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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第二章

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ビギナーズラック

 僕らは南門を抜け、サハギンのダンジョンへと向かった。


 武器屋や防具屋ではあれほど明るく振る舞っていたマリィだったが、街を離れ、草地の道を歩いていくにつれて、少しずつその表情が硬くなっていくのがわかった。


 ──両親が帰ってこなかったダンジョン。


 彼女にとっては、思い出すだけで胸が締め付けられるような場所のはずだ。そこへ自分の足で向かっている。平気でいられるわけがない。


 やがて、ダンジョンの入り口が見えてくる頃には、マリィの耳──猫のような、あの特徴的な耳が、ぺたりと力なく垂れ下がっていた。彼女の不安が、そのまま表れているようだった。


 僕とリリエットは目を合わせる。無言のやり取りの中で、リリエットが小さく顎を引いた。


 ──まかせる。


 たぶん、そういう意味だ。なら、ここは僕の出番だろう。


「マリィ」


 僕はマリィの隣に歩み寄り、ゆっくりと声をかける。


「今日から、僕らは仲間だ。君はもう一人じゃない。……最初は、ただついてきてくれるだけでいい。絶対に僕らが守るから」


 マリィはぴたりと立ち止まり、僕の顔をじっと見つめた。


 しばらくの沈黙のあと──


 やや無理やりではあったけれど、彼女はニカッと笑ってみせた。


「……ありがとう。気を遣わせたわね。でも、大丈夫。家族のためだもの。ビビってなんかいられないわ」


 その声には、かすかに震えが混じっていたけれど、ちゃんと自分を鼓舞しようとする意志も込められていた。


 ぺたりと倒れていた耳も、次第にしゃんと立ち上がり、いつものようにピンと張った。


「よし」


 僕はうなずく。


「じゃあ、行こう。サハギンのダンジョンの一階層には、単独で出てくる敵しかいない。まずは、後ろから戦いの様子を観察してみて」


「わかったわ」


 マリィはもう一度、小さくうなずいた。その目は、さっきよりもずっと強い光を宿していた。


 ダンジョンの入り口をくぐり、僕たちは階段を下っていく。


 足元には苔のようなぬめりがあり、ひんやりとした空気が肌を撫でた。降りきったところで、マリィがきょろきょろと辺りを見渡す。


 僕らにとっては見慣れた景色だが、マリィにとっては初めてのダンジョン。目に映るものすべてが異質で、不安と緊張が入り混じっているのがわかった。


 そのとき──


「くちゅんっ」


 小さなくしゃみが聞こえた。


 あまりにも唐突で、しかもどこか間の抜けた音に、思わず僕は笑ってしまった。


「も、もう……笑わないでよ……」


 マリィは顔を少し赤くして俯いたが、肩の力は抜けたようだった。


「よし、じゃあこっちの道に行くよ。離れすぎないように注意して」


「分かったわ」


 僕とリリエットが横に並び、その後ろにマリィがつく形で、ダンジョンの中を進んでいく。


 間もなく、最初の敵──棍棒を持ったサハギンと遭遇した。


「僕らに任せて」


 そう言って、いつも通りリリエットと連携して対処する。棍棒を受け止め、隙を突いて攻撃し、サハギンは危なげなく光の粒になって消えた。


 続けて二体目、三体目も同様に撃破。3体目のドロップアイテムを拾ったところで、リリエットがそっと僕に耳打ちしてきた。


「ユニス、そろそろマリィにも戦わせたほうがいい。後ろで見ているだけだと、かえって無力感や恐怖心を煽るかもしれぬ」


 意外な助言だった。


 僕としては、今日はただダンジョンに慣れるだけで十分だと思っていたのだが──確かに、ただついてくるだけだと、自分が“お荷物”だと感じてしまうかもしれない。


 僕は頷いて、マリィに振り返った。


「マリィ。次に棍棒を持ったサハギンが出てきたら、君も一緒に戦ってみてくれるかい? 正面は僕とリリエットで引きつけるから、隙を見て、側面か背後から攻撃してくれればいいよ」


「うん、わかったわ!」


 思ったより力強い返事だった。リリエットの言うとおり、彼女の性格だと、ただ後ろで見ているよりも、行動に移したほうが向いているのかもしれない。


 少し進んだ先で、ちょうどいい相手が現れた。棍棒を構えたサハギンだ。


 皮肉なことに、サハギンは素手の個体より、棍棒を持っている個体の方が読みやすくて戦いやすい。盾を持たないマリィにとっても、今は好都合だ。


「いくよ」


 僕は盾を構えてサハギンの攻撃を正面から受け止めた。


 そのまま、二度、三度と攻撃を誘う。通常ならすぐ反撃するが、今回はじっと我慢してチャンスを待つ。


 ──そして。


 四度目の攻撃のタイミング。マリィが地を蹴って、音もなく背後に回り込んだ。


 サハギンの棍棒を僕が盾で弾く、体勢が崩れたその隙を見逃さない。


 まず、左手のダガーがその脇腹に鋭く突き刺さる。


 続けざま、右手のダガーを逆手に持ち替え、アゴの下から突き上げるように刃を突き立て、真横に切り裂いた。


 サハギンの身体が一瞬跳ねると、そのまま力なく崩れ去り、すぐに光の粒となって消滅していった。


 ──マリィが、自分の攻撃だけで仕留めた。


「すごいよ、マリィ!」


「すごいじゃないか!」


 僕とリリエットが思わず声を揃えて賞賛すると、マリィは目を見開いたまま、驚いたように立ち尽くしていた。


「あ、ありがとう……」


 ようやく我に返ったように呟くマリィは、信じられないものを見たような顔だった。


 そのとき──


 カラン、と乾いた音がダンジョンの空間に響いた。


 何かが地面を転がる音。


 見ると、赤い液体の入ったポーションが落ちていた。


 マリィが倒したサハギンからのドロップだ。


「まさか……これは」


 リリエットが驚愕の声を出す。


 鑑定。


《回復ポーション(小):道具 回復効果・小》


 運がいいにもほどがある。初めての戦闘で、初めてのドロップアイテムが回復ポーションとは。


 これが、いわゆる──ビギナーズラックってやつかもしれない。

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やったぜ!これで空き瓶ゲットだ!
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