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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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62/112

3 on 3

「ごめんごめん、次また単体のコボルトが来たら、攻撃せずにパラライズファングを試してみよう」


 僕がそう言うと、マリィはすこしふくれたような顔で頷いた。


 あまりにあっさり倒してしまったのは、想定外だった。だけど余裕があるうちに武器の性能を確かめておくのは大事だ。


「そうだな。私も、まさかあそこまで弱いとは思わなかったのでな」


 リリエットも、どこか拍子抜けしたように言う。


 マリィが軽く肩をすくめて、

「まあ、弱いコボルトが悪いってことね」

 と言って笑った。


 僕は地面に残された毛皮を拾い上げる。

 手早く鑑定を使うと、《毛皮:素材》と表示された。見たまんまの鑑定結果だ。おそらくこれを加工すれば、防具用の皮素材になるのだろう。


「よし、じゃあ次に行こう。もしコボルトが二体出てきたら、その時は普通に戦うからね」


 武器のテストのために、無理はしない。


「はーい」

「うむ」


 ふたりとも軽く返事をしてくれる。


 しばらくして、またコボルトと遭遇した。

 幸い、今回も一体だけだった。


 僕は前に出て、盾を構える。先ほどと同じように、攻撃を引き受ける構え。


「マリィ」


 名前を呼んだときには、もうマリィは動いていた。


 すっと低く構えた、コボルトの横を通り抜けざまに右手の短剣を閃かせる。

 その一閃を受けたコボルトは、中腰のまま硬直し、ぴくぴくと痙攣を始めた。


「様子を見るよ!」


 僕は声をかけながら、心の中で数を数える。


 一、二、三――


 コボルトが、ぎこちなく体を動かし始める。

 しかし、すぐにマリィが背後から素早く踏み込み、背中に斬りかかる。


 二撃目では、麻痺は発動しなかった。サハギンと同じく、一度きりのようだ。


 コボルトが反転し、マリィに向き直る。


 その背中が、完全に無防備になった。


 僕はためらいなく黒溶の戦斧を振り下ろす。

 ずしりとした手応えと共に、戦闘はあっけなく終わった。


「三秒くらいだね」


 僕はドロップアイテムの毛皮を拾いながら言った。


「そうね、でも、やっぱり二回は効かないのね」


 マリィが短剣を軽く掲げて言う。


 武器の性能がはっきりしてきた。

 短時間とはいえ、動きを止められるのは大きい。


 その後も探索を続け、次に現れたのは、ついに二体同時のコボルト。


 だが――特に問題もなく、僕たちはそれを倒した。


 サハギンのダンジョンで八階層まで進んできた経験が、確実に活きている。


 僕とリリエットが前に出て、マリィが少し後ろから隙をうかがう。安定感がある戦い方だ。


 二体同時でも問題ないことが確認できたので、本格的に階段を探す。


 しばらく探索して分かったことだが、コボルトには素手の個体と、ナイフを持った個体がいる。ナイフはゴブリンからドロップするものとまったく同じだ。毛皮は防具に加工され、ナイフは鋳つぶして武器へ。迷宮都市からすると無駄のない効率の良いダンジョンだと言える。


 戦闘が短く済むおかげで、ほどなくして二階層へと続く階段を見つけられた。


 まだまだ余裕があったので二階層へと降りる。すると二階層でも特に苦戦することなく、あっさりと次の階段――三階層への階段が見つかる。


「どうする?」


 リリエットが僕を見る。


 バックパックの中身は、まだ半分程度しか埋まっていない。


「降りようか。ただ、三階層からは最大三体出てくるよね」


「一人一体ってことよね?」


 マリィが任せてと言わんばかりに言った。


 だけど僕は、それには少し不安があった。

 マリィの動きに問題はない。むしろ僕よりずっと素早い。

 だが問題は装備――盾がなく、鎧と兜以外は皮防具であること。


「それなんだけど、今まで通り僕とリリエットが前で、マリィが少し後ろの隊列のままがいいと思うんだ」


「なんでよ? あたしだって、コボルト相手なら問題ないわよ」


 マリィがちょっとムッとしたように言う。


「マリィの実力を疑ってるわけじゃないんだ。防具が不安なんだ。盾もないし。だから僕とリリエットで三体を引きつけて、隙を見てマリィが一体を麻痺させる。その個体を集中攻撃して数を減らす。三対二になれば、一気に有利になるから」


