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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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帰るまでが冒険

「マリィ、さっきはありがとう。パラライズファングを投げてくれて」


 戦闘が終わり、ドロップアイテムを拾いながら僕は礼を言った。あれがなければ。危なかった。


「うまくいって良かったわ。ところでユニス、戦闘が始まる前、なんて言おうとしたの?」


 マリィも、地面に落ちていたパラライズファングを拾いながら尋ねてきた。


「それは……」


 一瞬、言葉に詰まる。


 正直に言えば、あの時マリィに左側の個体を任せようかと考えた。でも判断がつかず、指示も中途半端になってしまった。――迷った。それだけのことだ。


 けれど、そのまま打ち明けるのは少し気が引けた。パーティのリーダーとしては、情けない気がしたのだ。


 ……いや、そもそも僕がリーダーと決まったわけじゃない。ただ、マリィが前にそう言ってくれただけで、それを僕が勝手に意識していたに過ぎない。


「とりあえず、後で話そう。それと今日は、少し早いけどダンジョンを出ようと思う。三体同時のコボルトはちょっと大変だったし、三階層まで来られただけでも、今日は十分だと思う」


 なんとなく、早口になってしまった。反論されるかもしれないとか、戦いについて何か言われるかも――そんな不安が、心のどこかにあったのかもしれない。


「そうね、いきなりガンガン行くのは怖いわね」


「私も賛成だ。無理に急ぐ必要もない」


 二人とも、あっさりと賛同してくれた。


 階段付近を探索していたため、そのまま二階層へ戻る。その後、数回の戦闘をこなして、僕たちは無事に地上への階段まで戻った。


 石造りの階段を上りながら、僕はずっと考えていた。


 サハギンのダンジョンでは八階層まで到達した。コボルトのダンジョンが特別難しいというわけではない。むしろ、コボルト一体一体はリザードマンよりずっと弱いはずだ。


 それでも苦戦するということは、やはり僕の指示や隊列に問題があるのかもしれない――そんな思いが、頭の中をぐるぐると巡っていた。


 地上へ出ると、空気が一気に変わる。肌に当たる風が心地いい。


 僕は大きく深呼吸して、背伸びをする。やっぱり、外はいいな。


「ユニス、悩んでいるのか?」


 ちょうどそのタイミングで、背後からリリエットが声をかけてきた。


 振り返ると、彼女はまっすぐ僕を見つめていた。蒼く澄んだ瞳。その真剣な眼差しに、言い訳する気持ちは吹き飛んだ。


「うん、そうだね。悩んでる」


「では、なぜ相談しない?」


 問いはシンプルだった。


 僕はマリィとリリエットの顔を順に見た。そよ風が頬を撫でる。ダンジョンの冷気とは違い、柔らかく優しい風だ。


「……なんでだろう」


 自分でも不思議に思えた。


 たぶん――がっかりされるのが怖かったのだ。


 判断を誤ったと思われるのが怖くて、相談することを避けていたのかもしれない。


「ねえ、二人に相談があるんだ。隊列のことなんだけど」


 言葉は自然と出てきた。


「なんだ、そのことね」


 マリィは笑いながら答えた。


 リリエットも、静かに頷いて微笑んでくれた。


 僕は、さっき三体のコボルトと戦ったときに、三人で横並びになったほうが良いかもしれないと感じたことを伝えた。


「あたしもそれがいいと思うわ。あいつらの攻撃、そんなに速くないし、ちゃんと避けられると思う」


 マリィが自信たっぷりに答えた。


「そうだな。私もその隊列を試してみても問題ないと思う」


 リリエットは腕を組んで考え込みながら頷く。


「ポーションもあるし、今の私たちなら少しくらい崩れても立て直せる。相手はコボルトだ。最終的に負けることはないだろう」


 その言葉に、僕は少しだけ肩の力が抜けた。リリエットはいつも冷静で、戦いにおいては本当に頼りになる。


 すると、リリエットは続けて言った。


「実は、私も考えていたんだ。隊列そのものというより……こちらの出方を、変えてみてもいいかもしれないと」


「こっちから仕掛けるってこと?」


 僕が尋ねると、リリエットは小さく頷く。


「そうだな。仕掛けるとまでは言わなくても、今までみたいに“ただ待ち構える”というのは、あまり得策じゃない気がする。やつら、意外と連携が取れてる。集団で一気に押し込んでくるのが得意なんじゃないか」


