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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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「皮の小手」×「黒狼の革」

 マリィは鮮やかな手際でコボルトを仕留め、 あっという間に三対二の状況を作り出した。


 戦闘は一気に優位に。残りのコボルトも瞬く間に倒れ、毛皮を残して霧散する。


「すごいね、マリィ。今の動き、本当にすごかった」


 ドロップアイテムを拾い集めながら、僕は素直な賞賛の言葉をかけた。


「まあね。でも、毎回できるとは限らないわよ」


 そっけなく答えるマリィ。けれど、頭の上の耳がぴくぴくと揺れているのが見逃さなかった。きっと内心ではかなり嬉しいんだろう。


 そのまま探索を続ける。


 三体同時でも今の僕たちなら問題なく対応できる。探索範囲を広げ、四階層への階段を探しつつ、凍てつく牙をドロップするという白毛のコボルトも狙う。


 黒コボルトとの交戦もあったが、そこまでの脅威ではない。黒毛の個体は確かに通常種より強いが、せいぜい一・五匹分の強さだ。このダンジョンの難しさは個の力ではなく「数」にある。だが、その問題もマリィの活躍で大きく軽減された。


 そしてもう一つ、黒コボルトには明確な習性があった。三体編成の敵に混じる際、必ず中央に陣取り、最前線で突撃してくる。おそらく群れのリーダーということなのだろう。


 それは、僕らにとっては好都合だった。正面の敵は僕が受け持つため、最も堅い装備を持つ自分が一番強い個体の攻撃を引き受けられる。


 しばらくしてバックパックは毛皮でいっぱいになり探索を切り上げる。


 この日は四階層への階段は見つからなかったし、狙いの白毛のコボルトとも遭遇できなかった。


 だが、それでも無駄な一日ではなかったと思えるだけの成果がある。


「マリィ、今日の動きは一段とすごかったな」


 迷宮都市への帰り道、リリエットが改めてマリィの活躍を褒めた。


「えへへ、ありがとう。でも、あたしの力っていうより――武器のおかげもあるわ」


 マリィはそう言いながら、腰に収めたパラライズファングの柄を軽く叩く。


 確かにそうかもしれない。だが、武器を使いこなすのは本人の実力だ。彼女は戦いの中で確実に何かを掴みかけている。


   * * *


 翌日。


 北門で合流した僕たちは、再びコボルトのダンジョンへと向かっていた。


 迷宮都市を離れ、人の気配がなくなったところで、僕はバックパックから黒狼の革を取り出す。今日も朝のうちに融合を行う予定だった。


 昨日の帰り道に話し合って決めた。今日はマリィの右手の小手を強化する。前線で戦う機会が増えた彼女にとって、防御力の向上は急務だった。


 融合の候補としてはリザードマンの鱗もあったのだが、マリィは音がすると嫌がった。確かにリリエットが付けている蜥蜴鱗の鎧などは鱗同士がこすれて音が鳴ることがある。敵の隙をついて攻撃をすることの多いマリィは隠密性が高い革製の方が都合が良い。


「じゃあ、よろしくね」


 マリィが小手を外して手渡してくる。


「うん。いくよ」


 右手に皮の小手、左手に黒狼の革。


 融合、と念じる。対象はマリィ。


 融合の光が収まると、黒い革で出来た新しい小手が手元に現れた。


 鑑定。


《狼革の小手(右):小手 防御力2 ※マリィ以外が使用すると破損》


「上手くいったよ。防御力も上がってる。」


「へえ、ありがとう。イメージ通りね」


 マリィは嬉しそうにすぐに腕に装着し、しっかりと馴染ませていく。


「ふむ。私が使っているものとほとんど同じだな」


 リリエットが自分の小手と見比べて呟いた。確かに細かい差異はあれど、構造や質感はほとんど同じだ。


「うん、鑑定したときの名前も一緒なんだよね。でも、防具屋の小手はスキルで作っているんじゃなくて職人が加工しているから全く同じってことはないと思うだけど……」


「なるほど。形と素材がある程度一致すれば、鑑定上は同じ扱いになるのか」


「うん、多分そういうことだと思う」


 前から思っていたがこの鑑定はかなり大雑把な結果しかわからない。今のところ分かっているのは、ドロップアイテム、あるいはその加工品しか鑑定できないということだけだ。


 とはいえ、装備の強化は着実に進んでいる。これでマリィの防御力もひとつ上がった。準備は万端だ。


   * * *


 ダンジョンに着くと昨日と同様に、3階層まではメモを頼りに進んで行く。その後は未探索の分岐を潰しながら白毛のコボルトを狙う。


 ほどよくバックパックに重みを感じるようになった頃、ついにその時が訪れる。


「――白コボルトよ!」


 マリィの声が、パーティに緊張を走らせる。


 通路の先、二体の通常種を従えたコボルトは通常のコボルトとは全く違っていた。


 全身を覆う純白の毛皮。氷のように透き通った青い瞳。そして、異様に発達した二本の牙が口から覗いている。体格も一回り大きく、リザードマンに匹敵するかもしれない。


 今まで通り、僕たちは横一列になってコボルトたちを待ち構えた。


 白コボルトは、黒コボルトと同様に中央に陣取り、真っ先に突進してくる。


 あっという間に距離が縮まり、白コボルトが爪をむき出しにして腕を振り上げる。


 僕は盾を構え、正面からその一撃を受け止めた。


「っ……!」


 重い――だが、まだ耐えられる。左右の通常種は、リリエットとマリィがしっかりと抑えてくれている。今は無理に攻めず、援護を待つべきだ。


 再び、白コボルトが腕を振り上げた。僕もそれに合わせて、斧を横なぎに振る。狙いは当てることではなく、あくまで牽制だ。


 予想通り、白コボルトは一歩引いてそれを回避する。だが、それでいい。


 その瞬間、視界の端でマリィが自分の相手――通常のコボルトを、あの鮮やかな首切りで仕留めるのが見えた。


 白コボルトは、まだそのことに気づいていない。


 僕はさらにもう一度、斧を振るって注意を引く。


 白コボルトは余裕の様子でそれをかわし、再び腕を振り上げた。


 その瞬間、マリィが背後から白コボルトをパラライズファングで斬りつけた。


 完璧なタイミングだった。


 麻痺が来る。そう思った――だが。


「っ!」


 白コボルトは即座に反応した。まるで、背後への警戒を最初から怠っていなかったかのように、素早く振り返る。


 マリィと白コボルトが、真正面から対峙する形になった。


「――!」


 マリィの動きが止まる。麻痺が効かなかったことに驚いている。だが、それ以上に――白コボルトの青い瞳には、明確な殺意が宿っていた。


 白コボルトが、深く息を吸い込む。


 そして、大きく口を開けた。


 ――まずい!



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