誰かのための《融合》
マリィとは、明日の朝にギルドの前で待ち合わせる約束をして別れた。
僕とリリエットは、いつものように宿へ戻る。
部屋に入って最初にしたのは、今日の融合だ。
今日は、黄色スライムの靴とリザードマンの琥珀鱗を融合する。
これでようやく――全身の融合が完了した。
あの日から、僕は黙々と防具の融合を進めてきた。
色合いの派手さが気になっていた琥珀色の防具たちも、使い込むうちに自然と色がくすみ、今ではいくらか落ち着いた印象になっていた。
……いや、単に泥やほこりで汚れてきただけかもしれないけれど。
* * *
融合を終え、それぞれの部屋で着替えた僕たちは一階の食堂へと降りた。
食事を取ろうと席に着いた僕たちに、ネルコが声をかけてくる。
「二人とも聞いたかしら?
サハギンのダンジョン、討伐されたって」
「うん、それなら知ってるよ」
つい先ほどギルドでその知らせを見てきたばかりだ。
「あら、じゃあこっちは知ってる?
そのパーティ、炎を使ってリザードマンを混乱させたらしいの。
何日か前にギルドで、リザードマンが炎や熱に反応するって話をした冒険者がいたらしくてね。どうも、その情報を使ったんだって」
ネルコは意味ありげに僕を見た。
「せっかくの情報を漏らすなんて、ずいぶん間抜けな冒険者もいたもんだね」
「そうかしら。私は――その冒険者は、間抜けなんかじゃなくて。お人よしだったんだと思ってるけど?」
ネルコは、すでにすべてを察しているような目をしていた。
どうやら、反撃の余地はなさそうなので、僕はただ肩をすくめた。
ネルコは僕の表情を見ると、それ以上何も言わず、ふっと笑って厨房へと戻っていく。
「お人よし、だってさ」
「……ああ、そうだな。ユニスはお人よしだ」
リリエットが、ぽつりと呟く。
「もう、リリエットまで……」
僕はからかわれたような気がして、すねたように言った。
「褒めているのだぞ」
リリエットは意外なほど真剣な声で言った。
「え……」
驚いて顔を向けると、リリエットはまっすぐこちらを見ていた。
「ユニスはずっといつだって優しい心を持っていた」
思いがけない言葉に、僕は思わず言い返してしまった。
「それは……違うよ。マリィを誘ったのは、トレントのダンジョンが残ってくれた方が、僕たちにとっても都合がよかったからだし。リリエットのときだって、ソロの限界を感じてたから、ちょうど良かっただけで……」
リリエットは少し首をかしげて、それから小さく息を吐いた。
「そうかもしれない。だが、私にはすべて逆に見えた」
その声には静かだが芯のある強さが宿っていた。
「ユニスは、マリィを助けたいと思った。だから、後から自分にも得があるように理屈をつけたんだ。私のときも同じ。本当は自分のことを後回しにして、誰かを助けようとする。私から見たあなたは、そういう人物だ」
真っすぐに向けられるまなざしに、目をそらしたくなる。
「そんなふうに言われても……正直、自分じゃよくわからないよ」
テーブルに視線を落としながら呟いた僕に、リリエットは言葉を続けた。
「だが、あのとき――ユニスは、リザードマンの性質をギルドで広めた。
自ら道化となり、せっかく手に入れた情報を手放した。
あれは……私には到底、思いつきもしなかった。
けれど、ユニスはマリィのためになると信じて、ためらいなく実行した」
「そんな大げさな話じゃないと思うけど……」
そう否定しながらも、胸の奥が少しだけざわついていた。
「いいや、これは――とても大事なことだと思う」
その声は、穏やかでありながら、これまでにない熱を帯びていた。
「ユニスの優しさは、ユニスの強さだ。その優しさが、マリィや私を結びつけた。モノとモノを融合するスキルよりも、人と人を繋いだその心こそ、本当に価値のある力なんじゃないかと……私は、そう思う」
リリエットの言葉が、静かに、けれど力強く胸に響いた。
「やさしさが……力、か」
少し照れくさくて、でも不思議と胸の奥が温かくなる。
「そうだとしたら、嬉しいな。リリエットにそう言ってもらえたのは、とにかく嬉しいよ」
「ふっ……ただ、たまに心配にもなるけどな」
リリエットがいたずらっぽく微笑んだ。
「え、何が?」
「ユニスは、女の子には無条件に優しいのではないかと」
「そ、そんなことないよ! ちゃんと考えて行動してるつもりだよ!」
慌てて否定すると、リリエットは珍しく、声を立てて笑った。
* * *
食事を終えて、僕たちは部屋へ戻った。
寝る前、ふとリリエットの言葉を思い出す。
――優しさは、強さだ。人と人を繋ぐ、価値ある力。
胸の奥がじんわりと温かくなった。
毛布をかぶって目を閉じる。明日からは、また三人でダンジョンに挑むのだ。
そう思うと、不思議と穏やかな気持ちになって、意識がゆるやかに遠のいていった。
そして、眠りに落ちる寸前――
『条件を達成し、スキル《献身融合》を獲得しました』
あの日に聞いた、あの声が、静かに頭に響いた。
『献身融合:スキル《融合》の使用時に“対象となる一人”を指定することで、その人物専用の装備を生成できる。指定された人物以外が使用すると破損し、融合した本人も例外ではない。』
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【あとがき】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回のエピソードで第二章はひと区切りとなりますが、もちろんユニスたちの冒険はまだまだ続いていきます。
《《これからも変わらず、毎日更新を続けていく予定です》》。
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これからも、どうぞよろしくお願いいたします。




