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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第二章

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「リザードマンの琥珀鱗」×「グリーンゼリースケイルアーマー」

 ――来る!


 槍が胸に届く、その瞬間。


 視界の端で、リリエットが駆けたのが見えた。


「はあっ!」


 鋭い斬撃が走る。リザードマンエリートの左脚を、聖銀の剣が切り裂いた。


 ほんのわずか、やつの歩調が乱れる。


 その刹那、僕は右半身を後ろにそらすようにして槍から逃れようとする。


 だが…。


「ぐっ……!」


 右胸に衝撃が走る。胸の中の空気が、勝手に吐き出される。


 ……けれど、貫かれてはいない。体を斜めにそらしたことで、穂先は逸れていった。


 衝撃に弾かれ、左斜め後方へ吹き飛ばされる。


 ドンッ、と鈍い音を立てて尻餅をついた。痛みが一気に押し寄せる。息を吸おうとするのになぜかうまくいかない。


 視線を上げると、リザードマンエリートはバランスを崩していた。


 足を斬られた影響で踏ん張ることができず、突進の勢いそのまま前のめりに――転倒。


「ユニス!」


 リリエットの声が聞こえた。けれど、答えられない。息が整わない。声が、出ない。


 代わりに、指を伸ばして、倒れた敵を指し示す。


 ――こいつを、先に!


 僕の意図を理解したリリエットは、すぐに動いた。


「よくも!」


 立ち上がろうとするリザードマンエリートの背中に、跳ねるように飛び乗る。


 聖銀の剣が逆手に構えられ、その刃が、背中へ――。


 ズブリ、と肉を割る音がした。


 床に膝をついたリザードマンエリートが、串刺しになったまま、鈍く吠える。


 けれど――


「っ……まだ、動くのか……!」


 リザードマンエリートは両手に力を込め、再び体を起こそうとしている。


 信じられない。あれだけの深手を負っても、まだ立とうとするのか。


 このままでは、リリエットが振り落とされる!


 僕は歯を食いしばり、無理やり体を起こした。腕に、脚に、まだ力は残っている。


「っ……!」


 全身を駆けさせる。リザードマンエリートへ――!


