺効果(小)、それは鑑定して分かったことだ。リリエットにもそう言ったはずだ。だが、マリィには一度も言っていなかった気がする。マリィからするとどんな敵でも麻痺させる魔法の武器の様に思ったかもしれない。


「ごめん。一番反省しなきゃいけないのは僕だ」


 そう切り出して、麻痺効果について話した。


「なんだ、そんなこと」


 聞き終わったマリィはあっさりといった。


「そもそも、あの武器がそこまで万能だとは思ってなかったわ。あたしが油断しただけ。でも、みんながそう言ってくれて、ちょっと気が楽になった」


 それからマリィはにっこり笑って言った。


「あたしが言うのも変かもだけど、じゃあ今日は――学ぶこともあったし、目的も達成できたし。良い一日ってことで、どうかしら?」


 その言葉に、僕もリリエットも、自然と笑みを浮かべていた。


 良いパーティーになれている気がする。


   * * *


 翌日。


 今日はギルド前で待ち合わせをしていた。


 マリィと合流してすぐに、人気のない路地裏へと移動した。


「融合、まだしてないわよね?」


「もちろん。せっかくだから、みんなでやりたかったからね」


 僕はバックパックから、昨日手に入れた《凍てつく牙》を取り出した。


「では、頼む」


 リリエットは腰から聖銀の剣を外し、両手で僕に差し出す。


 ずっしりとした重量感。彼女はこの剣と盾だけを持って、迷宮都市に来た。実際の重さ以上のものを感じる。


「……なんだか緊張するかも」


 凍てつく牙は、今まで手に入れた素材の中でも別格だ。けれど、万が一融合に失敗したら――そう考えると、少しだけ緊張した。


「大丈夫だ、信頼している」


 リリエットは涼しげな顔でそう言った。


 やれやれ。覚悟を決めるしかない。


「じゃあ、行くよ」


 右手に聖銀の剣、左手に凍てつく牙を持って、深く息を吸い込む。


 対象はリリエット。


 融合。

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