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連携

 僕がしゃがんで回復ポーションを拾い上げる。


「これ、回復ポーションだよ。滅多にドロップしないから、マリィは運がいいね」


 そう言うと、マリィが目を輝かせた。


「これが……回復ポーション……!

 話には聞いてたけど、初めて見たわ。」


 小さく息を呑み、驚きと喜びが入り混じったような表情を浮かべる。


「やれやれ、私もポーションのドロップを見るのは初めてだが……初戦で回復ポーションとは、マリィは運がいいな」


 リリエットはそう言いながら、どこか複雑な表情を浮かべていた。


 かつて金のポーションを必死に探し回っていた彼女にとって、色は違えど、あっさりとポーションがドロップしたことに少なからず思うところがあるのかもしれない。


「確かにマリィの運なのかもね。じゃあ、せっかくだから、これはマリィが持っていてよ。お守り代わりにでも」


 僕は瓶をそっとマリィの手に渡した。


「えっ、でも……リーダーのユニスが持ってたほうがいいんじゃないの?」


「リーダー……?」


 思わず聞き返してしまう。

 いつの間に僕がそんな役職になっていたのか、内心ツッコミを入れた。


 でもまあ、三人で動くなら、誰かが方針を決める役は必要かもしれない。マリィには僕がそう見えたらしい。


「リーダーかどうかはともかく、実は……一つ持ってるんだ」


 僕は腰のポーチに手を伸ばし、小さな瓶を取り出す。緑色の液体が入った《癒やしのグリーンポーション》だ。


「あれ、そういえばそれも回復ポーションなの?

 さっき、ポーチ買った時にバックパックから移してたの見たけど……色が緑だわ」


 マリィが目を丸くする。


「これはちょっと訳ありでね。ダンジョンから出たら話すよ。今は……長話は危ない」


 僕が周囲を警戒しながら言うと、マリィもこくりと頷いた。


 その後も、マリィの戦闘への慣れを重視して、僕とリリエットが前に立って盾役を引き受け、マリィに攻撃役になってもらった。


 最初の戦闘のように首を一撃で仕留めるというのはそうそう決まらないが、それでもマリィは見事に隙をついて攻撃を決めていった。


 短剣という武器のリーチは短いが、彼女の素早い動きのおかげで、スッと距離を詰めて斬りつけ、すぐに距離を取る。見ていて爽快な動きだった。少なくとも、僕が初めてダンジョンに来た時よりもずっと動けている。


 いくつか戦闘をこなしたところで、僕たちは二階層へと続く階段へと向かった。マリィはもう十分慣れたようだった。


「ここからは敵が二体同時に出てくる」


 とリリエットが言う。


「僕とリリエットで一体ずつ受け持つから、マリィは攻撃できそうな個体を見て判断してくれる?」


「わかったわ」


 二階層に降りてすぐ、サハギンが二体現れた。

 僕とリリエットが前に出て、それぞれ一体ずつを引き受ける。


 あっという間に殲滅して、マリィの出番はなかった。


「あなたたち、倒すのが早いから私の出番がないわね」


 マリィがやや困惑気味に言った。


 確かに、今の僕とリリエットなら、サハギン相手に手間取ることはない。ほとんど一合、二合のうちに決着がついてしまう。


 それに、サハギンのような小型の敵を囲んで戦うのは意外と難しい。僕たちが攻撃を仕掛けたときに、近くにいると巻き込んでしまう危険もある。


 でも、さっきのように盾役と攻撃役をはっきり分けてしまうと、連携の練習にはならない。


「うん、確かに。この階層では僕とリリエットだけでも十分戦える。でも、これより下の階層に進むなら、マリィの力は絶対に必要になる。だから今は、無理に攻撃しようとしなくていい。僕たちの動きに慣れて、サポートできそうなときだけ攻撃してみてくれる?」


「なるほど……わかったわ。やってみる!」


 その後、マリィはじっと僕らの戦闘を観察していた。


 何戦かを経た頃。


 リリエットの攻撃が決まった直後、マリィがスッと動いてサハギンの側面に回り込み、ダガーで浅く切り裂いた。


 攻撃は致命傷にはならなかったが、サハギンの注意が逸れ、その隙を突いてリリエットがとどめを刺す。見事な連携だった。


「いい連携だったな。マリィ、今のは素晴らしい動きだった」


 リリエットが嬉しそうに褒めた。


「なんとなく、分かった気がするわ」


 マリィが自信なさげに微笑む。


 その次の戦闘では、僕の攻撃のタイミングに合わせてマリィが追撃を入れてくれた。


 一瞬サハギンが注意を迷わせたその一瞬に、僕がとどめを刺す。


「私、無理に致命傷を与えなくてもいいのね。二人のために隙をつく……それがいいのかも」


ドロップアイテムを拾いながらマリィが言う。


「確かにそうだね。でも、口で言うほど簡単なことじゃないと思うよ。それがもうできてるって、すごいことだよ」


「ふふん。あたし、昔っから要領がいいって孤児院のシスターにも言われてたのよ!」


 その自信に満ちた笑顔は、すっかり“見習い”のそれではなかった。


 僕たちはそのまま三階層にも降り、サハギンを次々と討伐していった。

 

マリィは僕たちの動きを見極めながら、的確なタイミングで追撃を繰り出す。


 戦闘のテンポが、明らかに以前よりも早くなっていた。


 マリィはもう、立派な戦力だった。


 三人のバックパックが半分ほど埋まった時点で、今日はここまでにすることに決めた。


 装備を買ってから来た分、あまり狩れないかもしれないと思っていたが――

 マリィの活躍のおかげで、予想以上の成果だった。

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