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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第二章

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「蒼蓮の花」×「鉄の盾」

「なんで、トレントのダンジョンには懸賞金がかけられたんだろう」


 ふと疑問がそのまま口をついて出た。


「サハギンのダンジョンは、魔物が街道にまで溢れたから分かるけど……。

 でもトレントのダンジョンって、むしろドロップアイテムは役に立つものばかりだったよね」


 果物はそのまま食べられるし、薬草や触手だって素材としても価値がある。少なくとも、サハギンの骨棍棒やヒレよりかは活用手段が多そうだ。


「……もしかしたら、役に立つからこそ、なのかもしれない」


 リリエットが静かに言った。


「役に立つから?」


「果物が取れるダンジョン。そんなものが都市の近くにあったら、外の都市や村から果物をわざわざ取り寄せる必要がなくなる。」


「え、でもそれって、普通はいいことじゃないの?」


「一見は、な」

 リリエットは言葉を区切った。


「だが、もしこのまま果物がたくさん流通して、簡単に手に入るようになったら……今度は、人は野菜もあまり買わなくなるかもしれない」


「え、そんな極端な話?」


「仮定の話だ。けれど──酒もそうだぞ。あの黒曜ブドウ、あれもトレントのダンジョンで手に入る素材だ」


「……もしかして、ワインを迷宮都市で作るってこと?」


「もちろん、そんなすぐにはできないだろう。だがありえない話じゃない」


 リリエットの言いたいことが、ぼんやりと分かってきた。


「迷宮都市は、今までずっと他の町や村から食料や飲み物を輸入してきた。

 それが当たり前だったんだ。逆に言えば、それで儲けてる商人や権力者がいるということでもある」


 なるほど……と思った。


 街の中で果物や酒が作れるようになれば、外から仕入れていた商人たちの仕事は減る。儲けも減る。影響は、思った以上に大きいかもしれない。


「つまり、トレントのダンジョンを討伐して潰してしまえば全部解決ってことだね。でも、それ以上にトレントのダンジョンのアイテムを有効活用したほうが色々な利益がありそうだけど」


「そう考えるものも多いだろう。だからこそギルドは二つのダンジョンに同時に懸賞金をかけたのだろう」


「ギルド内でも対立があるってことだね」


 正直、僕もそこまで詳しいわけじゃないけど、ギルドはいくつもの商工会や職人組合のトップたちによる理事会によって運営されている。ダンジョンで得た素材をどう流通させるか、どこに利益をもたらすか……そういう判断ひとつで、都市の経済が大きく揺れる。


 もちろん、迷宮都市の最高権力者は領主である伯爵だ。エルデ伯爵といって百戦錬磨の騎士団を率いているが、今はドラゴンが出るという北のダンジョンの対応にかかりきりになっている。そのため、最近増えたダンジョンの管理や討伐は、ギルドに任せる方針を取っているのかもしれない。


 そうした背景があるからこそ、ギルド内でも意見が割れ、結果的に二つのダンジョンに同時に懸賞金をかけるという異例の対応につながったのだろう。


「話を遮って悪いけど」


 ネルコがわざとらしく咳ばらいをした。


「結局この子はどうするの?」


 ネルコはマリィを見てそう言った。


 たしかに、それが問題だった。


 もしリリエットの言う通り、トレントのダンジョンに懸賞金がかけられた理由が、街の商人たちや有力者の利権と関係しているのなら──


 いくらギルドに直訴したところで、懸賞金が取り下げられるとは思えない。


 となれば、残された方法はひとつ。


 最も単純で、最も困難な手段。


 ──自分たちで、サハギンのダンジョンを先に討つ。


 もともと、僕たちの目的はダンジョンの討伐だ。その目標は変わっていない。


「リリエット」


 僕は、彼女に目を向けた。


 リリエットは、何も言わず僕を見返す。


 そして、それだけで僕の意図を察したように、小さく、けれどしっかりと頷いた。


 ──なら、決まりだ。


「マリィ」


 僕は少女に向き直る。


「このまま、冒険者の妨害を続けたって、何も変わらないよ。君がやっていることは──子供じみた、ただの嫌がらせだ」


 あえて、強い言葉を選んだ。


 マリィが顔を強張らせる。猫の耳がぴくりと揺れた。


「……じゃあ、どうすればいいのよ!

