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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第二章

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リザードマンエリート

 翌朝。

 僕とリリエットはいつものように宿を出て、南門でマリィと合流した。


 僕たちはそのままサハギンのダンジョンへと向かい、最短ルートで四階層を進んでいく。すでに地図は頭に入っていて、ほどなくして五階層への階段までたどり着くことができた。


「いよいよ、五階層だね」


 階段を前にして、僕が一息つくように言う。


「リザードマンエリートってやつが出てくるんでしょ?」


 マリィが確認するような口調で言う。


「うん。五階層では出現頻度は低いらしいけどね。黄色い鱗で、体格も普通の個体よりしっかりしてるからすぐ分かると思うよ」


「ふむ……当然、通常個体より強いということだな」


 リリエットがいつもの調子で言う。


「そうみたい。特別な能力があるわけじゃないけど、単純に一段上の強さらしい。とにかく無理しないで、これまで通り数の優位で戦おう」


「承知した」


「わかったわ!」


 僕たちは階段を一歩ずつ下り、五階層へと足を踏み入れた。


   * * *


 新しい階層に入ったときは、いつも通り慎重に行動する。奥には進まず、まずは階段周辺を探索する方針だ。


 リザードマンの気配を察知すると、適切な位置に陣取り、慎重に戦闘を重ねていく。今のところ遭遇するのは通常のリザードマンばかりだった。階層が下がったからといって別に今までと強さの差はない。確実に倒していく。


 緊張感が少しずつ緩みかけた、その時――


「みんな、あれ! 黄色い鱗!」


 マリィが通路の先を指さし、声を上げた。


 僕とリリエットもすぐにそちらを見る。確かに、そこに立っていたのは――これまでのリザードマンとは明らかに違っていた。


 ずっしりとした体躯。


 通常個体よりも一回り大きく、肌を覆う鱗はまるで磨き上げられた琥珀のように、艶やかに光っていた。金属のような重厚さと、滑らかで硬質な光沢を併せ持つ“黄色”――それが、このリザードマンの威圧感に拍車をかけている。


 手には長く鋭い骨槍を携え、全身から漂う圧力が段違いだった。


 リザードマンエリート――間違いない。


「……来るよ!」


 僕は黒溶の戦斧を構え、仲間たちに声をかけ一歩、前へ出た。


 リザードマンエリートとの距離が縮まる。

 その黄色の鱗が淡い光を反射し、骨槍を携えた姿は、まるで戦場の騎士のような威圧感を放っていた。


 まずは……僕が攻撃を引き受ける。


 パーティーの中で最も防御力のある僕が最初に敵の攻撃を受ける。そうすれば、リリエットとマリィが動きやすくなるはずだ。


 リザードマンエリートが吠え、間合いを詰めてくる。

 次の瞬間、骨槍の鋭い突きがこちらに向かって放たれた。


「っ――!」


 僕は盾を構え、咄嗟にそれを受け止めた。

 凄まじい衝撃。槍の穂先が勢いよくぶつかってきて、腕が痺れる。


 ……なんて重い一撃だ。


 普段ならここで反撃するところだ。けれど――今は仲間を信じる。

 僕は反撃したい衝動を抑え、次の動きに備えて盾を構えなおす。


 リザードマンエリートは槍を引き戻すと、今度は横に薙ぐような攻撃を繰り出してくる。


 僕は再び盾を構え、全身で受け止める。

 重い。けれど、耐えられる。


 その瞬間――


「はっ!」


 リリエットが滑るように前へ踏み出し、聖銀の剣を振り下ろした。

 銀の刃が、金の鱗の隙間を裂く。

 リザードマンエリートが低く唸る。ちゃんと効いている。


 そして――


 リザードマンエリートは今度はリリエットに標的を変えた。

 槍を高く振り上げ、力任せに叩きつけようとして――


「今よ!」


 声とともに、細身の影が敵の右側面へと滑り込む。

 マリィだ。いつの間にそこに回り込んでいたのか。


 リザードマンエリートの腕をあげ、脇が大きく開いたその瞬間、マリィのダガーが右腋に突き込まれた。


 「ッ!」


 その部位は比較的鱗の密度が荒く、マリィの鋭い一撃は見事に鱗の隙間を突いていた。

 刃が深く入り込み、リザードマンエリートの咆哮が響いた。


 今だ――!


