「皮の小手」×「スライムゼリー(青)」
ダンジョンの入り口で、僕は深呼吸を一つした。
少しだけ緊張していた。
このダンジョンを今まで避けていたのには理由がある。
出てくるのがスライムだからだ。
スライムは、剣などの物理攻撃があまり効かないとされている。
さらに厄介なことに、スライムは人間に組み付こうとしてくる。
一度組み付かれたら最後、身動きが取れなくなり、そのままゆっくりと溶かされる――そんな話をよく聞いた。
でも、僕には火花の両手槍がある。
リーチが長く、さらに炎の攻撃もできる。
スライム相手には相性がいいはずだ。
もしうまくいかなくても、逃げればいい。
スライムは足が遅いし、今は稼ぎも良くなって、少しだけど蓄えもある。
今日は鉄の盾を宿屋に置いてきた。
両手槍を使うには邪魔だし、スライムに取り付かれたら、盾なんて役に立たないだろう。
試しに両手槍を虚空に突き出してみる。
大丈夫。突くぐらいなら、使い慣れていなくてもできる。
近くの壁を軽く突いてみる。
ジュッと音がして、火花が散った。
少し探索すると、早速スライムを発見した。
青色スライムだ。
このダンジョンの一階層には、青色と黄色のスライムが出てくる。
どちらも物理攻撃に強いが、特に青色は斬撃に、黄色は打撃に強いらしい。
ゴブリンと違って、スライムは自分から突っ込んでこない。
ゆっくり移動するだけなので、こちらから近づく。
スライムとの距離が五メートルほどの距離で、一旦足を止めた。
改めて、スライムを観察してみる。
直径一メートルほどの動く水たまりといった感じか。
ドロドロとした青い体が、ぷるぷる震えている。
……思ったより、近づく速度が速い。
四メートル、三メートル、二メートル…。
今だ!
十分に引き付けて思い切って、槍を突き出した。
スライムの前面に突き刺さると、ジュッと音がした。
ぶるぶると震えるスライム。
いける!
槍を手元に引き戻す。抵抗はあるが、なんとか引き抜けた。
後退し、もう一度突く。再び命中。スライムが怯む。
後ろをちらりと確認。
……よし、何もいない。
挟み撃ちにされたらと思うと、ぞっとする。
同じ動作を三度繰り返したところで、スライムが霧散した。
地面に、ドロップアイテムが落ちていた。
鑑定してみる。
《スライムゼリー(青):素材》
手のひら大で、ぷにぷにと柔らかい。
拾って、探索を再開する。
また、青色スライムだ。
同じ手順で倒し、またスライムゼリーを手に入れる。
だが、動きが慣れていないせいか、ゴブリン相手のときよりも疲れる。
次に出会ったのは、黄色スライムだった。
見た目は青色スライムとほとんど変わらないが、色が黄色い。
突き刺し、一撃目はうまく決まった。
刺したときの感触は特に青色スライムと変わらない気がする。
二撃目に入ろうとしたそのとき、スライムが突如、こちらに飛びかかってきた。
「うわっ!」
尻餅をついて避ける。
慌てて立ち上がり、距離を取り直して再度攻撃。
どうにか討伐に成功。
スライムゼリー(黄)をドロップ。
こちらは弾力があり、もちもちしている。
その後も、同じような流れでスライムを倒し続け、最終的に10体討伐。
青6個、黄4個のスライムゼリーを手に入れた。
帰り道。
体は重く、心は疲れていた。
スライムは確かに怖かった。
取り付かれたら終わりだという緊張感。
取り付かれたとしても他に仲間がいれば、助けてもらえるかもしれない。
でも、僕は一人だ。
仲間は欲しいと切実に思える一日だった。
信頼できる仲間なんて、そう簡単に見つかるものじゃない。
特にダンジョンのような命がけの場所ではなおさらだ。
ないものねだりをしてもしょうがない。
今あるもので何とかやっていくしかないのだ。
バックパックの中身について考える。
すべてスライムゼリーだ。
スライムは、稀に魔石を落とすらしいが、今回は出なかった。
それでも無事にスライムゼリーが手に入ったことを喜ぼう。
手に入れたゼリーは売らずに取っておこう。
蓄えもあるし、次にスライムと戦うのは当分先でいい。
宿に帰って、ご飯を食べ、部屋に戻る。
ベッドに横になりながら、考える。
スライムは物理耐性が高い。
だったら、防具と融合したら強くなるかもしれない。
どこに使おう。
小手がいいかもしれない。
もし変な装備になっても、小手なら買い直しても痛くない。
翌朝。
「皮の小手(右)」と「スライムゼリー(青)」を手に取り、融合スキルを発動。
「融合」
光があふれ、小手が変化する。
《青色スライムの小手(右):防御力2 斬撃耐性+2 魔法耐性−1 ※ユニス以外が使用すると破損》
狙ったような装備で、思わず笑みがこぼれた。
魔法耐性が下がるのは少しだけ引っかかるが、今は魔法を使う敵と戦う予定もない。
見た目は以前の小手とほとんど変わらないが、全体的に青みを帯びている。
装着すると、少し冷たく、肌にぴたっと張り付くような感触。
ゴブリンソードを握ってみる。
素材の特性によるものなのか、ぴったりと張り付いていつもより強く握れる。
嬉しい誤算だった。
朝食をとり、準備を整えてダンジョンへ向かう。
昨日はアイテムを売らなかったし、今日はまたゴブリン狩りに行こう。
明日は何を融合するか、そう考えると足取りが軽くなった。