「火花の短剣」×「ウッドスピア」
ダンジョンで、いつものようにゴブリンを狩る。
ゴブリンソードを手に入れて、今日で五日目。
このまま一生、ここでゴブリンソードを片手にゴブリンを狩り続けていてもいいのかもしれない――一瞬、そんな考えがよぎる。
ゴブリンソードのおかげで、安全に狩りができている。稼ぎは今までの二倍。このまま続けていれば、貯金だってできる。
でも、僕は思い出す。
あの農村での日々。
麦を育てて、収穫して、また育てて……
穏やかで、死の危険なんてなかった。だけど、退屈だった。そんな日常が一生続くなんて、耐えられなかった。
だから、飛び出してきたのだ。
ここでゴブリンを狩り続けるだけの日々も、麦を刈って暮らすのと何が違う?
そのとき、ゴブリンが叫び声をあげて近づいてくる。
考えに没頭していたことを反省しながら、攻撃を受け止め、カウンターで斬り伏せる。
本日20体目のゴブリン。ドロップは棍棒。
屈んで棍棒を拾う。
一瞬、麦を刈っていた自分が頭をよぎる。
今日はここまでにする、バックパックも一杯だ。
ダンジョンを出て帰り道、再び考える。
やっぱりここでゴブリンを狩り続ける人生はごめんだ。
現在、迷宮都市ハルシオン付近にはダンジョンが6つ存在している。ダンジョンは地中で成長し、十分に成熟すると地上に入り口が現れる。
最下層のボスを討伐すれば、魔物の発生が止まり、やがてダンジョンごと消滅する。
この地域はダンジョンの発生が多く、ドロップアイテムの流通によって都市も比較的豊かだ。
だが、放置しすぎると魔物があふれ、都市に被害が及ぶ。
現在の六つという数は安定しているとされているが、増えすぎれば領主の騎士団が出動して強制討伐に乗り出す。
今、騎士団は北の最難関ダンジョン――ドラゴンが出るという場所に遠征中らしい。
ドラゴンの鱗でできた鎧を身につけた自分を、一瞬だけ夢想する。
だが、それは今の自分にはあまりにも現実味がなさすぎる。
なら、どこがいいだろう。
そもそも、僕がゴブリンダンジョンの一階で足踏みしているのは、防御力に不安があるからだ。
ドロップアイテムで防具を強化できないだろうか。
……だが、ゴブリンの素材では、どう考えても微妙だ。
南のダンジョンではゴーレムが出るらしい。
奴らは鉱石を落とすことがあり、良い鉱石を持つ個体は、体そのものが金属でできているという。
そんなのと、どうやって戦うんだ?
やはり、ゴブリンで金を貯めて、鉄の鎧を買うしかないのか。
そう考えていた時、不意にひとつのアイディアが思い浮かぶ。
足取りも軽く、ギルドで換金する。今日の収入は210ゴルド。
宿屋で食事を済ませ、ベッドに横になる。
明日が、待ち遠しい。
翌朝。
火花の短剣と、部屋に置いていたウッドスピアを手に取る。
「融合」
光があふれ、ふたつのアイテムが一体化していく。
《火花の両手槍:両手槍 攻撃力8 炎ダメージ+1 ※ユニス以外が使用すると破損》
「やった……!」
理想的な武器が手に入った。
テンションが上がる。
大きさはウッドスピアの頃と変わりないが穂先が金属でできている。
穂先には火花の短剣と同じような炎のような赤い意匠があり、穂先から下は30cmほどは鉄で覆われ、それより先はウッドスピアの頃と変わらず木製だ。
この部分の金属がどこから湧いてきたか若干不思議だが、少なくとも穂先から火が出ても槍自体が燃えてしまうことはなさそうだ。
ちょっと、振り回してみたかったがうっかり壁にぶつけて火事にでもなったら大変だ。
朝食をとり、火花の両手槍を背中に携え、意気揚々と出発する。
宿を出ると、掃き掃除をしているネルコと鉢合わせた。
「それ、そんなの持ってたの?」
ネルコが、背中の槍を指さして言う。
「ちょっとね、いいでしょ」
僕は得意げに返す。
「良いでしょって…。
まあ、いいわ。
いってらっしゃい。
慣れてない武器使って怪我しないようにね!」
「うん、行ってきます!」
目指すのは、西門を出た先。スライムが出るというダンジョンだ。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
第5話まで一気に公開しましたが、ここからは毎日1話ずつの更新を予定しています。
少しずつ成長していくユニスの冒険を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
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