 僕は体勢を崩したリザードマンエリートに対し、斧を振り上げた。

 黒溶の戦斧――その刃を、胴体へと全力で叩き込む。


 刃が鱗を砕き、深々と食い込む。

 金属が擦れるような火花が散る。


 だがそれだけでは終わらない。


 赤く輝く泥のような“溶岩”が、斧の軌跡に沿って傷口を焼いた。


「ガアアッ!!」


 リザードマンエリートが自分の傷を見て、狂ったように叫ぶ。


 その隙を、リリエットは逃さなかった。

 地を蹴り、左足を回り込むように斬りつける。


 その脚を支えていた力が抜け、エリートの動きが鈍る。


 そこからは一方的だった。


 僕、リリエット、マリィ。

 三人の連携がかみ合い、休む間もなく連撃を叩き込んでいく。剣が、斧が、ダガーが幾度も鱗を裂き、肉を貫き、巨体を揺らす。


 数の優位を生かした、まさに袋叩きだった。


 そして――ついに、リザードマンエリートの体が大きく崩れ落ちる。光の粒となって霧散し、辺りに静寂が訪れた。


 その場には、きらびやかな黄色い鱗が一枚、ひらりと残されていた。


 僕はすぐに駆け寄って拾い上げ、鑑定する。


 《リザードマンの琥珀鱗:素材》


 やはりただの鱗ではない。見た目も美しいが、何より“エリート”の素材だというのが重要だ。これは防具の融合に使えそうだ……間違いなく、今までの鱗より質が良い。


「ちゃんと、エリート相手でも通用したわね」


 マリィが笑顔で言う。


「うん、そうだね。ちゃんと戦えたね」


「ああ、確かに強敵だったが今の私たちなら大丈夫だな」


 リリエットも表情を緩めてそういった。


 仲間と目を合わせ、短く健闘をたたえ合う。そして――探索を続けた。


 やがて、二体目のリザードマンエリートと遭遇した。今回も槍を構えた個体だ。最初は僕が前に出て攻撃を受け止める。タイミングを見計らい、リリエットが切り込み、マリィが隙を突く。三人で連携し、一気に畳みかける。


 ――袋叩きだ。


 すべてがうまく噛み合っていた。戦い方としては、まさに理想的な展開だった。


 そして、またしても《リザードマンの琥珀鱗》がドロップした。


「今のもエリートだったね。やっぱり5階層だとそんなに頻繁には出てこないね」


「そうだな。まだ数は少ないが、体感では……10体に1体、といったところか」


 僕は周囲を見渡しながら言った。


「ちゃんとエリート相手にも通用するなら、少し探索範囲を広げよう」


「了解した」


「うん、行こう!」


 二人とも力強く頷いてくれた。三人でなら、きっと大丈夫だ。


 そう信じて、僕たちは階段を探すために行動範囲を広げていった。


 それからしばらく――三体目のリザードマンエリートと遭遇する。


「来るよ……!」


 今までと同じだ。最初に僕が前に出て、相手の攻撃を受け止める。

 槍の突きと薙ぎ払いを盾で防ぎ、タイミングを見てリリエットが斬り込む。

 その一撃を合図に、マリィが背後に回り込み、ダガーを突き刺す。


 よし、これは勝ちパターンに入った。


 僕はそう思いながら《黒溶の戦斧》を振り上げ、振り抜く。

 火花が飛び、傷口に赤く輝く溶岩が滲む――その瞬間だった。


「ガアッ!!」


 リザードマンエリートが、がむしゃらに槍を抱えて僕に突っ込んできた。


 明らかに防御など考えていない、捨て身の一撃。


 まずい。距離が近すぎる。盾が――間に合わない!


 全身の筋肉が本能的に収縮する。逃げろと叫ぶ頭に反して、体は一歩も動けない。


 槍の穂先が、まっすぐ僕の胴を貫こうとしている。


 槍が目の前に迫る。時間が止まったかのように、ただその軌道だけが、鮮やかに焼きつく。

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ボヨヨン岬
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