 誰も助けてなんか、くれなかったわ」


 マリィが叫ぶ。声が震えていた。


 怖いのだろう。悔しいのだろう。それでも、彼女は自分なりに一生懸命だったはずだ。


 だから、僕は言った。


「──そうだね。だからこそ、自分で変えるしかないんだ」


 僕はマリィの視線を正面から受け止めた。


「僕たちは、サハギンのダンジョンを討つ。あのダンジョンを先に討伐して、懸賞金を勝ち取る」


「……え?」


 マリィが目を見開いた。


「もし、君も本当に何かを変えたいと思っているなら──」


 言葉を区切ってから、静かに告げる。


「僕たちと一緒にダンジョンに挑むんだ」


「ダンジョンに……私が……。パパとママも、そこで──」


 マリィは俯いたまま、拳を握りしめていた。


「もし君にその気があるなら、明日の朝、教会の鐘が鳴る頃にギルドの前に来るんだ」


 僕は一方的に話して返事も聞かないまま、僕は背を向けた。


 リリエットがすぐに後に続く。


 ネルコは一瞬マリィを振り返っていたが、何も言わず、遅れて僕たちの後を追ってきた。


 ──自分で、決めるしかない。


 ダンジョンで賭けることになるのは自身の命だ。僕たちが無理に強制することはできない。


   * * *


 その後、僕たちはまず、ネルコに報酬として約束していたリンゴとミカンを手渡した。


「ありがと!これでしばらくは果物三昧ね」


 ネルコはにっこり笑いながら手を振って去っていった。この時間のネルコにはまだやることがたくさんある。急いで戻って、宿でゴードンさんの手伝いをするのだろう。


 僕たちはそのままギルドに立ち寄って、今日集めたドロップアイテムを売却した。


 売却を終えて宿に戻り、自分の部屋に入ると、すぐにベッドに荷物を下ろして深く息をついた。


「ずいぶんと格好をつけるじゃないか、ユニス」


 後ろから部屋に入ってきたリリエットが、少し意地悪そうに口を開く。


「からかわないでよ」


 僕は肩をすくめて答えた。


 リリエットはベッドの端に腰を下ろし、少し遠くを見ながら言った。


「……マリィは、来るであろうか」


「さあね。こればっかりは本人が決めることだから」


 そう言いながらも、僕もつい窓の外に視線を向けてしまう。今ごろ、あの子はどんな気持ちでいるのだろうか。


「だが、来てくれたとして……マリィは戦えるだろうか?」


「最初は後ろから付いてきて、バックパックでドロップアイテムを拾ってくれるだけでもいいんじゃない?」


「なるほどな。多くの素材を持ち帰れば、その分、武器や防具の強化につながるか」


「それに、マリィはあの身のこなしだから。いざという時は──」


「一人で逃げられる。そういうことか?」


「うん」


「やさしいではないか、ユニス。サハギンのダンジョンの討伐も決めてしまうし」


 リリエットがくすっと笑って、からかうように言った。


「わかってて言ってるんじゃない」


「なにがだ?」


「トレントのダンジョンとサハギンのダンジョン、僕らにとって残ってくれたほうがいいのは──トレントの方だよ」


 サハギンのダンジョンでは武器に使える素材が手に入る。でも、継続的に必要になるのは、トレントのダンジョンで得られる癒しの薬草だ。


「僕らは薬草からポーションを作れる。マリィの事情は、実はあまり関係ないよ。

 むしろ、そこに付け込んで仲間に誘ったんだから、立派な悪人だよ」


「ふむ、まあ本人がそう言うなら、そういうことにしておこう」


 リリエットは優しく笑った。


「ま、来てくれたら、の話だけどね」


 僕はそう返しながら、もう一度、あの少女──マリィの伏せられた耳と、拳を握りしめていた姿を思い出していた。


「よし、じゃあユニス。マリィのことはマリィが決めるとして……今日は何を融合するのだ?」


「実は、鉄の盾と──昨日の花を融合しようと思ってて」


「蒼蓮の花か?」


「うん。これからサハギンのダンジョンの下層を狙うなら、防具の強化は必須だからね」


 僕はバックパックから、昨日手に入れた《蒼蓮の花》と《鉄の盾》を取り出した。


 鉄の盾はいままで十分すぎるほど活躍してくれた。だけど、リザードマンのような相手には、もっと軽くて素早く取り回せる盾の方がいい。


 蒼蓮の花は、軽くてしなやかで、丈夫な素材だ。その特性が生かされれば、今まで以上に使いやすい盾になるはずだ。


 これまでは失敗した時に鉄の盾を買い直すのが難しかったけれど、最近の稼ぎなら、万が一のときも取り戻せる。


「ほう、面白い組み合わせだな」


 リリエットが興味深そうに頷く。


「じゃあ、行くよ」


 僕は両手に蒼蓮の花と鉄の盾を構え、深く息を吸い、意識を集中した。


 ──融合。


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― 新着の感想 ―
久しぶりの装備強化だぁああああ!!うおおおおおお!!!
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