 渾身の力を込めて《黒溶の戦斧》を振り下ろした。


 狙いは、頭部。


 斧が鱗を砕き、火花を散らして食い込む。炎と溶岩の輝きが、一瞬、辺りを照らした。


 巨体が、ビクリと震える。


「――――……!」


 声にならない断末魔を上げ、リザードマンエリートが崩れ落ちた。


 光となり、霧散する。辺りに静けさが戻る。


 後には、またひとつ、琥珀色にきらめく鱗が残されていた。


 僕は、その場に膝をついて、大きく息を吸って、吐いた。


 勝った。――なんとか、勝てたんだ。


「二人とも、大丈夫!?」


 マリィが駆け寄ってきて、心配そうに声を上げた。


「私は大丈夫だ」


 敵の背に飛び乗っていたリリエットは、今は床にぺたんと座り込んでいる。そのまま小さく頷いた。


「僕も、なんとかね」


 そう言いつつ、僕は右胸に手をやる。鎧が小さく凹んでいたが、貫通していないのがわかった。


 ……さすが、刺突耐性付きの装備だけはある。


「本当に大丈夫か?」


 リリエットがこちらを見て問いかけてくる。


「うん、鎧のおかげで助かったよ。衝撃までは防げなかったけど、まあ……飛ばされたのはご愛嬌ってことで」


 僕はお尻についた砂を払いながら、わざと軽い調子で笑ってみせた。


 実際、大きな怪我はなさそうだ。


「それなら良いが……」


「うん、本当に平気。でも、少し奥まで来すぎたかも。このまま階段方向に戻って、今日は撤収しよう」


 今の戦いで、三体目のリザードマンエリート。階段はまだ見つかっていないけれど、十分な戦果だ。


「そうだな」


「わかったわ」


 その後はエリートとの遭遇もなく、無事に地上へと戻ることができた。


   * * *


「黄色いやつ、強かったね」


 帰り道、マリィがぽつりとつぶやく。


「ああ、そうだな」


 リリエットも頷いた。


「でも、ちゃんと渡り合えてたよ。最後の戦いだって、結果的には完勝だ」


 リリエットがちらりと僕を見た。


 ――危なかったんだぞ。


 そんな言葉が聞こえてきそうな視線だった。


 けれど、僕としてはリザードマンエリートに苦戦したという印象はパーティで持ちたくなかった。


 もちろん油断はしない。でも、変に苦手意識を持って萎縮してしまうと、これまでうまくいっていた連携が崩れてしまいそうな気がした。


「それに、いざという時はポーションもあるしね」


 付け足すように言うと、リリエットも渋々といった様子で頷いた。


「……まあ、そうだな」


「でも、ユニス。その鎧、せっかく昨日作ったばかりなのに、凹んじゃったね」


 マリィが僕の胸元を指さして言う。


「ああ、それね。ちょっと考えがあるんだ」


「もしかして、修理に出すつもり?

 そんな変な鎧、見てくれるところあるのかな……」


 マリィが首を傾げる。


「ううん。実はね……」


 僕はわざと勿体ぶってみせる。


「そのまま融合するのだろう。今日、手に入れた鱗を使ってな」


 リリエットがすかさず言った。まるで全部お見通しといった表情だ。


「ああ、なるほどね。作り直しちゃえば凹みも元通りってこと?」


「ええっと、うん。そうなんだ。このまま融合してみようと思って」


 肩をすくめて答える。リリエットに向かって、今度は僕は無言で抗議した。


 せっかく勿体ぶったのに、答えを先に言わないでよ。


「でも、実際に凹みが元通りになるかはやってみないとわからないけどね。今まで試したことないから」


 鎧を鑑定してみても、表示は変わらず《グリーンジェルスケイルアーマー》のままだ。


 以前、くし切りのルビーリンゴを鑑定しようとした時は鑑定できなかった。つまり、鑑定できるということはスキルの判断ではこの程度の凹みは“損傷”とまでは見なされていない……ということなのだろうと思っている。


「なるほどね、うまくいくといいわね」


 そんな話をしながら都市に戻り、ギルドで素材を換金した後、マリィと別れて宿へ向かった。


 もちろん、琥珀色の鱗は売らずに全て手元に残しておいた。融合に使える、貴重な素材だ。


   * * *


「さて、じゃあ早速やってみようか」


 部屋に戻った僕は、バックパックから一枚の琥珀色の鱗を取り出してテーブルに置き、鎧を脱ぐ。


 リリエットは当然のように僕のベッドに腰掛け、その様子を見守っていた。


「ユニス、ちょっと待て」


 彼女は立ち上がり、鎧を脱いだ僕に近づくと、シャツの上から右胸をごく軽い力で押した。


「痛っ!」


 思わず声が出た。


「やはりな。痣になっているではないか?」


 呆れたようにリリエットが言う。


 僕も慌ててシャツの中を覗き込む。槍で突かれた場所が、うっすらと紫色になっていた。大きくはないけど、確かに痣になっている。


「こんぐらいの痣になってる」


 僕は親指と人差し指で輪っかを作って見せた。


「やれやれ、無理をするな。ポーションを飲んだほうがいいのではないか?」


「まさか。そこまでじゃないよ」


 リリエットは少し不服そうだった。


「えっと、でも心配してくれて嬉しいよ」


 僕が素直にそう言うと、リリエットはほんの少し視線を逸らしながら、


「……バカ」


 ぽつりとつぶやいた。


 何気ない仕草だが、意外な反応になんだか胸の奥が少しくすぐったくなる。


 ――やばい、なんか変な空気になったかも。


「と、とにかく。融合の方が気になるでしょ?

 きっとかっこいい防具になるよ」


 僕は慌てて話題を戻すように言った。


「……そうだな」


 リリエットがあきらめたように頷く。


「じゃあ、行くよ!」


 僕は鎧と鱗を持って、深く息を吸い、意識を集中させる。


 融合――そう念じた。



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