 確かに、さっきの三体の戦いを思い出しても、それは実感としてあった。真正面から受けるだけでは、どうしても押されがちになる。


「あ、それあたしも思った! なんていうか、勢いに乗せると厄介なのよね。連携とかじゃなくて、本能的に攻めのリズムを持ってる感じ」


 その表現に、僕は思わずうなずいた。


「確かにそうかも……。こっちが守りに徹すると、不利になるのかもしれないね」


 言いながら、自分の中で何かが腑に落ちていくのを感じた。リザードマンと違って、コボルトは軽くて速い。連携で攻めてくるから、受けの一手では対応しきれないこともある。


 思えば、魔物ごとに得意な戦い方が違うのは当たり前だ。それぞれに合った方法で戦わなければいけない。単純なことだが一人で考えると意外と簡単なことを見落とす。


 その後も、いろいろと二人が意見を出してくれて、最終的には――


 敵が二体以下の時は今まで通り。三体以上の場合はこちらも三人で横並びになる。こちらから仕掛けはしないけれど、リリエットとマリィは先手が取れそうなら攻撃する。そして、僕はこれまで通り、盾を構えて攻撃を受ける。


 細かいところは、実戦を通して調整していこうということで、三人の意見は一致した。


 楽しく、というのとは少し違う。だけど、こうして三人で肩を並べて話し合っている時間は、どこか心地よかった。


 と、そんな空気のなかでマリィがふと思い出したように口を開いた。


「でも、ユニスはどうして一人で悩んでたの?」


 その問いに、僕は少しだけ肩をすくめて苦笑いを浮かべる。


「……ここまで来たら、隠してもしょうがないよね」


 胸の内を整理するように、一呼吸置いてから答える。


「なんとなく、がっかりされると思ってたんだ。前にマリィが、僕のことをパーティのリーダーって言ったことがあったでしょ。それが、何となく頭に残ってて……。張り切ってたのかもしれない。別に、僕がリーダーって決まったわけじゃないのにね」


 そう言って、少し自嘲気味に笑った。


 けれど、次の瞬間――


「いや、私もユニスがリーダーだと思っていた」


 リリエットが、あっさりと言った。驚くほどの自然さで。それどころか、なぜ今さらそんなことを? とでも言いたげな表情だった。


「そうよ、あたしもユニスがリーダーで問題ないわよ。でも一人で悩むことなんてないんだから」


 マリィも、にこっと笑って言葉を重ねてくれる。


「その通りだ」


 リリエットがうなずいた。


 その言葉が、胸にじんわりと染み込んでくる。


「……そっか。そうだね。ありがとう。えっと、じゃあ……改めて、よろしく」


 なんだか少しだけ、気恥ずかしかった。


「うん、よろしく」

「ふふ、これからもよろしく頼む」


 頷き合う三人。気づけば自然と笑顔になっていた。


 と、その空気をふわっと変えるように、マリィがぽんと手を叩いた。


「あ、そうだ! じゃあパーティの名前を付けましょうよ!」


「パーティ名?」


「そう、なんか格好いいやつ! ほら、あれよ、ルミナスクローバーだっけ? ああいう名前があったじゃない」


「ルミナスクローバー……ああ、トレントのダンジョンを討伐しかけたという」


 リリエットが思い出したように、静かに言った。


「そうそう、ああいう感じで、なんかこう、あたしたちってわかる奴で……」


 マリィが両手を広げて、よく分からないイメージを語り始める。


「それでいて、ちょっと強そうなやつ。いっそ“紅蓮の牙”とか、“白銀の閃光”とか、いやそれだとちょっと違うかな? “ユニスパーティ”じゃ味気ないし、“斧と剣と短剣”……これは違うか……」


 あれこれと候補を挙げるマリィを、僕とリリエットは苦笑しながら見守る。


 けれど、どうにも「これだ!」という案は出てこなかった。


 結局、パーティ名は――保留。


 そのまま、僕たちは迷宮都市へと続く帰り道を歩き出す。


 ダンジョンの戦いだけが、冒険じゃない。


 言葉にするのは難しいけれど、たぶん今の僕たちは、パーティとして――少しずつ成長していっている気がした。

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