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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第二章

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33/112

「黒曜ブドウ」×「空きポーション」

 朝食を済ませた僕たちは、その足でギルドへと向かった。


 掲示板の前には、すでに数人の冒険者たちが集まっていた。

 僕らもその後ろから覗き込むと、ネルコが言っていたとおり、トレントのダンジョンとサハギンのダンジョン、それぞれに懸賞金がかけられているという告知が貼り出されていた。


 報酬金額は、十万ゴルド。

 条件もネルコの説明通りで、「先に討伐されたダンジョンにのみ支払われる」と明記されている。


 さらに視線を動かすと、掲示板とは別に、二枚の立て看板が新たに設置されていた。

 一方はトレントのダンジョン、もう一方はサハギンのダンジョン──どちらも独立して情報がまとめられ、まるで互いに競い合っているかのような位置に並べられている。


「あ、こっちに新しい情報が出てるね」


 僕が指さしたのは、トレントのダンジョンの看板だ。


 5階層のモンスター情報が追加されていた。


《人食い花:複数の触手と大きな口を持つ。出現範囲は5階層以降。》


「ほう、人食い花か……」


 リリエットはなぜか少し嬉しそうに目を細めていた。

 以前からなんとなく感じていたが、彼女は本当にダンジョン攻略を楽しんでいる。

 やはり、そういう血筋なのだろう。


「あ、僕らが会った個体のことも書いてあるよ」


 別の欄には、次のような追記もあった。


《3階層〜4階層にて、ごくまれに緑や紫の霧を纏ったトレントが出現する。動きが速く、霧を噴き出す特性あり。要注意。》


「紫の霧のやつもいるのか……」


「そうみたいだね。他に目ぼしい情報はなさそう。地図の情報は公開してないみたいだね」


「そうだな。だが、3階層までは一度踏破している。今日は4階層を目指すとしよう」


「うん。行けたら5階層までいけるといいけど、まずは慎重にいこう」


 ***


 ダンジョンに到着した僕たちは、過去のメモを頼りに、最短ルートで3階層まで駆け下りた。

 炎蜥蜴の斧は今日もその威力をいかんなく発揮し、トレントたちを文字通りなぎ倒していく。


 ──やはり、トレントには炎がよく効く。


 サハギンが多少炎に耐性を持っているのだとしたら、逆にトレントたちは炎に極端に弱いのだろう。


 3階層で未探索のルートを進むと、ほどなくして4階層へ続く階段を見つけた。


「どうする、ユニス」


「降りてみよう。……ただし、あまり奥へは行かず、階段付近の探索だけにしておこう」


「承知した」


 バックパックにはまだ余裕がある。

 慎重に、しかし手早く探索を進めていく。


 階段の周囲を探索しながら、何度かトレントと遭遇したが、戦闘自体は問題なく処理できた。

 体感だが、敵の強さも3階層と大きな差はないように思える。


 そんな中──


「ユニス、あいつ……目が紫色だぞ」


 リリエットの声に視線を向けると、確かに、一体のトレントの目が薄紫に光っているのが見えた。


 紫の霧を纏ってるわけじゃない。特殊な個体ではなく以前、掲示板にあった“ブドウをドロップする個体”だろうか。


 実際に戦ってみると、やはり他の個体と比べて特に強いわけでもなく、数手であっさりと倒すことができた。


 ドロップアイテムはやはりブドウだった。


 《黒曜ブドウ:食材》


「新しいアイテムも手に入ったし、今日はここまでにしようか」


「そうだな。あまり欲張っても良いことはないな」


 僕たちは満杯になったバックパックを背負って、ダンジョンを後にした。


 ***


 西門から迷宮都市に戻ると、門付近は普段よりも明らかに人通りが多かった。

 僕たちと同じようにダンジョン帰りの冒険者たちが次々と戻ってきている。

 おそらく、懸賞金の発表が影響しているのだろう。


 その時――


 背後から、軽く肩がぶつかった。


「あ、ごめんなさい!」


 咄嗟に謝った僕の前を、フードを被った人物が素早く通り過ぎていった。

 走り去るように小さくなっていくその背中は、あっという間に人混みに紛れて見えなくなった。


「ユニス、今……」


「うん。ちょっとぼーっとしてたね」


「そうではなく……いや、私の勘違いかもしれない。なんでもない」


 リリエットはなぜか言葉を濁した。


 ***


 ギルドでアイテムを換金する。

 最後に手に入れた黒曜ブドウと、道中ドロップした癒しの薬草を除いて、すべて売却した。

 今日の稼ぎは──720ゴルド。


 帰り道、リリエットがぽつりと口を開いた。


「やはり、おかしいな。私たちが今日倒したトレントの数は三十九体。薬草とブドウを除けば、買い取り金額は740ゴルドのはずだ」


「えっ……ギルドの人が間違えたのかな?」


「違う。さっきユニスが人とぶつかっただろう」


「……あ、あの時、落としちゃったのかも」


 バックパックは一杯で、確かに口を結んだひもは緩んでいたかもしれない。


「違う。盗られていたのであろう」


「……なるほど……」


 迷宮都市でも、スリや窃盗の話は時折耳にする。

 今回のように、リンゴかミカン一個の被害などまだマシな方だ。もっと深刻な被害もあるらしい。


「まあ、次から気をつければ問題ないだろう。私も注意しておこう」


「うん。ありがとう、リリエット」


 ダンジョン帰りの冒険者を狙うとは、すごい度胸だ。しかも、あの人ごみに紛れる素早さ……あれはもう、感心してしまうレベルだった。


 ***


 宿に戻った僕たちは、荷物を部屋に置き、一息ついていた。


「今日はどうするのだ?」

 リリエットがいつものごとく僕の部屋に居座って尋ねてきた。


「せっかくだから、ブドウを使ってみようかなと思って」

 僕は小さく笑って答えた。


 実は、ルークに使ったポーションの空き瓶を、ちゃっかりリリエットが持ち帰ってくれていた。

 この瓶を使えば、またポーションを融合で作ることができる。


 以前作った『癒しのミックスポーション』は結局ルークには使わなかったが、傷口修復(小)の効果がある。もしもの時に役に立つはずだ。

 

 トレントのダンジョンで手に入る果物は、これまで有効なポーションになることが多かった。ブドウも何か思わぬ効果を持ったポーションになるかもしれない。


「そうだな。良いポーションになれば、探索の時に心強い」

 リリエットは腕を組んで、まっすぐに頷いた。


「じゃあ、いくよ」


 僕は空きポーションの瓶と黒曜ブドウを両手に取る。

 呼吸を整え、意識を集中させる。


 融合。

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― 新着の感想 ―
むちゃくちゃサクッと4階層まで降りてる!?成長したなぁ
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