「そうだな。私は異論はないな」


 リリエットが頷く。


「うーん……そっか。そっちの方が安全なら、しょうがないかぁ」


 マリィはやや不満そうだったが、納得してくれた。


「それに三階層からは黒コボルトも出てくる。普通のより強いはずだから」


「そっか、リザードマンも普通とエリートじゃ、全然強さが違ったものね」


「うん。だから、油断せずに慎重に行こう。ここまでは順調でも、たった一階層の違いで難易度が跳ね上がることもあるから」


 改めて気を引き締め、僕たちは三階層への階段を降りた。


    * * *




 三階層に降りて、まずは階段周辺を警戒しながら進む。


 と、その時。


 前方から、複数の足音――。


「三体よ!」


 マリィがいち早く気づいて声を上げる。


 僕とリリエットはすぐさま前に出て、盾を構える。

 戦闘を走る一体はナイフを手にしており、残る二体は素手のようだ。


 先頭のナイフ持ちが飛びかかってくるかと思いきや、急にスピードを緩める。

 代わりに、素手の一体が勢いよく飛び出してきた。


「……!」


 僕はその一体の爪を盾で受け止める。


 直後、ナイフ持ちが足元に潜り込むように動き、刃を僕の脚めがけて振る。


「っ……!」


 一歩引いて避ける。

 その瞬間、三体目が横から僕に飛びかかる――が、聖銀の剣がきらめいて割り込んだ。


「させるか!」


 リリエットが一閃。3体目の攻撃はリリエットによって防がれた。


 こいつら……意外に連携が取れてる。


 二体のときは個別に対処できたのに、一体増えるだけでこの変化。

 油断できない相手だ。


 けれど――。


 一連の攻撃をしっかり捌いたことで、敵の動きが一瞬止まる。


 その刹那、マリィが僕の左側をすり抜け、すっと踏み込む。

 短剣の閃き。左端のコボルトの肩口に命中――そして、ピクリと痙攣。


「麻痺したわ!」


 言われる前に体は動いていた。無防備なコボルトに、黒溶の戦斧を振り下ろす。


 残りの二体がこちらに向かおうと身構えたが、リリエットが横合いから押さえ込むように立ちはだかる。


 斧の一撃が麻痺したコボルトの肩口に深く食い込み、溶岩が溢れる。致命傷だ。


 一体撃破。


 そして、マリィはそのままコボルトたちの背後に回り込む。


 僕とリリエットが前、マリィが後ろ。

 三人で二体のコボルトを挟み込むような形に。


 その瞬間、勝負は決まったも同然だった。


 ――連携は、こちらのほうが上だ。


 数合の攻防ののち、二枚の毛皮と一本のナイフを残し、あたりは静寂を取り戻した。


「思ったより、強かったわね、こいつら」


 マリィが額の汗を拭いながら言う。


「ふむ。最初の連撃は偶然ではなさそうだな。数が多いほど、厄介な相手かもしれん」


 リリエットが盾を下ろしながら、冷静に分析する。


「うん。コボルトは、集団での戦闘が得意なのかもね。こちらも狙われた人は防御に徹して、残りが攻撃を分散させる形が良さそうだね」


 とはいえ、今の隊列が最適とも限らない。


 いっそ三人横並びに構える形も、選択肢としてはあるのかもしれない。あるいは待ち構えるのではなくこちらから仕掛けるというのも……。


 ドロップアイテムを拾いながら、そんなことを考えていたとき――


「ユニス、黒よ! 黒コボルト!」


 マリィの声が、緊張を帯びて響いた。

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