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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第二章

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「しなる触手」×「しなる触手」

 フードがめくれ上がり、スリの素顔があらわになる。

 思わず息を呑んだ。


 黒い髪に、黒い瞳。年の頃は──十四、五歳ほどだろうか。

 まだ顔立ちには幼さが残っている。

 

 女の子だ。


 その表情には、驚きと恐怖が入り混じり、引きつったように歪んでいた。


 まさか、スリの犯人がこんな少女だったなんて──。


 けれど、僕がさらに衝撃を受けたのは、その頭頂部にあったものだ。


 ──耳。


 髪と同じ黒い毛に覆われた、三角形の大きな耳が、頭の上から突き出していた。


 猫を思わせる、愛らしくもしっかりとした輪郭の耳。

 間違いない。獣人だ。


 予想外の正体に一瞬、固まってしまった。


 その間に獣人の少女は、目を見開いたまま身を翻し、走り去ってしまった。


「待て!」


 リリエットが一瞬遅れて反応し、鋭く声を上げながら追いかける。


 僕もその後に続いた。


 しかし、走り出してすぐにわかった。

 僕たちは装備を身にまとい、パンパンに膨らんだバックパックを背負っている。一方で、あの少女は軽装で、まるで風のように地面を駆け抜けていく。


 その差は明らかだった。


 距離はみるみるうちに開いていき、角をひとつ曲がったところで、ついにその姿は見えなくなってしまった。


「はぁ……はぁ……なんて、素早いんだ……」


 リリエットが肩で息をしながら呟く。


「獣人は人より身体能力が高いって、本当なんだね……」


 迷宮都市では、獣人をまったく見かけないわけではない。人に混じって冒険者として活動している者もいるし、街角でたまに見かけることもある。

 

 だが、その数は決して多くない。僕自身、いままで獣人の知り合いは一人もいなかった。しかし、その身体能力の高さは噂には聞いていた。


「ああ。私の攻撃も、あっさり避けられてしまった」


「それはしょうがないよ。本気じゃなかったでしょ?」


 いくら鞘付きとはいえ、金属の剣で頭を打てば、ただでは済まない。

 リリエットの一撃は、明らかに手加減していた。だからこそ、いつもの鋭さや速さを欠いていたのだ。


「本気ではなかったが、ああも簡単にかわされるとは……。少し自信がなくなってしまうな。

 ──次は、こうはいかない」


 リリエットの瞳に灯ったのは、静かな闘志。

 彼女のプライドが、火をつけられてしまったらしい。


「え、まだやるつもりなの?」


「当たり前だ。二度も出し抜かれて、このまま引き下がれるものか」


 どうやら、盗まれたリンゴに怒っているというより、攻撃を避けられたことそのものが、リリエットの戦士としての矜持に響いたらしい。


「でも、どうするの? まさか、次は本気で斬りかかるつもりじゃないよね?」


 迷宮都市には血気盛んな冒険者も多く、多少の小競り合い程度では衛兵も動かない。

 だが、街中で刃を抜けば話は別だ。たとえ相手が盗賊であっても、周囲を巻き込む事態になればただでは済まない。


「うむ……。何とかして、あやつを出し抜く方法を考えねば……」


 リリエットはしばし腕を組んで考え込んでいたが、やがてふっと顔を上げ、ニヤリと笑った。


「ユニス。今日は良いものを拾ったではないか」


   * * *


 ギルドでドロップアイテムを売却した後、僕たちはいつもの宿屋に戻った。


「ねえ、リリエット。本当にやるの?

 上手くいくとは限らないよ」


「それはもちろん承知の上だ。それに……ユニスも、この融合を考えていたのだろう?」


「うん。まあ確かに、ちょっと面白い装備になるかもって思ってた」


 僕は、両手に《しなる触手》を持ち上げて見せた。

 滑らかで、弾力があり、まだ生きているかのような生命力を感じる。


「じゃあ──いくよ」


「ああ」


 融合。


 ふたつの触手が淡い光に包まれ、一つになっていく。


 やがて光が収まったとき、僕の手の中に現れたのはしなやかに巻かれた一本の鞭だった。


 深い緑色の表皮は、まるで生きた蔦そのもののようにみずみずしく、しなやかにたわんでいる。


 先端に向かって自然な膨らみがあり、不思議な生命の気配を放っている。


《バインドウィップ:鞭 攻撃力1 ※ユニス以外が使用すると破損》


「おお……なかなかそれっぽいね」


 手に巻きつけるようにして感触を確かめながら、僕は小さく笑った。

 戦闘用としては攻撃力は心許ないが、今回の件にはうってつけかもしれない。


「ユニス、完璧じゃないか!」


リリエットは、思い通りに事が運んだのが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべた。


「よし、これなら次は奴の意表を突けるかもしれないな」


 リリエットはそう言って、今度はニヤリといたずらっ子のように笑った。


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― 新着の感想 ―
ちょっと気になったんですけど、鞭って振ると先端は音速に達するとか聞いたことあります。それが当たっても攻撃力1の武器の場合1ダメージしか入らないんですかね?
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